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ドワンゴ川上さんの新刊が出ました。

cakesで連載している、ドワンゴ会長の川上量生さんのインタビューが本になりました。

ニコニコ哲学――川上量生の胸のうち

ぼくがインタビュアーをしていたこともあって、版元の日経BPの編集者さんから「まえがき」の執筆を依頼していただきました。その文章をnoteにも転載しておきますね。

けっこう、がんばって書きました。こういう文章は、川上さんと本の魅力をちゃんと紹介するというのがミッションなわけですが、書いてるお前はだれやねんというのも書かないといけないし、でもそれが出すぎると変な感じになるし、でも少しはないと平板でつまらない文章になるし……という具合に、同じ所をぐるぐると回ってしまったのですが、最後は開き直って「ぼくの思う川上さん」を書けたかなと思います。締め切りって重要です。

読んでみておもしろそうと思ったら、ぜひ買って読んでくださいね。巻末の川上さん執筆の「あとがき」と「ニコニコ宣言」がかなりやばい文章なので。

(以下、『ニコニコ哲学――川上量生の胸のうち』より引用)

まえがき

                             加藤 貞顕

 この本は、川上量生さんのインタビューをまとめたものです。ぼくが運営するウェブメディア cakes(ケイクス)での連載原稿がもとになっています。川上さんが普段考えている、いろんなテーマについて、じっくり話をしてみたいというご提案をいただいて実現したもので、延べ10時間以上お話をうかがいました。

 川上さんというと、頭がものすごくいいとか、アイデアがすばらしいとか、誰も真似できないような決断とか、とかくそういう「脳みその切れ味」についての言及が多くなりがちです。もちろんそこはそのとおりで、本書でもメディア論やクリエイティブ論から国家論、人類の未来といった幅広いテーマについて、思いもよらなかった話が広がります。
 本書の大きな魅力は、川上さんの発想の深さ、広さ、自由さに触れることでしょう。インタビューの際には、とにかく「わかった気にならない」ことに気をつけました。しつこく「それ、どういうことですか?」と聞き続けて、突然出てくる、常識とは真逆の結論に対峙してきました。話を聞くにつれ、ちゃんと理屈がすべてつながってくるのには、取材のたびに感動します。
 でも、たぶん、読んでいただくとわかるのですが、そういう頭のよさ以外にも、もうひとつ別のなにかがあるのです。だから、ぼくは(みんなは)、川上さんにひかれるのだと思います。それをどう説明したらいいのかずっと考えていて、ようやくすこしわかったような気がしてきたので、ちょっと書いてみます。

 一般的に、頭がいい人というのは、とても孤独なものです。だって、だれにも自分の本当のところをわかってもらえないんだから。そのことで傷ついたりしても、その気持ちも共有してもらえません。みんながバカに見えてしまうけど、そのことで相手を見下していると、さらに孤立してしまいます。
 で、そういう頭がいいひとの生き方は2つあるのではないかと思います。ひとつ目は、みんなを憎んで生きていく。もうひとつは、それでもみんなにやさしくする。川上さんは、後者を選んだ人だと思います。ニコニコという事業は、ドワンゴという会社は、そういう川上さんの「やさしさ」を体現したものではないかと思うのです。
 本書の第6章に、起業をして、自分の性格が悪くなってつらかった、という話が出てきます。会社を運営する上で、社員に怒ったりする必要がどうしてもあります。川上さんは自分を「いいひと」だと思っていたので、アイデンティティが揺らいだのだそうです。この話、ぼく自身も起業をした人間なので、すごく共感するところです。
 川上さんは起業をしたくてしたわけではないということもよく言っています。勤めていた会社が倒産して、自分が手がけていたゲーム事業を継続するために、やむなく会社をつくってしまったと。そしてご存知の通り、現在の川上さんは、ニコニコという大きな事業を運営していて、とうとうKADOKAWAとの合併まで実現してしまいました。
 一方で、やりたいことを聞かれると「もっと寝たい」とか「とくにない」などと言います。やっていることの規模とこうした発言のギャップが大きくて、正直、意図がわからないなと思っていました。だから、本書でもそこをしつこく聞いています。最初は照れ隠しなのかと思ったのですが、これも考えぬかれた上できれいにつながっているのです。
 要するに、川上さんがやろうとしていることは、「テクノロジーを駆使して人間性を追求する」ということです。テクノロジーとグローバリゼーションによって社会が便利になった反面、人間性は疎外されていくばかりです。そんな未来に対して、レジスタンスをするということが、川上さんが目指していることではないかと思います。

 そういうことを考えると、川上さんは起業家であるだけでなく、思想家であり、活動家であると言ってもいいかもしれません。そして、その武器はテクノロジーと「笑い」です。よくいる起業家のように、夢に向かって必死でがんばるのではなく、「愉快犯」を選択して「ニコニコ動画」「ニコファーレ」などの一見ふざけた名前の事業を展開していきます。
 人間を肯定する上で「笑い」を選択するという姿勢は、どこか落語とも共通するものがあります。グーグルやアマゾンのような、テクノロジーと論理をかけあわせて効率化していくIT企業とは違って、テクノロジーと感情をかけあわせた新しい場所を、ネット上につくろうとしているのです。もしかすると、そこは未来の「寄席」のような場所になるのかもしれません。

 今回、このような機会をいただけたことは、とても幸運でした。起業をしてからの個人的な悩みなどもずいぶん聞いてしまったような気がしますが、それも含めて、みんなの役に立つ話になっていると思います。川上さん、本当にありがとうございました。
 また、巻末に収録されている「ニコニコ宣言」の全文も、あわせて一読いただければ幸いです。川上さんの人類へのやさしさにあふれた哲学がつまっています。
 
ピースオブケイク代表取締役 加藤貞顕
http://cakes.mu

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