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春の雨雲の明るさを

日曜日の昼の2時。
窓の向こうは先程雨が一時止まったらしく、曇り空を背景に窓ガラスには雫が蛞蝓みたいにゆっくりと落ちている。

春時雨というらしい春の長雨を眺めながら、私はわざと部屋の電気を消して、窓から入る薄ぼんやりとした光の中で過ごしている。

なにも特別なことではない。けれどこの曇り空の中薄ぼんやりとした部屋でじっと過ごす、これが最早いつもの私の平日では出来ない稀なことなのだ。

2020年、緊急事態宣言が発令して以来基本的に在宅ワークとなり、カフェにも行くことなく自宅でパソコンに向き合い、オンラインで打ち合わせもするようになった。
そうするといつも家の中にいて、寝る時以外は蛍光灯をつけて部屋を明るくしないといけない。

ふとそのことに気づいて、何とは無しにリビングの蛍光灯を休ませてみたのだが、これがなかなかいい。

これを読むあなたは、曇り空の窓からはいる明かりがどのくらいの明るさか知っているだろうか?

私の作業机は窓辺にあるのだがここに座っても、ちょっと目が悪くなりそうだけど本がギリギリ読めるレベル、スマホをつければディスプレイの光がちょっとした明かりになるくらいの明るさになる。

正直仕事をするにも読書をするにも向いていないけど、薬缶を火にかけてコーヒーを入れて、聞き忘れていたお気に入りのアーティストの新曲を聴くぐらいはできる。


実家にいたときは、大学や高校では、あの日の校舎では当たり前のことだったのに、たかだか10年くらい「東京」とやらに住んでいるだけで、くもりの明るさを忘れるなんて呆れる。
こうやって私はいろいろなことを忘れてしまうんでしょうな。

しょうがないので、今日のことを新しく記憶し直す。

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