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ナツノオト

ああ、夏が逝ってしまうよ。石鹸の匂いをきつく残しながら、剃刀の鈍い刃で切り取られて逝く。

まだ、私はキミを手中に収めていないのに、するりするりと逃げるばかりで、どうして、キミは捉まえられない。

焼き尽くす、夏。秋が来るならば、まだ、まだ? まだ、夏は続くの? 本当に? 誰が言いきれる?

貴方の潤んだ瞳が、こちらに向くこともなく、夏、キミは行ってしまう。

夏はしたたかで儚い。私を強く睨みつけたかと思えば、あっという間に倒れてしまう。


どうにも熱いこの両手の中に、泣いてるみたいに強い力で閉じ込めたと思っても、夏、キミはそこにはいないんだ。

夏は永遠に閉じ込められない。ごはんのあとに食べようと思ってたお菓子みたいに、いつまでもいつまでも、お腹には入らない。


だから、もういっそ、目を閉じて。


キミの全てを耳に泳がすよ。キミの音は特徴的で抒情的で感傷的なので、目で触るより、耳で舐めた方が、ずっと濃い。

朝顔の笑う声、かき氷の逃げる音、セミの泣き声、太陽の唄、ひまわりの嘆き、すべてがこの耳に、あつい。


暑いね。でも、逝ってしまうね、夏。


さようならする前に、もう一度聴かせて。貴方の、その目に映った、馨しく切なく苦しく、何にも替えがたい、一度きりの 「夏」 を。


#詩

#夏

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