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【街と家と人】イトーヨーカドー、北海道撤退。

2024年2月9日、北海道内のイトーヨーカドーが全店閉鎖されるというニュースが報じられた。北海道・東北・信越地方から撤退してしまうのだという。

札幌のイトーヨーカドーがなくなるという話は噂レベルで何度も耳にしていてそれなりに覚悟していたつもりだったけれど、やっぱりショックだった。

札幌に引っ越した時から通い詰めているヨーカドーがなくなるのだ。大変だ。

基本的には、イトーヨーカドーは関東地方の店である。

東京で不動産屋に勤めていた頃はモデルルーム近くのイトーヨーカドーやヨークマートによくお昼ごはんを買いに行った。
東京から熊本に引っ越してからはさっぱり見かけなくなった。CMも流れていなかったと思う。

2021年の冬のはじめ、熊本から移り住んだ札幌の家の近くには、イトーヨーカドーがあった。久しぶりに見かけたハトのマークに、東へ来たのだなと思った。

北国に住むのは初めてだった。
あっという間に雪が降り始めて、信じられない寒さになった。精いっぱいの厚着をして、雪が積もって凍りついた道をこわごわ歩いた。寒くて心細かった。

雪が降りしきる中、土地勘はなく車も持っていない。行動範囲はものすごく狭くて、歩いて行けるヨーカドーへやっとの思いでたどり着く。

外は氷点下だけれど、一歩店の中に入ると暖かい。ほっとした。食品フロアのレジにいるお姉さんたちはいつだって元気いっぱいで、にこにことお会計をしてくれる。私は毎日のようにヨーカドーへ通った。

すべらない、濡れない雪国仕様の靴を探しに行ったのもヨーカドーだった。
九州から引っ越してきたばかりだと告げると、店員さんはそれは大変だと大いに驚き、そして大いにはりきって渾身の一足を選んでくれた。雪にうまっても露ほども濡れない、暖かくて頑丈なブーツだった。それなのに1万円でおつりが来て、ヨーカドーは天才かと思った。

靴だけではない。
九州で日常使いしていた80デニールのタイツでは到底寒さに立ち向かえそうにないので、2階の衣料品コーナーで160デニールの極厚タイツを手に取ってみる。

黒の極厚タイツをレジに持っていくと、本当にひとつだけでいいのかとレジのお姉さんたちに全力で心配される。
今キャンペーン中だから2足買うと10%引きで3足買うと15%引きになるのだとか、レジは待っておくからもうひとつ選んできたらいいとか次々に教えられる。言われるがままに売り場へ戻り、グレーのタイツも追加して買った。10%引きになったタイツはとても暖かかった。3足買ってもよかったな、と思った。

ふかふかの耳当てつきのニット帽も買った。テナントとして入っている本屋さんで、北海道のガイドブックも買った。サザエのおやきやmorimotoのケーキのような、道産子たちが普段使いしている北海道の味にも出会った。長く厳しい札幌の冬をどうにか乗り切って遅い春が来るまで、必要なものをどれだけヨーカドーで手に入れたか分からない。

スーパーは、その街と深く結びついている。

これまで暮らしてきた街には、それぞれのスーパーの記憶が必ずある。
バローに平和堂、サミット、ゆめマート。そしてイトーヨーカドー。

少しだけ大げさに言えば、私にとってイトーヨーカドーは、札幌の原体験のひとつなのだと思う。

ヨーカドーがなくなったら、レジに立つあの親切なお姉さんたちはどうなるのだろう。雪の降りしきる寒い日に、私はどこで買い物をしたらいいのだろう。

ヨーカドーがなくなると、いま住んでいる街の景色も少しだけ変わる。

別のスーパーに引き継がれるにしても、一旦は店が閉まる。数ヶ月単位でスーパーがなくなったら困るし、何よりヨーカドーがなくなったらさびしい。あの暖かいタイツは、どこへ行けば買えるのだろう。

イトーヨーカドーが好きだ。夜9時に閉まるのはちょっと早いし食品フロアでは楽天モバイルの電波がほぼ死んでいるし入口が滑りやすくて2回くらい転んだけれど、それでも好きだ。大好きだ。

ハトのマークもかわいくて好きなのに、いつか別のロゴになってしまうのかな。

まだいつになるかは分からないけれど、閉店してしまうその日まで、全力でイトーヨーカドーに通おうと思う。まださようならは言わない。言いたくない。


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