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思い込みは良くありませんよというお話



幼い頃から人の顔色を伺いながら育ったせいか、なにかあるとすぐ自分に非があるんじゃないかとクヨクヨしてしまいます。

その、共同でとある1匹の地域猫の面倒を見ていた餌やりの女性から連絡が来なくなった時もそうで、私はああ、これはきっと自分がなにか彼女にメールで失礼をして怒らせたのだと思い込んでいたのです。

彼女、Sさんは70代の女性で、毎朝その地域猫に餌をやる「朝の係の者」でした。そして私は彼女が来れないときのピンチヒッターとしてやりとりをしていました。

ところが、そんな彼女からのメールが去年の暮れからピタリとこなくなりました。その後何度かメールしてもまったくの音信不通。私はああ、これはきっと自分がなにか彼女にメールで失礼をして怒らせたのだと頭から決めつけていたのです。

よくよく冷静に考えれば韓流ドラマにあるような、途中で事故って記憶なくして...といった可能性もアリかとは思うのですが、ビビリの私はそんな都合の良い考え方はできません。そうでなくても野良猫の餌やりさんにはエキセントリックな方が多いので、私はああ、きっと自分は知らずにメールの文章で彼女を怒らせてしまったのだと思い込んでいたのでした。

だから、それからしばらく遠慮してその地域猫の餌やりからは足が遠のいていたのですが、今年の3月頃、ふとその猫が骨と皮ばかりになって歩いているのをたまたま見かけ、こりゃイカンと自主的に再び餌やりを開始しました。

Sさんに出くわすとバツが悪いので、行くのは昼間の時間だけです。

そのうちに猫はどんどん弱り、ついに医療行為なしには虹の橋コース、というところまで来てしまいました。

もうこうなれば乗りかかった船、です。

私は動物病院へ駆け込み、猫用の点滴セットと口内炎の薬、ノミやダニ、寄生虫駆除の薬などを買い込み、猫の治療に当たりました。猫の方ももともと由緒正しきナチュラルボーンストリートキャットゆえ、決して人間に触らせないという警戒心の権化だったのですが、もはやこれまでと悟ったのでしょう、猛烈な抵抗の末に最後は粛々と点滴の針を受け入れ、なんやかんやでどうにかこうにか無事に峠を越したのでした。

そんなある日、私がいつものように猫に点滴を行っていると、ふと後ろからおずおずと声をかけてくる女性がいました。

Sさんでした。

驚いて声も出ない私に、彼女は去年の12月にガンで倒れ、以来ずっと入院して集中治療をしていたと話してくれました。抗がん剤治療で髪が抜けたそうで頭には毛糸の帽子をかぶり、退院後も体力尽きて10メートルも歩けばゼイゼイ、だからもう半年もここには来れていなかったんです、と話してくれました。

機械オンチで一人暮らしのSさんはSNSを一切やっておらず、連絡手段はショートメールのみ。
それすら打つ気力がなく、気づけば半年経ってしまいましたとのことでした。

そう、真実は私が選ばなかった韓流ドラマ展開だったのです。

申し訳ない、と思いました。
私にもう少し冷静な想像力があれば、もっと早くからいろいろできたのに。

独りよがりの思い込みはいけない、と今度ばかりはつくづく反省しました。

私はその場でSさんの携帯をお借りし、LINEや普通のメールなど、つまりショートメール以外でも連絡が取れるように設定しました。

よし、これで大丈夫。

自分の思い込みグセを矯正する良い機会を与えていただいたことに感謝しつつ、私はこれにて一件落着、と胸を撫で下ろしたのでした。

それから、半月。

Sさんからは相変わらずショートメールばかりが送られてきます。










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