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断片的なものが集まって、たまに好きが生まれる

人生は色々な出来事が折り重なって出来ている。過去に経験したことと今の経験がつながったり、自分が友人に掛けた言葉が知らぬ間に彼の心を支えていたりと、予想もしないところで影響を与えあっていたりする。

「好きなもの」に出会って好きだと認識するとき、どのような思考回路を辿るかは人ぞれぞれである。僕の場合、「好きなもの」に出会うときは、直感的にこれだと脳に働きかけてくることはほぼ無く、事象の断片がパズルのように組み合わさり、文脈ベースで突如完成することが多いと感じている。

僕には「どうしてもこれが好きだ」というものが無くて、純粋にキラキラした目で好き嫌いを表明できる感受性豊かな友人たちにコンプレックスを覚えたりするのだけど、今から自分が代われるわけではないことを勿論承知しているので、憧れの気持ちを持っているわけではない。

飽き性な性格がそうさせているのか、物事の良い面を見抜く力が貧弱なのか、好きなものに全力投球!というのが昔から苦手なのである。

ややこしい方法論で「好き」を作り出す僕が、今最も気に入っているのが、石川県小松市にある「木場潟公園」という場所だ。
「潟」とは外海と分離してできた湖や沼を指す。石川県にはこの潟を使った湖畔公園がたくさんある。白山山系を源流として生まれた肥沃な加賀平野の中心部にある木場潟公園は、白山や田園の風景と調和した「木場潟」を自然のまま残した水郷公園である。

この木場潟公園にはワスレナグサ、ルイジアナアヤメ、ポンテデリア、カラー、セリ、クレソンなどの植物が植えられており、四季折々の草木や野鳥観察が楽しめる。そしてなんとクレソンについては、水の浄化作用があるため大量に植えられており、秋ごろには公園を訪れた方が誰でも自由に収穫可能となっている。

昔タイのチェンマイに、マッサージ修行のため1ヶ月間滞在していたときに、宿泊先のアパートの庭に小さなサイズのバナナがたわわに実っていて、いくらでも自由に食べても良かったことを思い出した。タイ人のアパート管理人が「フリーバナナ!オーケー!」と笑顔で言っていたことに微笑みの国を感じさせた。そして木場潟公園はフリークレソン!オーケーなのである。小松市民はほとんどの方がこのフリークレソンのことを知っており、自慢気にこのサービスについて話すところにも、心の余裕を感じさせる。

ちなみにクレソンの摘み取り時期について木場潟公園のwebには
・5月前半~6月後半(予定)
・10月前半~11月中旬(予定)
と書いてあるが、先日スーパーの袋を携えて摘み取りに行ったらまだ育苗中だった。ライブカメラなどつけてもらいたいところではあるが、ライバルが増えると厄介なのでこのまま素朴に続けてもらいたいと思っている。
小松市民曰く、実際には8月〜10月頃がオススメとのこと。

僕がなぜ木場潟公園を気に入ってるのかというと、カヌーの大会が開催されるような潟の大きさや、一周6.4kmのランニングコースとしても素晴らしいのだけど、クレソンの存在が大きい。

クレソンといえばスタジオジブリの名作映画『風立ちぬ』で提供されるシーンを思い出される方も少なくないと思う。中盤に登場する謎の老人カストルプ氏がもしゃもしゃ食べていたのは大盛りのクレソンサラダだった。風立ちぬは8年前に公開された作品であり、当時は「美味しくなさそうだけどベジタリアンだから葉っぱを大量に食べるのだろう」と適当に流して見ていたが、心のどこかで気になっていたのだと思う。僕は「ジブリで一番好きな作品は?」と問われたら「風立ちぬ」だと答えることが多いのだが、クレソンサラダは最近まで食べたことが無かった。なんとなくクセが強くて青っぽいものだとぼんやり思っていた。

先日金沢で、35年間生きてきて初めてクレソンサラダに出会い、即注文した。金沢駅前の別院通りにある『いなさ』という、ナチュラルワインとつまみを出す小さなお店だ。店主の石田さんは東京渋谷にあるワインバーアヒルストアや新潟県の佐渡島で働いた後、金沢へ移住して来られた方だった。ビジュアルだけでいうと刃牙に登場するガイアに似ている。

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「クレソンはうちの庭で採れたもので、あとはちょっといいドレッシングを使っています」と、石田さん。このクレソンサラダがワインとも合い、想像以上に美味しくて、カストルプのようにもしゃもしゃとすぐに食べてしまった。

その後すっかりクレソンに気を良くした僕は、その流れで木場潟にも興味を持った。航空自衛隊小松基地のあるこの場所で、松任谷由実の『ひこうき雲』を口ずさみながら、一周6.4kmのランニングコースを周回している。


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