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12の悪いクセとやさしい表現

「◯◯はな〜、くいしんぼうやねん」

と目の前の女の子がにっこり笑う。次々出てくる食べ物をパクパクと美味しそうに食べ続ける6歳の彼女を見て、「ずいぶん食べるね」となかば心配して声をかけたら、そんなふうに返された。「くいしんぼう」という表現が可愛らしくて思わず笑った。

「くいしんぼう」という言葉を聞いて、8歳娘がいま読んでいる『クレヨン王国 新十二か月の旅』をふと思い出した。

『クレヨン王国新十二か月の旅』は続き物で、

前作『クレヨン王国の十二ヶ月』では、12の悪いくせを持つシルバー王妃の悪いところを直さないと帰らない、とゴールデン王が家出する。シルバー王妃の12の悪いクセは以下のとおり。

・ちらかしぐせ
・お寝ぼう 
・うそつき
・自慢屋 
・ほしがりぐせ
・偏食
・いじっぱり
・げらげら笑いの、すぐおこり
・けちんぼ
・人のせいにする
・うたがいぐせ  
・おめかし3時間

旅を通して、この12の悪いクセを直したシルバー王妃だけれど、『クレヨン王国新十二か月の旅』の冒頭では、その悪いクセがなくなったシルバー王妃は、いつもの笑顔をなくしてしまって、目に見えるものが光をなくしてしまった。ゴールデン王は笑顔をなくした王妃を見て、「自分はわがままだ」と語る。王妃に悪いクセを直してほしいと言って家出したのに、次はもとのシルバー王妃になってほしいと思うなんて、と。『クレヨン王国新十二か月の旅』は、そんなシルバー王妃が、また違った12の悪いクセを持つ、野菜たちとともに旅に出て、【悪いクセを取り戻していく】お話だった。

悪いクセを更生したら、その人らしさが失われて、目に映るものの光が失われてしまった、なんて。すごく悲しくて、そしてなぜかたくさん見てきた光景のようでもある。良さと悪さは本当はコインの裏表のように表裏一体だから、悪さをなくすと良さもなくして、結局その人ではなくなってしまう。

よく読み直してみると、12の悪いクセの表現はとても面白い。

「片付けない」ではなくて「ちらかしグセ」だし、「素直じゃない」じゃなくて「いじっぱり」だ。「◯◯ない」じゃなくてそれをその人の特徴としてそのまま表現している。「寝坊」なんて「お」をつけて「お寝坊」だし、「げらげら笑いの すぐおこり」なんて五・七でリズムもいい。

お話のなかでは、おこりんぼのトマトマトは意地を張りすぎて収容所に捕まるし、せかせかしているソソソナスは待ちきれずにつり橋を渡って落ちてしまった。それでもなんやかや旅は進むし、生きている。

「欠点(失っているところ)」ではなく、あくまで「悪いクセ」として語られるこの表現が、とても愛しくて、とても優しい。


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