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踊り狂う。

夜の桜が好きだ。

強風で舞い落ちる様がなんかが、

とんでもなく大好きだ。

子供の頃。

「おい、桜、見に連れってやろうか?」

こちらの返事を待たずに、

父が連れて行ってくれたのが、

川沿いの桜並木だった。

会社から帰って来て

お酒飲んでからの

お花見は、暗い中、花見の為に、

ライトアップされている桜を、

只、見るものだった。

「綺麗だね。」

「そうだろ、綺麗だろ。」

強風が吹いて風が冷たい中、

桜が踊り狂うのを見る時間は格別だった。

「さぶいな。」

「はよ帰ろ。」

母と弟は凍えないように、

手に息を吹きかけ、

コートの襟を立て身体を丸めながら、

家への帰りを急ぐ中、

父と私は、桜の花の踊りを見ていた。

風で舞うという事は、盛りは過ぎていたのだろう。

最後の命を振り絞ったその舞は、

心に響いた。

父は「桜は散り際が一番きれいや。」

そう言って、見惚れていた。

私はというと、

『綺麗だけど、直ぐ散っちゃう。』

思ったら声に出してしまう。

「散ると悲しいよね。桜もそう思ってないかな。」

「そう思っているかもしれないな、

でも、本当に悲しいのかな?

花が咲く時間は短いけど、

凄い印象を残すだろ、

そんな人生もいいんじゃないかな。」

子供の頃両親を亡くし、

自分の為に、生活の為に、

ずっと働いてきた、父。

踊り狂う花を見ながら、

私の手を握りしめた。

『幾ら綺麗でも、咲いて直ぐ散っちゃうのは、

悲しいはずだよ。』

心で思っている言葉は、

飲み込んだ。

今年も桜は咲く。

今年も桜は散る。

同じ木から咲き散ってゆく。

同じ木ではあるけど、

きっと、それは、同じ花ではない。

人が全て違うように。






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