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向田邦子さんの本

小学生のころ、親の書棚にあった向田邦子さんの本を読むようになった。『父の詫び状』『眠る盃』『霊長類ヒト科動物図鑑』『無名仮名人名簿』『夜中の薔薇』などを気に入って、何度も繰り返して読んでいた。

向田邦子さんの文章は、とても読みやすくて、わかりやすい文章だ。だから、小学生のぼくでも読めた。あっさりした、さわやかな、おもしろい文章を書くひとだなあ、というイメージで読んでいたと思う。

でも、大人になったいま読むと、ぜんぜんちがう。人間の、きれいなところ、かなしいところ、みにくいところを、ぜんぶ見つめて描こうとしているということが伝わってくる。ときどき出てくる小さなユーモアは、落語とちょっと似たところがある。

『夜中の薔薇』に、「手袋をさがす」という収録されている。向田邦子さんは、エッセイではそれほど自分の内面を書かないひとだが、珍しくこの作品は自分のことが書いてある。気に入った手袋が見つからないから、なしですごしている、ということにたとえて自分の人生を語るのだ。数日前に読み返してみたら、あまりにも現代的で感動した。ちょっと前に、どういうわけか、野心的な女性が好きなんですということを書いたけど、もしかすると、ぼくの好きなタイプの原型は彼女なのかもしれない。

そしてそして、cakesに掲載されたfinalventさんの書評がすばらしいので、こちらもぜひ読んでみてください。有料購読しないと読めないですが、まちがいなく損はさせません。

思い出トランプ(向田邦子)前編|新しい「古典」を読む
https://cakes.mu/posts/874

思い出トランプ(向田邦子)中編|新しい「古典」を読む
https://cakes.mu/posts/897

思い出トランプ(向田邦子)後編|新しい「古典」を読む
https://cakes.mu/posts/911

小説のほうには、熱い向田さんが入ってるんですよね。これを読んでそのすごさがよくわかりました。

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