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チョコレート実験

応援している音楽家の方とお話しした時に、面白いことをおっしゃっていたので書き留めておこうと思う。

長生きしたいかどうか、という話題で、彼は健康で長生きして楽しんで、大切な人、応援してくれる人、みんなを見送るんだ、というようなことをおっしゃった。ちなみに私はあまり長生きはしたくない派、なぜならずっと元気で健康でいられる自信が全くないことと(笑)、見送るより見送られたいという誠に自分勝手な理由からである。

健康で長生きすることが長生きしたいと思える大前提だ。でも、私の中ではそれは、努力で絶対に成しえることができるもの、ではない。努力でその可能性を高めることはできるけれど。
そう私がつぶやくと、彼もまあねぇ…とつぶやいた。そして、こんなことを言った。
「僕もね、チョコレート実験に失敗したからね。」

ここで話を聞いていた皆が首をひねった。チョコレート実験?いったいなんだろう、何かの比喩だろうか。

それは彼の思いついた壮大な実験だった。
もし彼が長生きして、永遠の命を手に入れることができたら、タイムスリップができる時代まで生きていられるかもしれない。タイムスリップができたなら、それを今の彼にこっそり知らせるために、ベランダの目につくところにチョコレートを置いて帰る、という行動をすることを決めたのだという。
だから彼がベランダの窓を開けて、そこにチョコレートがあったら、その証明なのだ。

彼はそれを10年以上前に思いついたのだけど、いまだにベランダでチョコレートを見つけたことはないと言った。それは彼がタイムスリップできる時代にたどり着けなかったという証明なのかというと、そうとも言えない。たどり着けたけど、よく言われるように未来にしかタイムスリップができないだけなのかもしれない。また、過去にタイムスリップできたけど、何らかの理由でチョコレートを置くことができないのかもしれない(例えば最近言われるカカオ不足が顕著になって、チョコレートを入手できないとか)。

その結果はともかくとして、私はその想像の翼の広げ方、壮大さに感動してしまった。そしてそれを実行する柔らかい思考と感性……ゼロから何かを生み出すアーティストというものは、こういう才能をもっているのかと。

そのおこぼれに与った私も、チョコレート実験に参加しよう。うっかり長生きして、タイムスリップできる時代にたどり着いたら、チョコレートをベランダに置こう。
これからベランダを見るのが楽しみになりそうだ。

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