【要約】リン・ホワイト「生態学的危機の歴史的根源」、『機械と神』収録

本noteでは、環境思想黎明期における主要著作、リン・ホワイトの「生態学的危機の歴史的根源(The Historical Roots of Our Ecologic Crisis)」(1967)を扱う。

同論文は、中世農業技術史が専門のリン・ホワイトの著作で、彼がアメリカ科学振興協会 (AAAS)で行った講演を元にした「講演論文」である。リン・ホワイトは、同論文において自身の専門である「中世農業技術史」の知見を用いて、環境問題の原因が西洋キリスト教の教義にあると指摘した。

書誌は以下である。

原著: Lynn White. (1967). “The Historical Roots of Our Ecologic Crisis”. SCIENCE. vol.155, no. 3767, pp. 1203-1207

邦訳:リン・ホワイト(1968/1972)「第5章 現在の生態学的危機の歴史的根源」『機械と神』みすず書房、青木靖三訳

全体要約

著者の見立てでは、生態学的危機つまり環境問題の発端は科学技術にあり、その歴史的根源は中世ローマ、キリスト教の教義にあるとする。キリスト教の「自然は人間のためにある」とする人間中心的な前提が、西欧文化から生まれた科学技術にも根付いており、それが生態学的危機を起こしたというわけだ。それに対してキリスト教の中でも異端者であるアッシジの聖フランチェスコを持ち出し、彼のもう一つのキリスト教の見解、「人間を含むすべての被造物の平等性(the equality of all creatures including man)」が危機を救うとしている。

○各節の要約

第0節 Introduction (序)

今日、科学技術が生態学的危機を起こしている。1850年以降、自然の本性を明らかにする科学と自然を手なずける技術が手を結び、それを元に、人間は自然を大きく変えてしまい、さまざまな環境問題を引き起こした。そうした生態学的危機の根源である科学技術の前提とは何だろうか。

第1節 The Western Traditions of Technology and Science (科学技術の西洋の伝統)

科学技術は、西洋の伝統を持っている。また、それは近代(17世紀科学革命、18世紀産業革命)から始まったことではなく、中世からである。12 世紀の学術書の翻訳運動、15世紀の航海技術などからわかるように、中世を踏まえて近代の科学技術が生まれたのだ。つまり科学技術を考えるには、中世の前提と発展を検討する必要がある。

第2節 Medieval View of Man and Nature (中世の人間観と自然観)

中世(西欧)において、当時の人間観と自然観はキリスト教によって深く条件づけられていた。キリスト教の人間観と自然観は特殊である。例えば、ギリシャには創造神話がなく、また周期的時間概念に基づいているが、キリスト教は、世界には始まりがあるとしており、また直線的な時間概念に基づいている。またキリスト教は人間に、自然に対する特権的な地位を与えていた。特に西方圏はその気概が強く、自然を人間のための被造物であるとしている。

第3節 An Alternative Christian View (キリスト教の別の見解)

現在、科学技術の発展によって環境問題を乗り越えようという流れがあるが、これまでみたように、そもそも科学技術にはキリスト教が措定する人間の自然に対する特権性が前提に置かれているため、生態学的危機が科学技術によって乗り越えられるとは考えられないだろう。ただそうしたキリスト教にも、アッシジの聖フランシチェスコという異端者がいる。彼は、自然と人間の関係に対してもう一つ別のキリスト教的見解、「人間を含むすべての被造物の平等性」を提案しており、彼の思想が生態学的危機の解決法となり得ると著者は考えている。

○キーセンテンス

「人間が自分たちの生態にかんしてなすことは、人間が自分たちの周りの事物との関係で自分のことをどう考えているかに依存している。(What people do about their ecology depends on what they think about themselves in relation to things around them.)」(邦訳, p. 86)

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