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ライティング&コミュニケーション基礎(無料公開)

〈はじめに〉
※これから語られる言葉は少し長いかもしれませんが、なんども読み返してください。
※できれば声に出して読んでください。文章のリズム、語感がしぜんと身につきます。

文章を書く際に必要な基礎力、たとえば、語彙力とか、発想力とか、構成力とか、文章力とか。そういう力を身につけるための具体的な方法をお伝えします。そして、その中でも、特に大事なコミュニケーションの力を読者の皆様には身につけてもらいたいと思っています。

 コミュニケーションの力が文章を書くために必要なのかなあ、と思うかもしれません。しかし、文章を書くということは、それを書いている自分が、自分以外の何か、それは人間かもしれないし、ネコかもしれないし、山や海や空や風や季節や花かもしれませんが、そういう自分以外の何かから得た刺激、インスピレーションがあってはじめて、それを言葉にしたい、という心の動きが根っこにあるのです。

 自分の頭の中に勝手にうかんできたイメージ、たとえば、「神が降りてきた」的なことで文章が書ける、あるいは、そういうことによってのみ文章が書けるのだ、ということなら、文章を書く力を、具体的な方法論、つまりは、希望する人ならだれでも、方法論を学ぶことで、いい文章が書けるようになる、というメソッドが通用しなくなってしまいます。なにせ相手は神さまですから。

 そういうことではなくて、やる気があって、その気になっている人なら、だれでも、きちんとした文章を書けるようになるための方法論を、このノートでは紹介していこう、というわけです。

 なんだかハナシが大きくなりましたが、ようするに、他者とのコミュニケーションの力は文章を書く上で、どうしても必要なのです。ですから、ライティングのスキルと同じくらい、コミュニケーション力を大事にして、高めていきましょう。


ライティング&コミュニケーションの基礎
「アイスブレイクのうまい人になる」

 はじめて会った人と打ちとけるのは、ちょっと苦手、かもしれません。ですが、たいていの場合、相手のほうも、ちょっと苦手、と思っているのです。ちょっと苦手と思っている同士が、向かい合うわけですから、話が弾むはずがありません。お互いにけん制しあっている状態です。その状態を、自分と相手との間に氷の壁がある、というように表現します。ふたりの間に、氷=アイスがあって。相手のことは見えているけれど、相手のぬくもり(気持ち)が感じられない。そのアイスを壊す=ブレイクする、という意味で、コミュニケーションのスタートは、アイスブレイクからはじまるのです。

「アイスブレイクとはワークショップやファシリテーション前段階で見知らぬ者同士を出会わせるレクリエーションや活動のことを指す。文字通り『氷を打ち破る』つまり、見知らぬ複数の人がいる場所で固い雰囲気を壊すことがアイスブレイクである」(今村光章『アイスブレイク』)

「アイスブレイクとは、初対面の人同士が出会う時、その緊張をときほぐすための手法。集まった人を和ませ、コミュニケーションをとりやすい雰囲気を作り、そこに集まった目的の達成に積極的に関わってもらえるよう働きかける技術を指す」(ウィキペディア)

 では、アイスブレイクは具体的にどのようにすればいいのでしょうか。


【相手の名前を呼ぶ】

 わたしは大学生のころ、小学生対象のサマーキャンプ(サマーだけでなく、ウィンターもありましたが)に、毎年参加していました(オトナとして、です)。全国各地から集まってきた小学生が、六人で一グループをつくって、短いキャンプで三日間、長いキャンプだと一週間の共同生活を送るのです。

 子どもたちにとって、楽しいキャンプになるかどうかは、初日の夜の過ごし方にかかっています。親元を離れて、大勢の知らない人たちの中に、ひとりぼっち。その孤独を感じてしまうと、あっという間にホームシックになってしまいます。そこで、アイスブレイクの出番です。初対面の子ども同士が打ちとけるために、最初にすることは、相手の名前、仲間の名前を覚えること。それも、キャンプネーム(あだ名)で、名前を呼び合うようにするのです。キャンプネームのように、新しい名前をつけるというのは、これからのキャンプ生活を送るために、学年の上下にとらわれず、人間対人間の、新しい関係性をつくりだすための、一種の「装置」です。

 もうひとつ、この「○○ネーム」というのは、スポーツの場でも用いられています。学校教育の中にある「部活」や大学の「体育会」での、呼び捨て、とは違います。

 たとえば、バレーボールの日本代表チームには、「コートネーム」なるものが存在します。コートに立てば、年齢や肩書きに関わらず、同じ選手として指示を出し、受け、勝利のために各自の役割をまっとうする。そのためのツールです。ファーストネームで呼び合う習慣のない日本人には、こういう、アイスブレイクのための「特別な装置」がどうしても必要なようです。飲み会での「無礼講」も一種の、アイスブレイクのための装置なのかもしれません。

 とはいえ、ふだんの生活の中で、いきなり相手をファーストネームで呼ぶことはできないでしょうし、勝手にあだ名をつけて呼ぶわけにもいきません。ですから、少なくとも、相手の名前を呼ぶ。「○○さん」と呼びかけることが、最初のアイスブレイクになる、と覚えておいてください。会話のはしばしに、相手の名前を入れる。それだけのことですが、相手との距離はぐっと近づきます。名前を呼ぶという行為には、相手の壁をとかして、信頼感を勝ち取る、そういう力があるのです。

 ところで、最初に会ったときには名刺交換をしたりして、しっかり名前を頭に入れたはずなのに、次に会ったときに、どうしても名前が思い出せない。という経験はだれしもあると思います。そんなときに使える、ちょっとした遊びのようなテクニックを紹介しておきます。

「あのう、すみませんが、お名前は、ええと……」
「(ちょっとムッとしながら)山田ですけど」
「いやいや、山田さんだってことはわかってます。下の名前です、下の」
「あ、花子です!」
「そうそう! 花子さんだ、思い出しました! その節はどうも……」


〈ここまでのまとめ〉
●相手の名前を呼ぶと、距離がぐっと近くなる。
●会話のはしばしに、相手の名前を入れこもう。


【ほめる】

 もうひとつ、アイスブレイクの具体的な方法を紹介します。それは、ほめる、という行為です。

 だれだって、ほめられていやな気はしません。ためしに、どんなに小さなことでも、相手のちょっとしたパーツに目をやって、ほめてみてごらんなさい。日ごろそれほど会話が弾まない人とも、なんだかいい雰囲気になること請け合いです。

 ほめる、という行為には、アイスブレイクの効果だけでなく、さらには、相手の信頼をも手に入れてしまうほどの効き目がある。ほめる、という行為には、みなさんが思っているよりも、ずっとずっと大きな効果があるのです。

 ところが、特に日本人の男性は女性をほめることをしません。むしろ、ほめるという行為を一番苦手としているかのようです。なぜ「ほめ下手」なのでしょうか。照れくさいとか、気恥ずかしいとか、下心があると思われるのがいやだとか。たいがいそんなところでしょうか。けれど、ここは重要ですから、よく憶えておいてください。

 ほめる、という行為は、それ自体で自動的に相手のガードを下げる効果がある、のです。こちらにたとえ下心があったとしても、ほめられた相手のガードは自動的に、いいですか、勝手に下がっていくのです。それが、ほめるという行為のもっている大きな力なのです。

 ですから、ほめてしまえばいいのです。ほめるほうが、どんな思い、ねらい、気持ち、意図であったとしても、ほめるという行為は、オートマティックに、相手をうれしい気持ち、いい気持ちにさせる、という効果を発揮してくれるのです。

 さっそく試しに、身近な人をほめてみましょう。ただし、ほめるときのポイントは、ぱっと見てわかるくらいの、相手のちょっとした具体的なパーツをほめること。相手の中身(外からは見えないところ、思想信条など)や身体的特徴(背が高い、低いなど)については、触れないのがマナーです。

 たとえば、

  ○「その靴、おしゃれですね」
  ×「その靴、変わってますね」(ほめられた気がしない)

  ○「その時計、かっこいいですね」
  ×「その時計、高そうですね」(値段は外から見えない)

  ○「髪の毛、さらさらですね」
  ×「髪の毛、ふさふさですね」(ことば遣いに気をつけよう)

  ○「きれいな目、してますね」
  ×「大きな目、してますね」(身体的特徴は気にする人が多い)

 こういう「ほめ動作」を日常的に繰り返していくうちに、相手のちょっとした変化、「ほめどころ」に気がつくようになります。ほめるセンサーの感度が上がるのです。ちょっとした変化に気がつく、というのは、これから文章を書くにあたって、とても大事なスキルのひとつです。そして、ちょっとした変化に気がついてくれたあなたのことを、「自分のことを見ていてくれる」「変化に気がついてくれる」と思えばこそ、相手はあなたのことを信頼するようになります。

 ほめる→気がつく→またほめる→うれしい→信頼度アップ。
 ほめる→気がつく→またほめる→うれしい→信頼度アップ。

 この流れを生み出しているのは、すべて、ほめる、という行為。しかも、ほめるときに、本心からほめる必要はないのです。もちろん、心がこもっているにこしたことはありませんが、ここでは、プロフェッショナルとしてのスキル、という意味で、いつでも、どこでも、ほめる行為とその効果を意図的に使えるようにしましょう、ということです。

 なんでもないちょっとしたほめ言葉が、思いがけない果実を生み出すことはよくあることです。ほめられていい気持ちになった相手は、ほかの人にはしなかった話(ネタ)や、より多くの情報を提供してくれる「かも」しれません。もちろん、過ぎたるはナントヤラですから、ほめすぎは禁物です。でも、まだまだほめることに慣れていないうちは、思い切って、ほめてみる。そこからアイスブレイクをはじめてみることにしましょう。

〈ここまでのまとめ〉
●本心からほめる必要はない。ほめるというのはスキルだ。
●ぱっと見てわかる程度のパーツをほめるのがポイント。
●ほめると自動的に相手はいい気持ちになる。

次回のテーマは、コミュニケーション力とはなにか、です。自分のコミュニケーション力は高いと思いますか、それとも低いと思いますか。そもそも、コミュニケーション力ってどんな力のことでしょうか。そんな話をしたいと思います。


【今回のポイント&寄り道読書】

◎コミュニケーションのスタートは、アイスブレイクから。
◎アイスブレイクの具体的な方法は、相手の名前を呼ぶこと、ほめること。

寄り道読書;今村光章『アイスブレイク』晶文社(二〇一四年)

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