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10年ぶりの出逢い(3)

それぞれ会計を済ませてジャズクラブを後にする。
「ご馳走様でした」と彼女。
ピザのお礼だろう。
たった1品ご馳走しただけなのに律儀な。
まぁ当然と言えば当然だが。

彼女の案内でくだんのスナックを訪れる。
車で10分、ジャズクラブがある駅から2駅遠ざかった場所、表通りを1本入ったところだ。周囲は低層のマンションやアパートが並ぶ住宅街。ちょっと場末感が漂う。良く言うと隠れ家的な場所だ。
「いらっしゃいませ〜、あら、サエちゃん」
ママさんと思しき初老の女性が笑顔で迎え入れてくれる。
カウンター席の他にはソファー席が2つあるだけの小さなスナック。
内装や調度品、什器類が適度に古びていて昭和感満載だ。
週末とあって、カウンターは満席。〈地元の衆〉と思しき年寄り男性ばかりだ。

二人掛けのソファー席を選び、焼酎のロックを注文する。彼女は水割りだ。
ママさんの紹介や店との馴れ初めなどを聞く。数年前まで近くの賃貸マンションに住んでいて、たまに飲みに来ていたと言う。
ひと通り語り終えた最後に「旦那ともたまに来るんですよ」と彼女。
おっと、既婚者なのね!
まぁ年齢や雰囲気から予想はしていたが。
それにしても、旦那とよく来る店にほかの男を誘うとはなかなか度胸がある。
それとも、人畜無害な男と思われたか…?

「ここのチヂミ、美味しんですよ」という彼女の薦めでチヂミとチーズ盛合せをオーダーする。
「旦那さんは何してるの?」「お子さんは?」「仕事はどんな感じ?」「趣味は?」…チヂミとチーズをつまみながら〈情報収集〉の対話を続ける。
彼女からも「奥さんは?」「お子さんは?」「お仕事は?」「趣味は?」と同様の質問。
細かいことは覚えていないが、2時間くらいお互いの〈現状〉についてやり取りした。
歳は49歳だという。とても見えない。さすがに40は無理でも45以下で十分通用しそうだ。
旦那は小さな不動産会社をやっている…つまり社長ということだ。結婚してもうすぐ15年だという。子供はいない。仲が良いらしく、一緒にゴルフや旅行、飲みに行くと言う。
こちらの質問に屈託なく答えてくれる。多少の誤魔化しや脚色はあるだろうが、ほとんど正直に話してくれている印象だ。
男を騙して取り入る〈悪女的〉なところは皆無に見える。

こちらも彼女の質問にはほぼ正直に答えた。
対話が進むにつれふたりの親密度が増していく。
「サエちゃんと呼んでもいい?僕のことはタケちゃんと呼んで」

とは言え、旦那とも来る店でベタベタしたりしては彼女も困るだろう。適度な距離を保たねば。彼女も同じことを考えているようだ。
もう一歩近づくには、場所と日を改める必要がありそうだ。

時計の針は23時を回った。終電が気になる。
「そろそろ出ようか、終電近いんで」とオレ。
「明日はお休み?」
ん?これは何かの誘い?
まさか、男女の関係を匂わせているわけではなかろう。そんな雰囲気は微塵も感じられない。もう少し飲みたい、話したいということか?
「うん、休み。特に予定ないから、なんなら朝まで付き合うよ」と探りを入れる。
「ほんと?だったら、もう1軒行きませんか?」
「いいねー、どこかいいとこ知ってるの?」
「近くにたまに行くバーがあるんです」
「了解」

ということで、オールナイトを決意する。
突っ込む時は突っ込むのがオレの主義だ。
女性との付き合いでは特に。チャンスを逃すのはもったいない!

(つづく)

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