見出し画像

サチコ、東京のサウナに行く③「電気湯」

こんにちは。サウナのサチコです。

今回は京成曳舟駅から徒歩7分くらい(例のごとく道に迷ったから、大体の時間です)のところにある「電気湯」さんに行ってまいりました。

え? 「寺島浴場」さんじゃないのかって? 前回寺島浴場の臨時休業にぶつかってしまった私ですが、フラれてすぐに会いに行けるほどメンタル強くないので、今回はその近くの電気湯さんに行ってみることにしました。

画像1

もう、この外観にやられます。

例のごとくバイト帰りに寄ったので、17時過ぎくらいに到着したかと思います。この時、ほとんどの下足入れが埋まっていました。大人気です。平日の夕方ならまだサウナは空いている・・・というのはサウナがメインの温浴施設の話であって、銭湯メインの所は夕方が混むということを忘れていました。

下足入れは昔ながらのもので、木札も結構痛んでいましたが、そこから中に入ろうとする扉は自動ドアです。古いものと新しいものの融合。そして入ってすぐ左の券売機で「サウナ&お風呂代」を支払い振り返ると、カウンターには若い男性が座っています。古いものと新しいものの・・・これは違うか。

「電気湯」に行ったら絶対聞こうと思っていたことがあったはずなのに、ちょっと若くてカッコいい人に会うと、すべてを忘れる私。ええと、何を聞こうとしてたんだっけ。目が泳ぎます。ふとお兄さんの横のホワイトボードに、男サウナ0、女サウナ2という文字を見つけました。それを見ながら私は「今日は混んでいるんですか」と謎の質問をしてしまいました。「2」って書いてあるのに。

お兄さんは優しい声で「昨日雪が降ったので、今日はちょっと混んでます」と答えてくださいました。おそらくお風呂の方だと受け取ってくださったのでしょう。そのままサウナ利用者用のフェイスタオルを一枚もらって、私は女湯の暖簾を潜りました。結局、聞きたかったことを思い出せぬまま。

広い脱衣所。中にいるのは殆どおばあちゃんです。ロッカーには個人名が記されているものもあります。常連さんのロッカーでしょうか。腰が悪いのか足が悪いのか、この場所でなければならない理由があるのだろうなと想像します。

裸になっていざお風呂へ。

お兄さんが言っていたように、結構混んでます。入り口近くのカランの前に座るとすぐに隣の方から、「あっちの奥が空いてるよ」と満面の笑みで言われました。もしかしてあっちの方はシャワーヘッド付きなのかな。いい人だなぁと思い「ありがとうございます」とお礼を言って場所を移りました。が、別に先ほどの場所と装備は変わらず。そしてこのレーンも同じく混んでいます。

やられた。

つまり、私が横にいると邪魔なんです。やんわり「あっち行けよ」と言われたのです。どう良い方に考えようとしても、それしか理由は考えられませんでした。ここはなかなか手強い人がいるみたいだぞと覚悟しました。

気を取り直し、体を清めてすぐにサウナへ。お風呂も結構密ですから、ここはサウナに避難です。するとサウナ室のドアが、少し空いているじゃありませんか。

画像2


石のようなものが挟まっていました。もしかして定期的に換気でもしているのかなと中を覗くと、


画像3

目が合いました。

中で横になっていたご婦人が私を見て、慌てて体を起こしました。

「あら、ごめんなさいね」

ご婦人はすぐにドアに挟まっていた石を拾い、

「ここ、熱いから軽石を挟んでいるのよ」

と、笑顔。

当たり前のように言われると「そうですか」とついこちらも笑顔で返してしまいます。いやいや、それマズイですって。

「だってここ、熱いでしょう」

何かを察したのかご婦人が説明を加えます。説明になってないけど。「熱い」って何度だろうと中を見渡すと、奥に温度計がありました。94度です。ドアが少し開いているのに確かに結構な温度です。いやいや、流されちゃいけない。

「私、熱い方が好きです。女性のサウナ室って低い温度設定のところが多いので」

精一杯、角が立たぬように私は言い返してみました。するとご婦人は肩をすくめて「え〜っ(笑)」と大げさに驚く始末。・・・一枚も二枚も上手です。

「ここね、ドアをちょっと開けて横になってると、すごく気持ちいいのよ」そう言われて、なんとなく私が来たことでその気持ち良い時間を邪魔をしたような気になり、「そうですか・・・」と小声で頷いてしまいました。

「このバスタオルだけどね、」

と、ご婦人が急に自分の体に巻いているものを指差します。「私、体に傷があってこれ巻いてるの。ごめんなさいね」

もう、ずるい。そういう話に弱いのでほんとやめて欲しい。と思いながらすっかりこれで、ご婦人の味方になってしまう私。よく見ると色白で綺麗な人です。品があるというか。話し方も優しいし。もうマナー違反なんかどっかにいってしまいました。ご婦人は私の顔をじっと見つめて、

「最近、見たことのない若い人が多くなってきたのは、ここが熱いからなのかしら」

「そうだと思います(注:若い声で)」

そこからなぜかネットやラインの話に。

「3年前にスマホに替えて、ラインも最近始めたんだけど、あれって難しいわよね。返信の仕方によって勘違いされたりするじゃない」

「は・・・?」

もしかしてうっかり可愛いスタンプとか返して、男性に好意を持たれてしまった自慢話なのかと思って聞いていたら、「そっけない返事をすると友達に怒っているように思われてしまう」という話でした。なんだ。

「あなた、お勤めされてるの? 今日はお勤め帰りなの?」

「ええ(バイトだけど)」と答える私に、「私もお勤めしてたんだけど」とご婦人は食い気味に言い、そのまま自分のOL時代の話へと強引に持って行きました。

「私の前に座っていた後輩(男性)が、会議の時間をメールで知らせてくるのよ。目の前にいるんだから口で言えばいいのに」

どうもそれはスマホのラインの話ではなく、パソコンのメールの話のよう。その後も話は時系列には進まず、「ネット社会と私」という共通のテーマで語ってはいるものの、それがスマホなのかパソコンなのか、ラインなのかメールなのか一切分からず混乱します。そして話は永遠に続く。こりゃ一度外に出ないとまずい。せっかく密を避けてサ室に入ったのに、ここはもっと密です。もしかしてこの人、本当は熱いの平気なんじゃないの?

画像5

そう思い始めたところでご婦人の方から「そろそろ体を洗ってくるわ」と話を切り上げてくれました。さらに「ちょっとごめんなさいね」と言いながら私の前にあるストーブに、自分が巻いていたバスタオルをかけて行く・・・。

体の傷はどうした。


ストーブはご婦人のバスタオルに覆われ、せっかくの熱は上へ上へといくばかり。私は上段に座り直しました。

やっと一人になれた。

ストーブの上にはやかんが一つあります。「うごかさないで」というマジックで書かれた太い文字が見えます。訴えているような、ちょっと震えた文字です。ようやく流れ始めた汗を拭ってふと下を見ると、さっきのご婦人の座っていたところに砂時計が一つ。所在無げに転がっています。ここはテレビも時計もない空間。一人だったら本当に最高です。一人だったら。

温度計を見ると104度。ご婦人が軽石を挟んでいた時より、10度も上昇しています。わずかな時間でこれだけの温度になるなら、本当は何度あるのでしょうか。 ちょっともったいないなぁ。 

結局、ご婦人込みのトータルで15分くらいは入っていたでしょうか。時計がないので甚だ曖昧ではありますが。こんなにサウナに入っていたのは久しぶりです。重い腰をゆっくり上げて、私はサ室を出ました。

水風呂に入り、カランの前に座ると、ものすごいあまみが出ていることに気がつきました。普段は腕にしか出ないあまみが、胸にも足にも出ています。遠くで人の声や水の音がぼんやりと聞こえていて、ととのうのには十分な環境です。それなのに鏡に映る自分の顔が、さっきのご婦人になっていく。

・・・ととのえない。

でもこのままじゃ帰れません。水分をたっぷりとって、もう1セットだけ。そう思ってサ室に入り直しました。すると、ほどなくして入ってくる例のご婦人。今度も優しい声で話しかけてきます。困ったな。しかも今度はこんなことまで言い出すんです。

「みんな今、人に会えなくなって寂しいのよね」


もう、ほんとやめてってば。

「すみません、体を洗ってきます」

すべてを諦めて外に出ようとする私の背中に向かって、「そこにある洗面器使っていいわよ」とご婦人。水風呂の前に洗面器が置いてあります。それは別に彼女の私物でもなんでもなく、入り口に重ねてあるケロリン洗面器の一つでした。言われた通りにそれで汗を流す私。ずっと彼女の意のままに動いている気がするんですけど。

気分を変えるためにカランの前でもう一度、頭の先から足の先まで丁寧に洗い直しました。後ろで彼女が他の常連さんと、親しげに話している声が聞こえます。どこが「みんな寂しい」の。すごく楽しそうじゃないのさ。

「お先に〜」「おやすみ〜」彼女と言葉を交わす人が後を絶ちません。そこでようやく私は気がつきました。

ヌシだ。


ヌシは体がゴツくて声が太くて威圧感があって・・・なんていう先入観があったから、ちっとも気がつきませんでした。彼女はここのヌシに違いありません。いやヌシの一人と言った方が正しいのかも。だって最初に「あっちの奥が空いてるよ」と言ってきた人も、ヌシだったのかもしれませんから。

結論。

ここのヌシは皆、笑顔。


お風呂にも入らず、2セットだけの短い滞在でしたが、本物のヌシに会えたのは初めてだったので、貴重な体験をしました。

ヌシの話で始まり、ヌシの話で終わってしまいました。でも、電気湯さんのサウナはとってもいいですよ。とってつけたように聞こえるかもしれませんが、それは本当です。もう一つ、とってつけたように言いますが、私はヌシを否定しているわけではありません。あまりにも強烈な1日だったので、つい書いてしまいましたが。

むしろ常連さんにとっては、私の方が鬱陶しい存在だと思います。たった1回来たくらいで、マナーがどうとか言って、交流も避けようとするんですから。私はもう決して若くはないけれど、それでも電気湯に通う人たちのようなコミュニケーション能力は未だにありません。むしろ年齢を重ねるにつれ、一人の方が楽だと思うことの方が多くなったような・・・。私は銭湯サウナが大好きだと常々言っておりますが、まだまだそれに見合う人間性も人生経験もないってことを、今回痛感しました。


10円を入れて2分間ドライヤーをかけていたら、小さな壺が目に入りました。中に砂時計がゴロゴロと入っています。3分計って書いてある。これを持ってサウナに入るんですね、きっと。トイレは脱衣所の外にありました。本当の外です。さらにトイレのドアの外側には「ノックして」と張り紙があり、中には「鍵をかけないで」と書いてあります(笑)。

色々面白いんです。何度も通ったら、もっといろんな発見がありそうです。ヌシともきっと仲良くなれると思う。私がもっと心の扉を開けば。今日は軽石を挟んだくらいしか開けませんでしたが(笑)。


電気湯を出ると、目の前の風景にちょっと驚きます。

画像4

来たときには見えませんでした。古くからあるものの後ろに、新しいものがあったなんて。

そして帰るときは古いものを背にして、新しいものに向かって歩いていくんです。ただ、帰りも私は道に迷いましたが。


滞在時間 1時間ちょっとくらい

料金 670円(サウナ込み。フェイスタオル1本レンタル付き)


あ、電気湯さんに行ったら聞こうと思っていたこと、思い出しました。

「なんで電気湯さんていう名前なんですか?(電気風呂ないのに)。昔、電気でお風呂を沸かしていたという噂は本当?」

これです。答えはわからぬまま。でも、ビリビリ刺激的な体験はできました(笑)。


次回はJR駒込駅からすぐのところにある「ロスコ」です。

寺島浴場はいつ行くのかって? 自分でもわかりません。それではまた。


サウナのサチコ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?