りぶ 『Riboot』

人の声は最高の楽器である

 ニコニコ動画から歌い手やボカロPがCDデビューすることは、もはやそう珍しいことではない。タワレコに行けば「ボカロコーナー」なるものが存在するくらい、ボカロや「歌ってみた」のCDはたくさん発売されている。ニコ動の「歌い手」であるりぶにとっても、今作はデビュー盤ではなく、2枚目のフルアルバムだ。りぶは2010年頃から「歌ってみた」動画を投稿し続け、その歌唱力で着実にファンを増やしてきた。彼の投稿動画の中には、実に100万再生を超えるものもいくつかある。そんな彼の「声」を堪能するのに最適なのが今作『Riboot』だ。およそ1年3ヶ月ぶりとなるこのアルバムで、りぶは文字通り「再起動」を遂げる。

 アルバムの1曲目は、みきとPによる書き下ろし曲”ヨンジュウナナ”。歌われるのはかなり具体的な言葉であり光景なのに、おそらくこの曲は聴く人によって表情を変える。〈ほらねやっぱり 胸が苦しくなったよ〉と囁くように歌うりぶの声は、今にも泣き出しそうで、押しつぶされそうに切ない。しかし、ニコ動で100万回以上という「本家超え」の再生回数を誇る2曲目”聖槍爆烈ボーイ”では打って変わって、男女の秘め事に振り回される青年の悩みを歌う。突き刺すような声で〈Maximum insert なう。〉と歌うりぶの声は、1曲目と同じ人物の声とは思えない。彼は声だけで、曲の主人公を演じ切っているのだ。

 元々はボカロPが紡ぎ、ボーカロイドに託した物語。そこに、りぶの声が新たなストーリーを添える。ボカロの曲というのは基本的に、曲の中の情報量が多い。音も言葉も、洪水のように押し寄せてくる。それなのにすっと耳に馴染むのはりぶの声の魔力だろう。「歌い手」である彼の声は、ある時は優しく、ある時は突き放すように、またある時は官能的に、聴くものを魅了して離さない。中でも異彩を放つのが、“ワンルーム・オール・ザット・ジャズ”。初音ミクが歌うオリジナル曲では一切の感情を含まず淡々と歌う声が魅力だが、りぶのカバーはとにかくエロティックで蠱惑的だ。歌い手が変わるとこれほどまでに雰囲気も変わるのか、と変化を楽しめる1曲である。

 今作にオリジナル楽曲を提供しているのはボカロPだけではない。全16曲の中で最も優しく響く最終曲“さよなら告げた”は、風味堂の渡和久による提供曲だ。〈青過ぎた春の純情〉も〈忘れられない17才の恋〉も〈あの子のいない放課後〉も聴き手にとっては知る由のない風景の筈なのに、どこか懐かしさを感じてしまう。りぶの声が風味堂のコーラスと重なって、優しく光る思い出にそっと別れを告げる。

 「歌い手」の名に恥じない声で、一曲一曲を見事に演じるりぶ。是非、アルバムの最後の最後まで、彼の歌唱力に酔いしれてほしい。人の声に勝る楽器は、きっとこの世には存在しないのだから。




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