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売春島 稽古つれづれ


私は常々、目にうつるものはみんな自分の心の中の反映だと思っている。

それでいうと今、私は稽古場で目にしてるものを見ながら、いま自分の中は一体どうなっているんだろうと思ってます。

言うなれば、極彩色の闇鍋の中にでも放り込まれたような感じ。

座組も座長の高橋俊次君の意向でしょうか、キレイな女の子たち、イケメンの男の子たち、演技派の人たちとその面子はいろいろですが。

全員、個性が強いという点では見事に一致しています。

ヒロイン・咲役のはるかぜちゃんこと春名風花ちゃんのことは10年程前から注目していて、そのTwitterでの斬新な発言にすごい子がいるもんだと感心していました。

島を乗っ取りに来る事件屋・沖本役の黒田勇樹君とは7年ほど前から面識があって、そのキャリアの厚みに今回脚本を書くにあたり、一体どう思われるものかとひそかに震え上がっていたものです。

幸いご両名とも私の脚本を面白いと言ってくれて、まあほっとしたのですが、ひと安心したのもつかの間。

今回、私も演者のひとりとしてこの作品に参加しているので、0歳から演技している彼らの足を引っ張らぬよう、必死こいて頑張ってます。

『売春島』という企画は実は10年前から進行していて、諸般の事情で伸び伸びになっていたのが、今回、高橋君のお声がけでようやく舞台という形になったわけです。

お話はヒロイン・天野咲が両親の事故死により、親の借金のカタに売春島に売り飛ばされるところから始まります。

あまり生々しくはしたくない、できればファンタジー要素多めで、というのが高橋君の希望でした。

で、あとはなんでも紅緒さんの好きなように書いて良いと。

私の得意は物語の設定よりも個々のキャラクター作りなので、よーし、じゃあ変な人をいっぱい書こう、と腕まくりをしてとりかかりました。

そしたら、本当に変な人ばかりのフリークショーになってしまいました。

私が演じる迷信深い島の宿の女将・紅子を始め、神がかりのその娘ヒメ、仮面を被った謎の浮浪者スケオキ、島の利権を狙う事件屋沖本、野心家のホスト壱、取材にやってきたイケメン記者神崎など、一癖もふた癖もある人たちです。

売春婦たちのほうもミステリアスな美女にアイドルオタク、夫殺しにスピリチュアルかぶれに性病持ちに武闘派に個性派熟女、厭世的な女に世話焼きお姉さん、ホスト狂いにその太鼓持ちと、なかなか個性豊かです。

こんなんでどうやってここまで広げた大風呂敷をたたむんだろう、と書きながら自分でも悩み苦しみ悶えていたのですが。

突然、ヒロインになにかが降りてきてきれいにアイロンまでかけてくれました。

でも、脚本に関して高橋君に言われていちばん嬉しかったことがあります。
それは、

「これだけ変な人を出したら普通、ヒロインはその中に埋もれてしまうはずなのに、そんな中で彼女がさらに負けずに突出してるのがすごい」

でした。

それはもちろん、はるかぜちゃんの天才的な演技力に負うところが大きいのですが、今回、クライマックスで彼女が声を張り上げて叫ぶ超絶長ゼリフがあります。

実はこれを書いた瞬間、私は「ああこの言葉を書くために私はこの仕事を引き受けたんだ」ということに気づいたのでした。

脚本やら小説やらでキャラクターを考える時、私はいつも「この人が最も大切にしているものは何だろう」と考えるようにしています。

どんな人間にもたいてい命の次に大事にしてるものがあり、それさえ見つければあとはおのずと個々のキャラは勝手に動いていってくれます。

でも今回、私はヒロインだけにはあえてそういうものを持たせず、物語が進む中で見つけていくという筋書きにしてしまいました。

演じる方はさぞかし大変だったろうと思います。
なにしろ、生きる動機がないのですから。

でも、それはそのまま霊長類ヒト科のメスを長年やってきたこの私自身が現在抱えている問いであり、なんなら、

「ヒロインさん、私の代わりに答えを見つけてくれよ」

くらいの無責任な気持ちで書いていました。

でも、そういうバカなことをやってると、まれに降りてくるんです。
自分でも予想すらしなかった、本当に答えらしきものが。

その時はなかなか快感です。

そんなわけで、泣いても笑っても本公演まであと1週間。

残りの期間を闇鍋の中で揉まれつつ、全力で楽しみます。

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