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生粋の石オタク。

「巡検始めて6年目になりますね。
やっぱり石採りに行くのって、特別な楽しさがあります。」

大学1年生の春を思い出す。

その時の私は、

「えー!?アンモナイトって、日本でも採れるんですか??」
「北海道で出るの!?へぇー!」

石なんか何も知らなかった。
ただの人。一般人。

同期は、
小さい頃から化石や鉱物に魅せられて育った、
生粋の石オタクたち。

私には、その人たちが
とてもかっこよく見えた。

自分も、
特別で専門的な知識を持つ、
「石オタク」になってみたい。

そんな思いが、私を巡検に連れて行った。

山に向かう車の中、

同期や先輩たちは
石や産地や地層、界隈の石オタク、研究者について語り合っていた。

まるで、異世界の言葉みたいだ。

知らない単語が多すぎて、会話に入れない。

それも、彼らは早口で喋っている。

山の中にあったのは、褐鉄鉱に覆われた、水晶だった。
塩酸で煮るとサビが取れて、キレイになるんだって。

それが6年目にもなれば、

「あっ、これ豊浦のジュラアンモですか?
このS字肋が良いですよねー羨ましい〜」

それっぽい切り返しもできるようになった。

ピックハンマーも、擦り減ってだいぶ丸くなった。

家の中には石が溢れかえって、
片付けども片付けども石が出てくる。

どの石にも思い出がある。

ひとつ、気がついたことがあった。

自分はどんなにやっても、
生粋の石オタクにはなれないのだと。

私が学んだのはせいぜい、
仲間と会話するのに必要な知識で、

語学の勉強をしたようなものなのだと。

大学院生。
私はいま、大学院生。

金曜日の夜、怪しい巡検カーに乗り込み、
山で石採り、
月曜日の朝、重い荷物と共に帰ってくる。

これがイマドキのJDなの…?
と父を悩ませるレベルの限界巡検生活が、
少しずつ遠ざかっていく。

「研究」で忙しいから?

思えば、アンモナイトもそんなに欲しくなくなってるのかも。

学部生時代の青春を捧げた
私の「石オタク」という属性は

だんだん、消えているのかも。

それで残ったのは、
やっぱり無知で、
何の取り柄も無い、

ただの自分だった。

そんな人が、専門家みたいな顔をして
地学を発信しますだなんて、
馬鹿みてぇだよ。

それでも、
「ただの自分」は、巡検に行きたい。

石オタクと一緒に巡検に行きたい。

沢を登っていくと滝があって、

藪漕ぎしてクマザザにしがみついてそれを越えたのに

辿り着いた露頭には何も無かった…笑

そういうので良い。

そこまでして、
石を採りに行くってのが面白い。

才能も、知識も無くて良いか。

石が好きな人と一緒に
石を採りにいくのが好きなんだ。

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