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旅する付喪神



もう書いていて自分でも心底イヤになるのですが、このところ、私は毎日のように同じ日傘をどこかに置き忘れています。

そして忘れる場所もカフェ、飲み屋、整体治療院、神社、車の中とこれもまたウンザリするくらいバラエティに富んでいるのですが、不思議なことに私の傘には帰巣本能があるらしく、問い合わせるとそのつどちゃんとどこからか出てきます。

なのでこちらも自分の日傘が手元にないのをひとたび知るや、「またか」と粛々と携帯を取り出し、レシートを広げ慣れた所作であちこちに問い合わせているわけです。

おかげさまで今やもう、

「はい色はベージュです、柄の部分は竹、内側が黒の女物で折りたたむタイプではなく、あ、あと柄のところにボンボンがついてます」

と、明らかに初動の所作ではない、自動音声顔負けの流暢さで問い合わせできるようになりました。いや本当は慣れたくはないんですこんなこと。

先週などは同じ十条の飲み屋に二日間連続で日傘を置き忘れ、さすがに3度目の帰りがけには店の大将から半笑いで「お姉さん、日傘ちゃんと持った?」と声をかけられてしまう始末。
きっと今ごろあの店の冷蔵庫には私のことを「日傘置き忘れ女要注意」とかマジックで書いたメモ書きが貼り付けられているに違いありません。

なのに、今日もやっちまいました。よせばいいのに地下鉄に乗って手すりに日傘をかけるという、私のようなタイプの女が絶対やっちゃいけない所業です。案の定、私はしっかり今日も日傘を置き忘れて電車を降り(ここまでいくとコントです)、日比谷でミッションインポッシブル観終わった直後に日傘がないないと騒ぎ出しました。

ところが今回も驚くべきことに私の日傘、ちゃんと出てきてくれたのです。
例によってダメモトで改札のお兄さんに尋ねたところ、快く遺失物管理センターに問い合わせてくれ、「終点の駅にどうやらそれらしき傘が保管してあるそうです」と。

それにしてもつくづく感心するのは、この国のいろんな店やら駅やらの遺失物管理の素晴らしさ。その管理方法はアナログからデジタルまでいろいろですが、どこも電話一本ですぐ対応してくれ、あっという間に見つけてくれるのです。本当にすごいですよおもてなしの国ニッポン、こういうことに関する限り100%善意だけでできてます。

そしてもうひとつ、ものにはやっぱり魂が宿っているんだな、と思うのはこういう時。
以前、大事にしていたブルガリのブレスレットをどこかに落としてしまった時も、数日後にタクシーの中に落ちていたのを運転手さんがたまたま見つけてくれ、他の遺失物とまとめてひと月以上してから警察に届け出、さらに警察がブルガリに問い合わせて製造番号から私が買ったものとわかり、なくして2ヶ月も経ってから深川署から電話が来たことがありました。

まあこのケースはブランドものだからそういう見つけ方ができたのですが、このところしょっちゅうなくしている日傘などはノーブランドにもかかわらず、毎回きちんとまるで自分の意思でもあるかのように出てきます。
もうこうなると付喪神が宿っているとしか思えず、だからそういうことがあるたびに私は、万物にはフォースが宿ると信じられて幸せになるのです。

だからみなさん、なくしものは諦めず、しつこく探してあげたほうがいいです。
そういうわけで私は今週、日傘を保管されている栃木県の終点の駅までとりに行ってきます。

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