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地上波では放送できない社会の闇「プロミッシング・ヤング・ウーマン」

「プロミッシング・ヤング・ウーマン(promissing young woman)」(2020年 アメリカ 113分)
監督:エメラルド・フェネル
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー


出典元:https://eiga.com/movie/94641/gallery/2/

アメリカは男女平等のジェンダーレスで、とても進んだ社会だ。
表向きは実際にそうなのかもしれません。
しかし、それは、ジェンダーレスになった、ということではなく、欲望に満ちた世界が隠蔽されるようになったということとイコールなのではないかと感じます。
90年代、アメリカの鉱山労働者がセクハラ集団訴訟で会社を訴えた世界初の事例を取り上げた映画「スタンドアップ」の世界からはとても思想が発展したように感じますが、それは芸能事務所の性被害と同様に、そういった不都合な真実が隠されるようになっていっただけだった、とすれば、アメリカも実態はそこまで先進的ではないのかもしれません。
この映画もその実態をコミカルに勧善懲悪を理念に描いています。


あらすじ

夜な夜なバーに行き、酔いつぶれたふりをして、記憶があいまいなことをいいことに暴行に及ぶ男たちを私刑する毎日を送っているカサンドラ。
カサンドラは学生時代に医学部に進学し、将来は医者になることが決まっていたプロミッシング・ヤング・ウーマン(未来を約束された女性)だった。
しかし、同じ医学部の親友だったニーナがある事件をきっかけに自殺をしてしまったことでカサンドラも医学部を退学し、カフェで働くようになった。
そんなある日、同じ医学部の同学年だったライアンがカサンドラの住む町に医者として赴任することで、カサンドラの復讐劇が始まった。


出典元: https://eiga.com/movie/94641/gallery/4/

何事もなかったように成功者の道を歩く加害者

この映画を見て真っ先に思い浮かんだのは、日本での東大生の集団レイプ事件でした。
選民意識の高過ぎた学生による暴行事件で刑事事件にもなり、裁判で有罪判決を受けた加害者たちは、その後も何事もなかったかのように人生を歩んでいます。
刑事罰を受けたのだからそれでも問題がないという見方もできますが、執行猶予も付き、結局は見かけ上何も変わらない生活を送ることができたということで、反省をしていないという批判もありました。
格差の激しいアメリカでは、このような事件はもっと多いのかもしれないと感じます。
カサンドラも親友の死に心を痛めた優しい女性でしたが、加害者たちはアメリカで医学部に進学できる富裕層たちです。弁護士をも買収して事件を無効化することに必死になります。
そのことに憤りを隠せないことは想像に難くありません。
ライアンも事件に関わった1人だったのですが、その後も何事もなかったように医学部を卒業して、医者の道を歩んで行きます。
同じ医学部を退学してカフェでアルバイト生活をするカサンドラを憐れむような目で見てきて、静かな復讐心を育って行きます。


出典元:https://eiga.com/movie/94641/gallery/9/

法律をも味方につける加害者たちに鉄槌 その手があったか!

この映画は知識ゼロで見た方がいいと思いますのであまり詳しくは書きませんが、暴行事件などの犯罪であれば、揉み消すことも厭わないタチの悪い富裕層の息子たちは最後にはカサンドラによる鉄槌が下されます。
その方法が衝撃的でこれは見た方が良いでしょう。
徐々にニーナに直接暴行を行った男子医学生に行くまで、同じパーティにいても見て見ぬふりをしていた人や、ニーナが精神的におかしいと噂を振りまいた女性同級生など、多くの加害者たちに復讐をしていきますが、そんな過去を持っていても何食わぬ顔をして成功者の道を歩んでいる多くの人たちにカサンドラの鉄槌が下っていきます。
最後に直接ニーナに暴行を働いたアルとカサンドラの直接対決です。(結末はかなり衝撃的です)
生半可な犯罪だったら揉み消す力を持っている社会的成功者に対し、その罪を認めさせる方法に衝撃的ながらも、その手があったか!と膝を打ってしまいました。
それと同時に、選民思想を持ったエリートたちは、マフィアや暴力団のようなアウトローとは違ったたちの悪さがあり、これはこれで犯罪を犯しても反省をしない犯罪者と変わらない大きな社会的な闇を抱えていると感じました。

蜘蛛の巣のように張り巡らされた複雑な伏線

この作品は2020年のアカデミー賞脚本賞を受賞しました。物語の作りとして教科書に載せたいようなテクニカルな内容が多く、数えきれない伏線が回収され、物語の複雑ながらも一つの線で結ばれるような構成が特徴となっております。
結末や途中のサイドストーリーなどに多くの考察がネット上でも展開され、映画好きの間で内容に関する議論が白熱しました。
私の信条として、多くの考察が生まれ、光を当てると乱反射するように様々な広がりを見せる作品は「名作」であるというものがあります。
プロミッシング・ヤング・ウーマンもその一つに十分なりうると考えています。
脚本は、BBCアメリカでストーリー展開に高い評価を得たテレビドラマ「killing eve」シリーズを手掛けたエメラルド・フェネルが監督と兼任で製作しています。
面白くないわけがない、と思ってみたのですが、内容は想像以上でした。

ニーナの事件を担当した弁護士

私の中で特に印象に残った人物として、ニーナの事件を担当した弁護士の存在がありました。
彼は、ニーナの事件でニーナの弁護をしなければならないはずだったのですが、加害者たちから多額の報奨金を積まれて、ニーナに不利な展開に導き、ニーナが人間不信になって自殺をする原因を作ってしまいました。
そのことをずっと後悔していたとカサンドラに打ち明けています。何度もカサンドラに「forgive me」(許してくれ)と言っていたことが印象的でした。
この弁護士も加害者たちの被害者なのではないかと感じた次第です。(最後、復讐にこの弁護士が特別な意味が出てきますが、これはご覧ください)

映画中毒者からの一言

光が強すぎる場所には、それ相応の影ができる。

成功者が成功者であり続けるためには、影との付き合い方が重要です。

そうですよね?
政治家の皆さん!


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