写真__67_

『きのう何食べた?』

「普段で、いちばん開く回数の多いマンガはどれか?」と聞かれたら、この本をあげることになる。

『きのう何食べた?』

ジャンルで言うと「料理マンガ」ということになるのかな。主人公の40代の弁護士(男性)が日々つくる料理が、すばらしいのだ。日常的な普通の食材をつかって、短時間で、おいしくて健康的なものをつくる。

料理というのは、レシピがあればいいわけではない。食卓に、複数の料理を並べようと思うと、実際にはそれらをいちどにつくることになる。しかも、毎日のことなので、過度に手間をかけることもできないし、コストの高い食材ばかりを使うこともできない。

時間がかかる料理もあるし、すぐにできるものもある。熱々で出すべきものもあるし、ゆっくり味をしみさせてから出したほうがいいものもある。そして、片付けも、つくりながらする。料理がすべてできあがるときには、シンクがまっさらの状態になっていたい。

著者のよしながふみさんの、料理についての考え方がそのまま出ているのだろう。『愛がなくても喰ってゆけます』の中にも、「どんなに忙しくても副菜をつくる」といった、彼女の哲学をかいま見ることができた。このマンガではそれが全開になっている。

そして、料理がすべて同時にできあがり、片付けもおわって、あとはご飯をよそうだけ。そこにタイミングよく、パートナーが帰宅する。パートナーもまた男性で、40代の美容師だ。

よしながふみさんの作品はどれも、登場人物たちの関係性や細やかな心情を描いてくところに特徴があるのだが、本作もそうだ。人々の日常を細やかに描写することで、登場人物たちの人生が浮き上がって見えてくる。

料理の話と人間の話。どちらの観点からも、すばらしく魅力的な本です。

読んでくださってありがとうございます。サポートいただいたお金は、noteの他のクリエイターのサポートに使わせていただきますね。