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仕事ができるひとの「円」の大きさ

社会人になってしばらくして気づいたことがある。

それは、想定しているお客さんが大きいひとほど仕事ができる、ということだ。

働きはじめは、無我夢中で、与えられた仕事をこなしている。疲れたし、こんなもんだろうと、とタスクを終える。そうすると、上司に修正される。この状況は、いちばん内側の「自分」と、その次の「上司」の中を行ったり来たりしている段階だ。

「会社」が全体としてどこを目指していて、自分の仕事の立ち位置はどこか、とかがわかりだすと、すこし円が広がる。そうすると自分の仕事のやりかたも変わってくるし、その人には仕事をまかせやすくなるので、大きな仕事ももらえるようになる。そうなると成果も出やすくなる。

その次の、直接の顧客のことをちゃんと考えるようになると、いっぱしの社会人といえるだろう。ぼくについていうと、そこまで数年はかかった。

そして、一流のひとたちはというと、もっと円が大きいのだ。「社会」のなかで、この仕事の立ち位置はどうなっているのかを考える。歴史的にどんな意味があって、社会全体でいまなにが求められているのか、これからどうなるのか。

円が大きくなると、対象としているお客さんの数が増えるわけだから、成果の規模が変わるのも当然だ。そして、大きな成果を出すと、もっと大きな仕事ができるようになる。

ぼくがいままで会ったひとのなかで、いちばん大きな円を持っているなと思ったのは、ドワンゴの川上量生さんだ。川上さんは、この円がとにかくデカい。上の図でいうと、いちばん外側の「社会」の外側の「人類」とか「宇宙」まで視線が届いている感じがする。

なんでこんなことを書いているのかというと、ひさしぶりにこの本を読み返したからだ。

ニコニコ哲学』川上量生

本書は、cakesで連載した「川上量生の胸のうち」連載をまとめたものだ。この本の特長は、川上さんの桁外れの発想が読めることだろう。テクノロジーが発達していく社会のなかで、人類はどうサバイブしていくのか、という話が書いてある。人類の未来の幸福論といっていいだろう。

そして、そんな内容なのに、何度も吹き出すくらいおもしろいのだ。ドワンゴで、女子マネ弁当をはじめた話や、エンジニアたちが「サウザー化」※する話など、笑える話があふれている。そもそも「ニコニコ動画」という名前自体が、どうかしてる。
※マンガ「北斗の拳」のキャラクター。愛深きゆえに愛を捨てた男。

川上さんのユーモアには、なにかの意志というか覚悟を感じる。本書のまえがきは、ぼくが書いたんだけど、すこし引用する。

頭がいいひとの生き方は2つあるのではないかと思います。ひとつ目は、みんなを憎んで生きていく。もうひとつは、それでもみんなにやさしくする。川上さんは、後者を選んだ人だと思います。ニコニコという事業は、ドワンゴという会社は、そういう川上さんの「やさしさ」を体現したものではないかと思うのです。

やさしさとおもしろさ。この2つのフレーズは、糸井重里さんの「ほぼ日」のキャッチフレーズ「やさしく、つよく、おもしろく」とも共通している。この2人のクリエイターがたどり着いた地点が似通っているのは、偶然ではないだろう。

この2つはおそらく、クリエイターが、自分自身を幸福にして、社会をよくしていくための有力な解答なのではないかと思う。実行していくには、知性と意志と、力と、あとは覚悟が、必要ですよね。……書いててわかったけど、こりゃたいへんだわ。でも、がんばります。

追伸
この本、川上さんが書いた「あとがき」もヤバイのでぜひ読んでみてください。まず、ぼくに怒り、読者に難癖をつけ、さいごは「飛び道具」できれいに収束します。こんなあとがき、見たことないよ。

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