催眠ガールM

大嶋信頼さんの『催眠ガール』を読んでいるうちに、夏目ちゃんのようにいろんな人の催眠スク…

催眠ガールM

大嶋信頼さんの『催眠ガール』を読んでいるうちに、夏目ちゃんのようにいろんな人の催眠スクリプトを書くようになって、書き溜まってきたのでブログをはじめました。読むだけで無意識に働きかけます。効果の感じ方には個人差があるようですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

最近の記事

春のスクリプト

マンホールの下の暗い地下通路で、合羽を着た子供が、息をひそめて、隠れています。水面に顔を出すといけない。そのままだとおぼれ死んでしまうけれど、それでも耐えないといけないから。ひんやりと皮膚から冷気を感じます。通路の真ん中は大きな川になっています。外は雨みたいで、濁流が前から後ろに流れていきます。明るい部屋なのに暗くて、温かい部屋なのに冷たい。なんだか、同じ時間に違う場所に私がいるみたい。どうやら私というものはこの瞬間にたくさんの場所に存在していて、全く違う世界にも私は存在する

    • 愛を生きたスクリプト

      子供の頃は、何も映らないテレビが、畳の居間にあったんです。 よくあるブラウン管よりもっと前の、つまみを回してチャンネルを変える、大きな木製のテレビ。 あれはいつの日だったかなあ。 外で蝉がうるさく鳴いて、何もしなくても汗がじわじわ溢れ出すようなかんかん照りの日。居間で寝転がりながらソーダの棒付きアイスを食べていたんです。 袖と襟が青い、白のTシャツに、デニムの半パンを履いていました。 蛍光灯の点いた木の天井をぼんやり眺めながら、ああ、夏ももう終わりか…としみじみ思ったん

      • 抜け落ちるスクリプト

        電気がついているのに、なぜかいつも薄暗く感じるんです。 昔は、リビングとダイニングの間にブラウン管のテレビがありました。 赤と白のチェックの布がかかった棚を、お父さんがDIYで作ってくれたんです。テレビゲームを入れる、私たちの夢がいっぱいつまった宝箱。そう。あの時は宝箱だと思っていました。 その棚の向こうにはダイニングとキッチンがあって、そして、冷蔵庫の手前には、お父さんが作った大きな棚がありました。固定電話や鉛筆立て、アルバムに料理本…いろんなものが入っていました。 光

        • 転生のスクリプト

          灰色の雲に覆われた町の空に、雷が、光っています。 その雷が、背骨を通って、上から下へ、体を貫きます。 雷に貫かれた人は、白目をむきながら、後ろへ、棒立ちのまま、倒れました。 何が起こったのか、周りの人は、何もわかりませんでした。 大都会の中心地で、スーツ姿の男性が倒れたのです。 男性の周りをよけながら、横目でチラチラ見ながら通り過ぎていくサラリーマンもいれば、野次馬のようにずっと見て騒いでいる女子学生たちもいます。 雨は降っていなくて、ただ雲だけがもやもやしている日でした。

        春のスクリプト

          宝箱のスクリプト

          黄色い服を着たちいさな男の子が、こちらを向いて、笑っています。 保育園でしょうか。黄色い壁の、何もない、広い遊び場にいるみたいです。後ろで、ピンク色の車のおもちゃを走らせている女の子がいます。 男の子は後ろを向いて、遊びに混ざるわけでもなく、ぼーっとしています。 何も考えていないようです。ただぼーっと、上の方にある窓の外を眺めています。 もしかしたら、この子は、何も考えていないのではなく、考えることができないのかもしれません。 まるで、記憶をすべて海の底に沈めてしまったかの

          宝箱のスクリプト

          泥の中のスクリプト

          緑色のTシャツが干されています。ぱきっとした、緑色。折り紙のような緑色。あまりファッションに興味はないけれど、気が付いたらお気に入りになっていました。本当は毎日着たいくらいだけど、今は寒いから、夏がくるまではタンスの中に入れておかないといけない。でも、この緑色が好きで、今の時期でも部屋の中でつるしておきたくなるんです。 気が付いたら、お気に入りのものがこの家の中にたくさん増えていた。あれも、これも、それも。自分では増やした覚えはないけれど、いつの間にかそばにいて、生活の一部

          泥の中のスクリプト

          液体のスクリプト

          私はもしかしたら、漬け込んで少し時間の経った果物たちが、瓶の中でぷくぷくと息をしているのを見るのが好きなのかもしれません。 ああ、この子たちも生きているんだなって感じるでしょう? ああ、もっと自然に還りたいのになあ。 こんなせせこましいところから抜け出して、もっと広大な草原を駆け抜けたい。 青い空の下、裸足で大地に立った時の、あの土の冷たさや、田んぼに素足を入れたときの、あのにゅるっとした気持ちのいい感覚。 足の裏から、樹木のように、かつてのあの子たちのように、吸い上げて、

          液体のスクリプト

          駄菓子屋のスクリプト

          『やさしさ』とは、いったいなんなのでしょうか。どういうものが、やさしさなのでしょうか、と、よく考えます。 ふわふわわたあめのようなもの?赤いカップに入った、あったかいコーンスープのようなもの?ピンク色のリボンがついた、かわいらしいハンカチのようなもの?ううん、どれも違う気がする。だって、やさしさというものは、目には見えないものだから。 だったら、この家にはやさしさは存在しないのでしょうか?いいえ、ちゃんとあることを、あなたも、この猫たちも、みんな、確かに無意識に知っている

          駄菓子屋のスクリプト