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駅構内での接触事故で思い出したこと

いつものように駅に向かう道で聞こえるアラーム音。改札を入るかどうか躊躇している間もアラーム音が鳴りっぱなしで構内アナウンスが聞き取れない。電光掲示板で接触事故の為全てがストップしている状態だと言うことがわかった。しばらくすると救急車、消防車が到着、ストレッチャーが改札を通るのをみて、負傷者、転落事故、生存と思った。この時点でようやく職場に電車遅延のための遅刻の報告をした。それにしても遅い、ストレッチャーがホームから上がってこないのだ。救出するのに時間が掛かりすぎる、助かるのか?と不安になった。運行再開を待つか、ルートを変えて出勤するか情報収集するために駅構内を動き回っているとようやく救出できたこと、これから現場検証が終わってから再開をするまでまだ時間が掛かる見通しだというアナウンスを聞きながら、足元を見ると血痕、ストレッチャーの車輪の跡が赤く続いている。おびただしい量でないことが逆に不安に思えた。

その頃には駅構内、駅周辺も交通渋滞と人がごった返した状態で、どちらかと言うと普段の通勤風景に戻った感じに思えた。居合わせた人たちはそれぞれ職場や、営業先、家族などに連絡を取るために必死な様子、私も交通機関の情報収集にスマホを見ながらネットニュースを見ると「迷惑だ」「飛び込んだらいけないのに」「親からもらった命大切にしないと」などの文面が飛び込んできてどうも自殺だったらしいと知った。

床の血痕を目で追っていると
15年ほど前の記憶がよみがえってきた。

「ここに飛び込んだら死ねるかなぁ」じーっと線路を見つめながらポツリとつぶやいた。この駅のホームで多分15年前、通学時間だからこの時間、女子高校生のつぶやきを、一緒にいた母が聞いていた。母親が一緒にいなかったら事故は起きたかも知れない。

彼女は精神科療養のため病弱養護学校に通学していたようだった。女子生徒の不安は学校の統廃合が決まったことだった。療育のため静かな環境を求めて病弱養護学校を選んで入学したハズなのに統廃合によって大きく環境が変わることになった。統廃合が決まったことで環境が変わること、統廃合してみないとどう変わるかもわからない、誰でも不安になることだ。ましてや精神障害の彼女にとってどれだけ大きなストレスになったことか想像するだけで今でも辛くなる。彼女は統廃合の情報を知ってからかなり動揺していた様子だった。そんな不安定な彼女の登下校を母親が支えていた。公共交通機関を使い社会生活ができるように療育をを含めて介護支援者として毎日の登下校に同伴していた、そんなある日の通学時の時の言葉だった。

母親からの相談は娘が不安になっているので環境を変えないようになんとかして欲しい、統廃合に反対と言うことなのだけど、具体的に彼女が飛び込みをしそうになった事実を公表するわけにはいかない。公表したことに動揺して彼女が傷つくリスクを考えると公表はできない。既に決定している統廃合を撤回することはできなくても、統廃合をするならバリアフリーのように見える配慮だけではなく、生徒や保護者の不安にも配慮をして欲しいということを事実の公表をしないでどう伝えるか悩んだ。母親には女子生徒の不安を保護者、生徒、教師みんなに知って欲しいと言う思いがあったのかも知れないが、当時育友会の会長だった私は、悩んだ末この親子の事例を教職員に伝えるために、女子生徒が飛び込みそうになった状況とその背景の統廃合による生徒、保護者の不安をレポートにまとめることにした。出来上がったレポートを職員会議で配布、教職員全体で共有してもらうことにした。配布したレポートは職員会議後に回収、破棄することを前提に教職員にだけ公表することで保護者の了解もとれた。そんな出来事があった翌年統廃合後の学校名での卒業証書を受け取り彼女は卒業した。翌年特別支援学校元年となった。

飛び込み自殺による社会の混乱と不利益は大きい。その行為を非難したいなら本人に言わないと意味は無く、本人を目の前にして「迷惑だ」などと言える人はいるのだろうか?そして非難するような投稿をする人はどちらかというと面倒なことには直接関わりたくない人なのではないか。いろんなことが重なった時、そういう悪意のない無意味な言動に追い詰められるてしまうこともあることを知らない人、気が付かない人だ。

15年前に未然に終わったことが、今回の事故で目撃した床の血痕を見た途端リアルな記憶として蘇った。その人が何故そのような行為に至ったのか、何があったのかに思いを巡らせることをしたい。

「盲・聾・養護学校」から「特別支援学校」へ(学校教育法等の一部を改正する法律について)https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab200601/002/002.htm

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