死ぬまで書くの
我が父は小説家になりたいと思っているらしい。
私だって思っているので、同じやなー、親子やなーなんて考えていて、頑張れ親父的な感覚が有ったりもする。
小説家になりたいと言っても、そんな風な勉強をした訳では無く、今も何処かの口座で習っているわけでは無い。
完全に独学だ。
私も同じなのだが、私の場合は一応短大で国文を習っていて、父とはちょっと違う。
父は高校も夜学で方向性も違っていて、文学とかとは関わりの無い勉強をしてきた。
そんな父だが私が子供の時から口にしていた言葉が有る。
「小説家になる。」という言葉だ。
うんええけど、どないするん??とか考えていた、その頃の父は本は読むものの文を書く所は見たことが無かったからだ。
「お父さん、小説書いてるの?」書かなきゃ小説家にはならないからね、聞いてみた。
「今はなー、書いてない、でも退職して時間が出来たら書くんや。」自分に言い聞かせるみたいな強い口調で宣言していた。
その頃の父は夜勤と昼勤が交互にある仕事で、仕事が終わると酒を飲んで寝て、起きると家事をしたりしていた。
夫婦で働いているからか、親が子供の頃亡くなったので自分の事は自分ですると云う習慣なのかは知らないが、昔の男にしては家事をしていたと思う。
そんな父だから小説家なんて夢のまた夢に感じていた、だって家事もして、仕事もしていたら、本を読む暇もない位に見えていた。
口だけなんだろな、なんて考えたりもした。
口だけじゃないと信じられたのは、父が退職後に書いてきた物を見せてきたからだ。
その頃の私は離婚して娘たちと暮らしていて、仕事はスーパーのレジをしていた。
親とは数年に1度くらい声を聞く関係性で、もう何年も会って居なかった、これは父親の問題ではなく、母がしつこくあんたはでてった子やで、もううちの子や無いと言ったのが原因だ。
母親の知り合いに紹介されて、反対された訳でも無く、母親もええ話やと言って決まった結婚だった。
その結婚をした途端、私は出て行った人間やから、家の子や無いって言い方ある??無いよね??とか怒り心頭だった。
怒りで頭の中が覆いつくされていたから、父親はそんな感性が無いって事に気がいって無かった。
或る日用が有って電話してみた。
「もしもし、サチコやけど。」この日は母が仕事が有ると言っていたので、電話の向こうは父の筈だ。
「おお、サチコか、元気か~、如何しとった??」父は元々口数が多い方では無いが、今日は特に口数が少ない。
何か泣いてる??どうした、如何した父よ??
「何かあった??どうしたん??」泣き声の父に聞いてみる、若しかすると家族の誰かが大変な病気なのかも知れない。
「何でもないけどな、おかあちゃん(子供の頃から母の事はこう言っていた)が仕事に行くと寂しいてな。」なんやて、それで泣けるのは問題や、老人性鬱病じゃない??
我が家は娘が双極性障害と鬱病である、鬱病には敏感に反応する。
一度会いに行った方が良いかも知れない、そう考えると時間を割いて会いに行った。
隣の家に弟夫婦が居るのだから、心配するには及ばないのだろうが、念の為だ。
「何か欲しいもん有る??」父に聞いて、土産を持って行こうとすると、「天丼。」と返ってきた。
出来合いの天丼を買って持って行って、話をしようと考えていた。
実家に行くと父親が1人で待っていた、母が居ない日を狙ってきたのだから、父1人なのはリサーチ済み。
挨拶をすると、鬱ならやる気が出ない筈だと、今は文を書いているのか聞いてみた。
「今な、小説書いとるんや、今度松本清張賞に応募する、こんなに書いたんやぞ。」沢山の原稿を見せてきた。
「そうなんや、私はNOTEってとサイトで文を書いてるよ。」と盛り上がった。
「俺はな、退職してやっと自由に書けるようになったから、ボチボチ書いとる、松本清張賞にしか出さんでなかなか認めて貰えやんけどな。」ポツリと呟いた。
「それやったら、NOTEに書けば反応が有ったりするから、書き甲斐があるよ。」と教えた。
「俺はパソコンや携帯はどうもな~。」と言って、自分の原稿をぱらぱらと捲っていた。
その日はお互いに頑張ろうと言って別れた。
それから数年して、三女が結婚したい相手を父親に会わせたいと言ってきた。
彼女にとっては祖父だが、父親よりも我が父に会わせたかったようだ。
その日は私も付いて行って、久しぶりに親と話をした、母親は流石に仕事を辞めて、この頃では一緒に家に居る様だ。(我が親は両方昭和10年生まれ)
そこで又、小説や書き物の話になった。
「お父さん、まだ書いている??」純粋にどうしたのか、気になっていたので聞いてみた。
「おお書いとるぞ、来年の松本清張賞は取るぞ。」あの頃よりも元気な父だ。
「ホンマに~、じゃあ私はNOTEの創作大賞取るわ。」と返した。
「それは凄い賞なんか?」NOTEを知らない父が聞いてくる。
「凄いよー、メディアにデビューする事が有るんよ。」と言ったら、松本清張賞を狙っているからか、フーンな反応。
「お父さんは他には書かんの??」と聞く。
「俺は、松本清張賞一本や。」何だか自慢げだ、いい寸評でも貰ったのかな?
本好きだけで、文を書いている私達親子、死ぬまで楽しく書ければいいな~、なんて密かに考えている。
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