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「放課後、部活にて」(番外編5:③)

 数週間後の土曜日の音楽室。そこには女声だけで練習しているコーラス部と、ドラムセットの練習の準備をしている私だけがいました。

 その頃、以前までの女声二部のみから混声四部に変わったコーラス部に、私は先生の強い要請で参加していました。私は中学時代にも、先生のどうしてもという願いでコーラスに参加していたので、断りにくかったのです。

 女声のアルトくらいまで出せた声は、声変わりは当然迎えていたものの、それでもまだ音域も広く、声量もある方だったので、むしろ気がつけば入れられていたブラスよりはまだ、コーラスに参加するのは好きでした。

 もちろん、男性が少なく女性ばかりの状況も好きでした。ただ、やはりどこか打ち解けられないままでいました。

 ふと、そのうらやましいセーラー服の集団を眼の端で見ていると、何だかみんなでこそこそとじゃんけんか何かをしているようです。やがて、その中で一番負けたらしい一人の女の子が私に近づいて来ました。

「ね、○○君。明日の日曜日ってヒマ?」
「え?」

 私はその質問の意図がわからず、しばらく戸惑いました。彼女を見ると、なんだか無理に笑っているようで、笑顔は引きつっていました。そして、「ね、ヒマ?」と彼女は続けました。

 その問いに対して私は、きっといつものように友達のいない私をからかっているんだと思い、「ううん、明日はちょっと。。。」とだけ答えました。

 すると、「あ、そうなんだ?分かった~」と、何だか彼女はうれしそうに、女の子達の集団に戻って行きました。

 私は何のことだかわからないまま、その週末を普通に過ごしました。

 週をまたいだ月曜日、私が音楽室に入るなり、コーラス部の女の子に腕を掴まれました。
「ね、昨日どうして来なかったの。みんな待ってたのに」と、彼女は明らかに怒っているようでした。

「え?昨日?一体何のこと?」
「何それ?どういうことよ?」
聞き返す私に、彼女の怒りが増したらしく、彼女は何事か一気にまくし立てました。

 私はさっぱり判らないながらも状況を推測すると、どうやら昨日の日曜日にコーラス部の親睦会があったそうで、全員参加にも関わらず、私一人だけが来なかったと言うのです。

「いや、でも、それ知らなかったし、誘われても無いんだけど。。。」
私は約50の非難の目にさらされながら、やっとのことで答えました。その中に、土曜日、私に話し掛けた女の子がいました。ふとその子と目が合うと、彼女は気まずそうに目を反らしました。

 でも、彼女は思い直したらしく、いきなりしゃべり始めました。
「私、土曜日に誘ったわよね?誘ったもん」と、そう言って泣き始めた彼女に、数人の女の子が駆け寄りました。

「誘ったもん、私、誘ったもん」
そう彼女はくり返し、泣き続けるばかり。

 私に対する非難のまなざしは、いっそう厳しくなりました。

 そんな中、さっき私の腕を掴んだ女の子が言いました。
「男のくせに女の子泣かせるなんて、最っ低!悪いけど、もうコーラス部をやめてくれる?」

 私は何とも言えず、その場に立ちすくむしかありませんでした。


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