丘本さちを

短編『脳みそとみみずくん』第五回新脈文芸賞を受賞。既刊本『往復書簡 傑作選』『続 往復書簡 傑作選』。ネットでの購入はコチラ→ https://t.co/BQahVMProJ 謎の団体 ケシュ ハモニウムのメンバーです。https://note.mu/kesyuhamonium

N氏とO氏、ホームにて【掌編小説】

夜。地下鉄のプラットフォーム。

時刻は午後の十一時をまわっていて、ひと気がない。

スーツを着た四十代のサラリーマンN氏とO氏が、お互いに顔を見合わせて驚く。

N氏「あー、どうも」

O氏「あー、どうもどうも」

N氏「お久しぶりです」

O氏「こちらこそ、お久しぶりです」

N氏「何年ぶりになりますか?」

O氏「五年ぶり……くらいですか?」

N氏「え? そんなに経ちますか?」

O氏「あ

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故郷に海ができる【掌編小説】

あなたゴルフする? あたしはしない。でも穴のことなら分かる。ほらグリーンに空いているまあるい穴。あれって不思議な大きさよね。大きすぎもせず、小さすぎもせず。他の何にも似ていない穴。すごく的確な空洞。

 パパが開けた穴もちょうどそれと同じくらいの大きさの穴だった。
園芸用のスコップを持っていきなり庭の畑を掘り始めたの。畑っていっても趣味(というかパパの暇つぶし)の家庭菜園用だから、全然猫の額みたい

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昔の家【掌編小説】

そう言えば昔こんなことがあってね。

あなたが生まれる前、この家に引っ越してきたばかりの頃。

知らない男の人がピンポン鳴らすのよ。

最初は新聞屋かと思って、追い返そうとしたんだけど、様子が変なの。

ちょっと障害があるっていうのかな。

言葉も覚束なくて、何を言っても要領を得ないの。

気味が悪いけど「どうしたんですか?」って聞いたらね。

その人、昔この家に住んでいたっていうのよ。

あっと

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悪魔【掌編小説】

悪魔はレンブラントの肖像画に出てくるような立派な身なりをしていた。

まるで中世の昔からそこにいるようだった。

イタリアの小さな村の十字路に、何百年も立ち続けているのだろうか。

村人達は悪魔を一瞥もせずに目の前を通り過ぎていく。

ただ一人、村の画家だけが悪魔の姿を認め、それを絵に描いた。

絵を見た村人達はその不吉さにおののき、画家の首を撥ねた。

悪魔は今でも村の十字路に立っている。

第25回文学フリマ東京に出店します。

思い立って2年ぶりに文学フリマに出店します。
新刊『不可思議な掌編集(ハナシ)』と既刊の往復書簡シリーズの販売になります。

Eテレ『100分de名著』のアニメーションを担当している
ケシュ#203(http://www.kesyu.com/room203/index.html
のビジュアルブック『にっぽんトワイライトばなし』も同じブースで再販売します。

お時間のある方はぜひ足をお運びください

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大晦日の夜【掌編小説】

大晦日の夜。

こたつに大人達が集まって年を越そうとしている。

まだ子供だった、兄、私、弟は、除夜の鐘を聞こうと意気込んでいたものの、早々に寝床で布団をかぶってしまった。

眠い目をこすりながら小便に立った私は、障子の向こうで親戚の誰かが父と母にこう言ったのを聞いた。

「子供の内で、誰が一番かわいいか?」

父は田舎のオヤジらしく「長男だ」と言った。

母は優しい声で「やはり末の子がかわいい」

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