ドスケベマン(20)

「――あ、そ」
緊急の報を持ってきたドスケベアーミーから内容を聞くと、マリリンはつまらなさそうにあごをしゃくった。
「あのババアが、ね」
報告したドスケベアーミーはその無関心さに戸惑っていた。
「――マリリン様」
マリリンの横にずっとたたずんでいたドスケベアーミーがマリリンに声をかけると、面倒くさそうに報告した兵のほうを向く。
「援軍は、ドスケベキングに許可を得てから送るわ。それまでは現地基地を防衛してちょうだい」
戸惑いながらもドスケベアーミーは部屋から下がる。

恐らく、西地区はアーマード倫理観が死んだ今、レジスタンスが活発化して蹂躙されるだろう。
すでに多摩川より西側は統制が取れていないと考えて間違いない。
恐らく南地区のマリリンへ援軍の命は下るだろうが、それはある程度レジスタンスたちが互いにつぶし合ってからにしたい。
それまでは現状の基地から徐々に武器と情報を引き上げさせ、西側の防衛線を再構築しなければならない。
マリリンにとっては何とも頭の痛い作業だ。
アーマード倫理観の配下の兵は戦闘力は高いものの、頭の回る指揮官が少ない。
それはアーマード倫理観がすべて自分で支配し指示することに固執したからである。
マリリンは彼女の武力至上主義を好ましいとは思っていなかった。
悪書セイバーやアーマード倫理観は民衆には理解する頭脳がないため圧倒的な力で支配すべきという考えであったが、マリリンは二人とは少し考えが違っていた。
「――どうやって利用しようかしらね」
マリリンは支配を、力を、そもそも人間を信用していない。
いくら力でねじ伏せても農民たちは定期的に武装蜂起する。
力だけではだめなのだ。
「シンヤ――」
無言で隣に控え続けているドスケベアーミーにマリリンは呼びかける。
「――『準備』の時間はどのくらいかかるかしら」
シンヤは2秒ほど思考を巡らせる。
「必要生産人口分でしたら、2週間ほどかと」
「――じゃあ1か月、ほっときましょう」
返事を聞いてやる気なさげにマリリンは手を振り、それを合図にシンヤは部屋を出た。
1か月。
レジスタンスたちも一枚岩ではない。
最初の2週間ほどはお互いに協力を誓い合うだろうが、もともとそれぞれ求めるものは違う。
徐々に誰が支配するか、誰に支配されるかを考え、やがてそれはひずみとなって噴き出してくるだろう。
それでいい。

マリリンはぼんやりと窓の外を眺める。
空は昼間にもかかわらず夕暮れのように暗く、今にも雨が降りそうな気配だった。

続く

ぼくの日々のゼロカロリーコーラに使わせていただきます