20190826平家物語と日本書紀

平家物語巻11第107句「剣の巻」が記す

神々の系列は、(1)国常立尊、(2)国狭槌尊、(3)豊斟渟尊、(4)埿土煑尊埿土・沙土煑尊、(5)大戸之道尊・大苫邊尊、(6)面足尊・惶根尊

で、この後、伊弉諾(イザナギ)、伊弉冉(イザナミ)が登場してきます。

この登場の順番は、日本書紀本文と同じで、古事記本文とは違います。

では、日本書紀に「一書に曰く」と記された別伝と比較するとどうなるのでしょうか?

日本書紀第一別伝は、

天地初めて判れし時に一物虚中にあり。状貌言うこと難し。その中に自ら化生づる神あり。国常立尊と号す。亦は国底立尊と曰す。次に国狭槌尊、亦は国狭立尊と曰す。次に豊国主尊、亦は豊組野尊、亦は豊香節野尊、亦は浮経野豊買尊と曰し、亦は豊国野尊、亦は葉木国野尊と曰し、亦は見野尊と曰す

となっています。

本文の(1)~(3)は、一柱一柱、別々の神様なので、独り神、(4)以降は、二柱で一対なので、対偶神と言う言い方をすることがあります。

実は日本書紀は、本文に(1)~(3)の独り神が登場した後、1-6の別伝が続き、その後、また本文に戻って、そこで(4)以降の対偶神が登場します。

第一別伝の豊国主尊が本文の豊斟渟尊と同一とすると、第一別伝は独り神の「別名」をあれこれ列挙しているだけです。

独り神の登場順については、日本書紀本文=日本書紀第一別伝=平家物語・剣の巻であると言えます。

では、日本書紀第二別伝はどうかと言うと、

時に国の中に物生まれり。葦牙の抽け出たるが如し。可美葦牙彦舅尊と号す。次に国常立尊、次に国狭槌尊。

と、最初に「可美葦牙彦舅尊」がいて、それから国常立尊が生まれたとしています。日本書紀本文は葦の芽のようなものから国常立尊が生まれたとしていますが、第一別伝は葦の芽のようなもの、それ自体を可美葦牙彦舅尊としています。

第三別伝も、可美葦牙彦舅尊、国常立尊の名を記しています。国狭槌尊以降にはふれていません。

第四別伝は、

天地初めて判れしときに始めに 倶に生れる神有り。国常立尊と号す。次に国狭槌尊。又曰く高天原に生れる神、名付けて天御中主尊と号す。次に高皇産霊尊。次に神皇産霊尊。

で、国常立尊と国狭槌尊の名を記した後、高天原に天御中主尊以下の神々が生まれたとしています。古事記本文の神統譜は、この第四別伝・高天原以降の系譜と一致することはすでに述べたとおりです。

第五別伝は、葦の芽のようなものから国常立尊が生まれたとのみ記し、国狭槌尊以下にふれていません。

第六別伝は、

物有り。葦牙の若くして空の中に生れり。此れに因りて化れる神を天常立尊と号す。次に可美葦牙彦舅尊。また物有り。浮かべる膏の若くして空の中に生れり。此れに因りて化れる神を国常立尊と号す

と述べています。天常立尊、可美葦牙彦舅尊、国常立尊の順です。国狭槌尊以下にふれていません。

以上、独り神の系譜について平家物語剣の巻の神統譜は、日本書紀本文(と同一と見なせる第一別伝)と一致し、第二~第六別伝とは一致していません。


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