2024/2月第二週のゾンビ論文 ゾンビ衛星の再生計画

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie philosophical

  4. 「zombie Chalmers

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

  • 「-firms」:ゾンビ企業

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビ

  • 「-drug」:ゾンビドラッグ

  • 「-network」:情報科学系の論文ならなんでも

  • 「-DDoS」:ゾンビPC

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬

  • 「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。また、検索条件3と4は「philosophical」と「Chalmers」と、どちらがより哲学的ゾンビを排除できるか見るために設定した。

今回、2/6~2/10の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」二件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」12件(検索条件1との差分は十件)

  3. 「zombie philosophical」11件

  4. 「zombie Chalmers」九件(検索条件3との差分は二件)

検索条件1は天文学、評論が一件だった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」


ゾンビ衛星の第二の人生に向けて:異常発生とリサイクル可能性の評価

一件目。

アラート日付:2月6日
原題:Towards a second life for Zombie Satellites: Anomaly occurrence and potential recycling assessment
掲載:Acta Astronautica
著者:Jeimmy Nataly Buitrago-Leivaを筆頭著者として、四名
ジャンル:天文学

地球の上空を回るスペースデブリ。そのうちいくらかは故障などで放棄された人工衛星であるという。しかし、放棄されてはいるものの致命的な故障が起きていないケースもあり、それらは"Zombie Satellites"(ゾンビ衛星)と呼ばれる。ゾンビ衛星の再利用可能性を調査するのがこの論文の目的である。

While these satellite failures may not be catastrophic, certain subsystems could still be repurposed for alternative uses beyond their initial design. This study aims to assess the feasibility of “recycling” partially failed satellites, also known as “Zombie Satellites”, by statistically evaluating the severity of their anomalies and quantifying their remaining capabilities and limitations.
(これらの衛星の故障は壊滅的なものではないかもしれませんが、特定のサブシステムは当初の設計を超えて別の用途に再利用できる可能性があります。 この研究は、「ゾンビ衛星」としても知られる部分的に故障した衛星の「リサイクル」の実現可能性を、異常の重大度を統計的に評価し、残存する能力と限界を定量化することによって評価することを目的としています。)

同論文より

ジャンルは天文学としておく。


20世紀と21世紀の北アメリカとイギリスの超常現象ホラー映画とテレビ番組における島

二件目。

アラート日付:2月10日
原題:The Island in Northern-American and English 20th and 21st–centuries Paranormal Horror Films and TV-Shows
掲載:Encyclopédie Numérique d’Études Insulaires
著者:M. Francisca Alvarenga
ジャンル:評論(文化批評)

島を舞台にしたホラー映画の評論。それぞれの映画において「島」が象徴するモノは何か、そして共通することは何かを論じている。ゾンビ映画はアフリカやカリブ海の島を舞台にすることがあるため、取り上げられている。

ジャンルは評論。ゾンビ映画で島と言えば植民地支配(=ポストコロニアル)が思い起こされるが、全体としては「島」の読解がメインにであるため、文化批評辺りが妥当か。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。

ゾンビ、ブードゥー、ウェス・クレイヴンの『ゾンビ伝説』に関する13の断片

アラート日付:2月6日
原題:Thirteen Fragments about Zombies, Vodou, and Wes Craven's The Serpent and the Rainbow
掲載:Theology and Wes Craven
著者:Chistopher Garland
ジャンル:評論

「-drug」および「-network」で排除。『エルム街の悪夢』や『スクリーム』シリーズでおなじみのウェス・クレイヴン監督による『ゾンビ伝説』(原題:The Serpent and the Rainbow)を読み解く論文。


死んだモールと右翼ポピュリズム

アラート日付:2月6日
原題:Dead Malls and Right-Wing Populism
掲載:Encyclopedia of New Populism and Responses in the 21st Century
著者:Anthony Ballas
ジャンル:経済学?

「-narrative」および「-drug」、「-gender」、「-network」で排除。内容について、アブストラクトの冒頭を引用する。

This chapter delves into the captivating intersection of decaying malls, the pervasive influence of zombie narratives, and the sociopolitical landscape of right-wing populism. Dead malls, reminiscent of economic downturns and societal shifts, become the focal point for dissecting the complex sociopolitical undercurrents which reflect as well as fuel populist ideologies.
(この章では、朽ち果てたショッピングモール、ゾンビの物語が及ぼす広範な影響力、そして右翼ポピュリズムの社会政治的景観が織り成す魅惑的な交差について掘り下げていきます。経済不況や社会の変化を彷彿とさせる死んだモールは、ポピュリズムのイデオロギーを反映するだけでなく、煽動する複雑な社会政治の底流を解剖する焦点となる。)

同論文より

朽ちたショッピングモール(=経済不況)がゾンビとポピュリズムを連想させるらしい。なので、ゾンビの物語と右翼ポピュリズムの「魅惑的な交差」を語るらしい。連想というか妄想に近いように感じられる。


死よりも恐ろしいことは何でしょうか? 『The Last of Us』の複雑な存在を解きほぐす

アラート日付:2月6日
原題:What could be worse than death? Untangling entangled existence in The Last of Us
掲載:The Unhuman
著者:Andy Lee
ジャンル:人文学

「-narrative」および「-gender」で排除。『The Last of Us』を非人間中心主義という観点から読み解く論文。


条件付きおよび一般的な態度

アラート日付:2月6日
原題:Attitudes, Conditional and General
掲載:Linguistics and Philosophy(リンク先はPhilArchives)
著者:Daniel Drucker
ジャンル:哲学

「-philosophical」で排除。この論文は、哲学系の論文を扱うアーカイブサイトPhilArchivesに掲載されているが、哲学的ゾンビを扱ってはいないようだ。


ゾンビ・ナショナリズム:白人の福音派キリスト教ニヒリズムの性的政治

アラート日付:2月8日
原題:Zombie Nationalism: The Sexual Politics of White Evangelical Christian Nihilism
掲載:Religion, Populism, and Modernity: Confronting White Christian Nationalism and Racismの第二章(リンク先はPhilArchive)
著者:Jason A. Springs
ジャンル:社会学

「-gender」および「-network」で排除。福音派とも呼ばれる、保守的なキリスト教徒のナショナリズムを批判する論文。この論文の著者によれば、トランプ元大統領は白人キリスト教徒の福音主義に内在するナショナリズムの体現者であるらしい。そして、福音派のナショナリズムは過去にも何度も現れては消えるとのこと。ナショナリズムが何度も死んでは蘇る様を「ゾンビ・ナショナリズム」と呼んでいるようだ。

「ゾンビ・ナショナリズム」は過去にも扱った覚えがあるが、この論文(紀行文?)が掲載されている本そのもののレビューを行っていた。なぜ今更、また検索に引っ掛かったのだろうか。


神聖なものは何もありません。現代小説における率直な声。

アラート日付:2月8日
原題:Nothing Sacred; Outspoken Voices in Contemporary Fiction.
掲載:このタイトルの本がある
著者:Bernard Schweizer と James Morrow
ジャンル:小説

「-narrative」で排除。短編小説集。ゾンビが出てくる小説も収録されているのだろう。


ダーク ゾンビ生態学: 変容するゾンビの森をトレッキング

アラート日付:2月8日
原題:Dark Zombiecologies: Trekking through the Transformative Zombie Forest
掲載:Monsters and Monstrosity in Mediaの第四章
著者:Yeojin Kim と Shane Carreon
ジャンル:メディア学(上記リンク先では社会学とされている

「-narrative」で排除。この論文を掲載している本は"Monsters and Monstrosity in Media"というタイトルで、monsterとmonstrosityの和訳が難しいが、たとえば、「怪異と怪物」とでもすれば論文の言わんとすることがはっきりするように思う。

"monster"は古代の神話や民間伝承といった物語全般に現れ、超自然的なモノ・コト、異常事態の説明として機能してきた。その"monster"の受け入れられ方がメディアの変遷に伴ってどう変わってきたかを調査した…というのが本全体のテーマだと思われる。

この論文においては、ゾンビは次のように描かれるのだそう。

Joshua Nieubuurt’s “Dark Zombiecologies: Trekking through the Transformative Zombie Forest” examines the rhetorical transformation of cinematic zombies as a projection of societal anxieties and collective fears. While zombies are a relatively new monster in Western culture, they are established as a cultural metaphor representing the social anxieties of their respective time period.
(ジョシュア・ニューバートの『Dark Zombieecology: Trekking through the Transformative Zombie Forest』では、社会的不安と集団的恐怖の投影としての映画ゾンビの修辞的変容を考察しています。 ゾンビは西洋文化においては比較的新しい怪物ですが、それぞれの時代の社会不安を表す文化的な比喩として確立されています。)

『Monsters and Monstrosity in Media』のIntroductionより


心体問題と形而上学: 意識から精神的実体への議論

アラート日付:2月10日
原題:The Mind Body Problem and Metaphysics: An Argument from Consciousness to Mental Substance
掲載:The Philosophical Quarterly
著者:Alex Moran
ジャンル:哲学

「-philosophical」で排除。哲学的ゾンビを扱う論文。


ハイパラメータフローサイトメトリーのためのコンビナトリアル抗体滴定

アラート日付:2月10日
原題:Combinatorial antibody titrations for high-parameter flow cytometry
掲載:Cytometry Part A
著者:Olivia K. Burn と Florian Mair、 Laura Ferrer-Fontの三名
ジャンル:医学

「-drug」で排除されたと推測。ゾンビ試薬を使う論文。使っているのはZombie NIR。


医薬品政策コンステレーションの紹介

アラート日付:2月10日
原題:An Introduction to Drug Policy Constellations
掲載:Drug Policy Constellations: The Role of Power and Morality in the Making of Drug Policy in the UKの第一章
著者:Alex Stevens
ジャンル:政治学

「-drug」および「-network」で排除。薬物・医薬品に関する政策決定プロセスの説明。政治が対応すべき課題として、ゾンビドラッグことキシラジンを紹介したのだろう。



「philosophical」と「Chalmers」の差分

検索条件3と4の差分を確認した。それぞれ、検索ヒット数は11件と九件で、哲学的ゾンビを扱う論文は二件と五件だった。「Chalmers」の方が哲学的ゾンビをよく排除している一方で、「philosophical」は私の求めていない論文その他諸々を一挙まとめて排除していた。

差分がたったの二件ではあるから、たとえば検索条件1で「-philosophical」を使用し、取りこぼし確認の検索条件で「-Chalmers」を使用すれば、アラート確認の労力を減らすことができるかもしれない。


検索条件3(ヒット数:11件)

以下の通り、三日で11件のヒットがあった。うち、哲学的ゾンビを扱っていると思われるのは二件だった。的中率は18%。

  1. Attitudes, Conditional and General(条件付きおよび一般的な態度)

  2. РОЛЬ ТЕХНОЛОГІЙ ТА СОЦІАЛЬНИХ МЕРЕЖ У ПОШИРЕННІ ХАЛЛЮ(韓流の普及におけるテクノロジーとソーシャルメディアの役割)

  3. Hallucination: Philosophy and Psychology(幻覚: 哲学と心理学)

  4. Preserving the Normative Significance of Sentience(感覚の規範的重要性を維持する)

  5. “Who Did I Jettison into Space?” Complicity as a Tool for Narrative Expression in INSIDE and The Swapper(「私が宇宙に投棄されたのは誰ですか?」 INSIDE と The Swapper における物語表現のツールとしての共謀)

  6. EXISTENCE OF PARALLEL UNIVERSES AS SACRED TIMELINES: NARRATIVE CONCEPT IN MODERN FICTIONAL WORKS (神聖な時間軸としての並行宇宙の存在: 現代のフィクション作品における物語の概念)

  7. An Error Analysis of Communicative Effect Taxonomy in Students’ Writing Descriptive Text at the Tenth Grader Students(10 年生の生徒による説明文の作成におけるコミュニケーション効果分類法の誤り分析)

  8. Human Behavioral Ecology(人間の行動生態学)

  9. “Trust in God, but tie your donkey”: Holy water priest healers’ views on
    collaboration with biomedical mental health services in Addis Ababa, Ethiopia
    (「神を信頼せよ、ただしロバを縛りなさい」: 聖水司祭ヒーラーの見解 エチオピア、アディスアベバの生物医学メンタルヘルスサービスとの協力)

  10. Killing the Black Body(黒い体を殺す)

  11. The Mind Body Problem and Metaphysics: An Argument from Consciousness to Mental Substance(心体問題と形而上学: 意識から精神的実体への議論)


検索条件4(ヒット数:九件)

以下の通り、三日で九件のヒットがあった。うち、哲学的ゾンビを扱っていると思われるのは五件だった。的中率は56%。

  1. Embodied Mind in Bionic Brain: Posthuman Consciousness in Alex Garland's Ex-Machina(バイオニック脳に体現された心: アレックス・ガーランドのエクス・マキナにおけるポストヒューマンの意識)

  2. Human Extinction and AI: What We Can Learn from the Ultimate Threat(人類滅亡とAI:究極の脅威から学べること)

  3. Seems Pretty Real: An Examination of 9/11’s Impact on the American Post-Apocalyptic Novel(かなり現実的だ:9.11 がアメリカの黙示録的小説に与えた影響の考察)

  4. Hallucination: Philosophy and Psychology(幻覚: 哲学と心理学)

  5. Preserving the Normative Significance of Sentience(感覚の規範的重要性を維持する)

  6. Self-Representational Approaches to Consciousness(意識への自己表現的アプローチ)

  7. The Mind Body Problem and Metaphysics: An Argument from Consciousness to Mental Substance(心体問題と形而上学: 意識から精神的実体への議論)

  8. PROCESS, CONSCIOUSNESS, AND INTEGRATED INFORMATION(プロセス、意識、統合された情報)

  9. Does Panpsychism Mean That “We Are All One”?(汎心主義は「私たちは皆一つである」ということを意味するのでしょうか?)



最後に

検索条件1は天文学、評論が一件だった。

ゾンビ衛星は、字面こそ面白かったが、内容を知った後では興味を失ってしまった。まあ、そういうゾンビもあるんだろうな~くらいの気持ち。

また、「Chalmers」は哲学的ゾンビが主題の論文しか引っ掛けないと思っていたが、哲学的ゾンビにちょっとしか触れない論文すらも引っ掛けている点が以外だった。

そして、三日分を一日だけでまとめると大層疲れることがわかった。大変しんどい。アラートメールが届いたら逐次対処しなければ…。

今回はねらいの論文がなかった。


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