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「なぜ脳はアートがわかるのか」(エリック・R・カンデル著)

”心”というものが、胸の中に存在するイメージは、昔から広く持たれていました。「リボンの騎士」に描かれていたように、ハートマークがポコっと入っているみたいな。でも実際には胸を開いてもそんな臓器は無いわけで、私たちの感じ方や思考は全て脳がやっているわけです。
最近、研究が進む脳科学から、学ばないでいる理由がありません。
わたしたちは何を美しいと感じるのか。何に感動するのか。そのことがわたしたちの思考にどのような影響を及ぼすのか。

この本には「現代美術史から学ぶ脳科学入門」という副題がついています。主に抽象絵画を脳がどのように捉え、認識しているかということがメインテーマで、私が探していたものにどんぴしゃでした。
白い装丁に、黒々とした明朝体のタイトルが美しい。アルファベットの書体もオシャレ。本屋さんで医学書のコーナーに置かれていました。こんな本に出会える、都会の大きい本屋さん、万歳。

(目次より)
第2章 アートの知覚に対する科学的アプローチ
第5章 抽象芸術の誕生と還元主義
第8章 脳はいかにして抽象イメージを処理し知覚するのか

などなど…
見るだけで唆られます。
カラーの図版もたくさん入っていて、手に取りやすくなっています。
もちろん医学的な内容ですので、私の理解力では一読で読み取れない部分も多いです(もっと初心者向けに書かれた本でも、脳の構造やシステムはなかなか理解できません…)。
内容を自分のものにするためには、何回も繰り返し読まないといけません。でも最後まで読みきるために、最初は自分に必要な部分だけを抜き取りながら流し読みをします。

私は切り絵が好きで、よく作るし、たくさんの切り絵の作品も見ています。
切り絵好きが陥りがちな方向性のひとつに、「より細く、より細かく」を追求しちゃうことがあります。技術が上がることに喜びを見出してしまう。何となく、「それでいいのかな?」とは思うことがあったのですが、それのどこが良くないのかは説明できませんでした。
そして作品を見ながらよく言われるのが「これ、絵で描いたらだめなんですか?」という無邪気な一言!これにも反論できない。うーん、そうかもしれませんね、でも自分は切るのが好きなんですよと(内心歯ぎしりしながら)笑顔で答えるしかない。
そのモヤモヤを説明できる一文がありました。

物体のテクスチャーは、その物体が目によって知覚されたのか手によって知覚されたのかを問わず、それに隣接する脳領域、内側後頭皮質の細胞を活性化させる。

p.50〜51より

そう、’テクスチャ’というものの認知。
視覚だけでも脳はテクスチュアを判断し、刺激を受けている。そういえば見ただけで「この素材はふわふわしている」「この素材はさわったら痛そう」などと感じていますよね。同じように、紙に描いた線と、紙を切り取った線のテクスチャの違いはしっかりと脳に受け取られているはずです。
その上で、”技術に走りがちな落とし穴”に気を付けないといけないことが分かる。視覚で、切ったものと分からないと意味ないのだと。描いたものと寸分違わぬ細く美しい線を切り取って、紙に貼り付けると、脳が描いた線と捉えてしまう可能性が高い。そうすると、描いた線(=より、多く目にするもの)を見たと同程度の刺激しか受けないのではないでしょうか(詳しいところはまだ理解しきっていませんが)。紙を切る表現にこだわるなら、紙を切ったのだと分かるようにしないと意味がないのです。
これは描いたのではなく紙を切ったんですよ。と説明して、理解してもらったとしても、それは脳の違う部分での理解であり、視覚芸術の一番大事なところを飛ばしてしまっているのではないでしょうか。見た人が「絵で描いたものと変わりない」という感想を持ったなら、それは作り方が誤っているということです。
ファーストインパクト、見た瞬間にテクスチャまで理解する脳をそのときどこまで刺激し活性化するか。それが芸術ができる大事な仕事であると思いました。

このように自分に必要な部分を引っ張りながら読んでいます。
「感性」という言葉でまとめられがちな美術の世界ですが、もっと論理的に説明や解釈をすることが大事であると思います。
そのための多くが学べる1冊です。

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