見出し画像

優雅なランタンづくりは幻想だった

初夏に入った頃から、バスタイムにキャンドルを楽しんでいる。その相棒が手作りのボタニカルランタン。小さいペットボトルほどのサイズで、蜜蝋にハーブやドライフラワー、そしてラベンダーのアロマオイルを混ぜて固めて作った。
ここまで来ると、もはや「丁寧な暮らしなんかしていない」という言い分は通用しないかもしれない。ただ“丁寧な暮らし慣れ”していない私にとって、この手作りランタン生活に至るまでの過程は結構骨の折れるものだった。


ボタニカルキャンドルに憧れ、諦めたわけ

ランタンづくりをすることになった経緯はちょっと複雑だ。

きっかけは「入浴中くらい脱スマホしたい」というスマホ依存人間ならではの悩みだった。仕事はほぼPCに張り付いてのデスクワーク。さらにプライベートでも隙あらばアプリゲームにログインしたり、ダラダラとYouTubeを見たりしているので、とにかく目の疲れがひどい。それでもスマホを手放せず、ついに浴室にまで持ち込むようになってしまったので、さすがに危機感を覚えて対策を考えたわけだ。「そうだ、キャンドルバスタイム、やろう」と。暗い浴室で画面をずっと見ているとさすがに目が疲れるし、スマホ水没への恐怖心から、自然とスマホから離れられそうだ、という魂胆である。

そこで最初は、ボタニカルキャンドルを購入して使ってみた。偶然、近所の駅ビルに来ていたポップアップショップで選んだものだ。本物のドライフラワーがあしらわれたラベンダーのアロマキャンドルで、香りがよく、見た目もかわいらしい。

ボタニカルキャンドルの中心だけが溶けていくつくり。
形が残るので使い切ってからもインテリアとして飾っている。

ただ、当然キャンドルは消耗品だ。気に入る一品が見つかるまで時間を掛けて選び、1,000円以上かけて購入したものが、たった1カ月ほどで使えなくなってしまう。手作りのボタニカルランタンとしてはかなりリーズナブルな値段設定のようだが、習慣として続けるにはやや出費が痛い。それに買い物も結構な手間だ。例のキャンドル店にはECサイトもあったが、キャンドルは一つひとつ手作りということもあり、やはり実際に手に取って形や花、香りを確かめて選びたい。となると、1カ月に1回は都内のどこかへキャンドルを買うために出かけなければならない。これだと習慣にするには持続可能性に不安がある。

「それなら自分で作ればいいのではないか」と思いついたのが次の段階だ。調べたところ、キャンドル作りは思ったほど難しい作業ではない。要はロウ(ワックス)を溶かして芯の周りに固め直すだけの作業なので、バレンタインの手作りチョコレートのような要領で作れてしまう。小学生が夏休みの自由研究としてキャンドルを作るケースもあるみたいだ。また歴史をたどると、ロウソクは部屋の明かりを確保する道具として、実用目的で手作りされていたこともあるという*1。これが、自給自足に少し関心のある私にはかなり琴線に響いた。
さっそく、本物のドライフラワーを使ったボタニカルアロマキャンドル作りに取り掛かろうと思ったが、さらにリサーチする中でひとつの問題が発覚。ドライフラワーをあしらった手作りキャンドルは作り方によっては火災が発生する恐れがあるとのことで、断念せざるをえなかった。実際、下記のように火災が起こった複数の自治体で危機喚起もされている。

ボタニカルキャンドルによる火災にご注意ください! _ 岡崎市ホームページ

手作りキャンドルによる火災にご注意ください 新潟市

ドライフラワーを使わない蜜蝋キャンドルなら安全に作れそうだが、私としては最初に出会ったボタニカルキャンドルの体験が忘れがたく、完全にはあきらめられない。ほんのりとアロマが香る中、ともされた火がキャンドルを通して暖かくやわらぎ、ドライフラワーのシルエットが幻想的に浮かぶ。あの体験を何とかリーズナブルに楽しみ続けられないものか──。

*1 19世紀半ばのアメリカなど(リンク先の写真は再現)。現代でも自給自足的な暮らしの中で伝統的なロウソク作りをしている例として、アメリカの絵本作家ターシャ・トゥーダー(1915~2008)、ギリシャの聖プロドゥロモス修道院など。

生活の木のランタンキット VS 不器用人間

そのとき出会ったのが、香りを愛する者の味方・生活の木が提供する「ランタンカバー(キャンドルカバー)を手作りできる」キットだった。
商品の正式名称は「アロマ香る myボタニカルアロマランタン 手作りキット」(残念ながら2023年10月時点ですでに販売終了してしまっている)。蜜蝋や3種のドライハーブ、アロマオイルなどの必要な材料一式がそろっているほか、ティーキャンドルと耐熱ガラスのキャンドルホルダーもひとつずつついているのがうれしい。別途自分で用意したのは湯せん用の耐熱容器(ビーカー)と竹串、285mlペットボトルのいろはすだけだ。作り方はYouTubeでわかりやすく説明されている。

これで、私のような丁寧な暮らしにわか勢でも、ドライハーブがぼんやりと浮かんで見えるかわいいランタンカバーがいとも簡単に手作りできてしまう、はずだった。哀しいかな、“線に沿って紙をはさみで切るのも難しい”レベルの不器用人間である私には一筋縄ではいかなかった。

大まかな手順は以下のようになる。

  1. 紙コップ、プラスチックシート、ペットボトルで型を作る

  2. 型にドライハーブを入れる

  3. 湯せんで蜜蝋を溶かす

  4. 溶かした蜜蝋にアロマオイルを入れる

  5. 蜜蝋が固まる前に素早く型に流し込む

  6. 冷蔵庫で冷やし固める

  7. 型を外す

この5と7が意外と難しい。
まず5の工程では、型を回しながら均等にロウを流し込まないといけない。これが実は、こまめに型を回さなくても、なんとなく全体にロウが行き渡ってしまう。「なんだ、思ったより簡単じゃん」と高をくくっていたら、できあがってみると厚みにムラができてしまい、一部が穴あきに。さらに火力の強いキャンドルを使った場合は薄い部分が溶けかけたりするようになってしまった(現在はキャンドルの芯を短くして火力を弱くすることで対処している)。
さらに難関なのが7の工程だ。説明動画では本当に優雅に、つるっと型からできあがったランタンカバーを外しているが、現実はこんなもんじゃない。動画のように、ペットボトルが上から下まで一様にねじれてくれない。いろはすのペットボトルの下部にあるぐっと凹んだ部分にロウが入り込んでペットボトルが固定されてしまい、上半分しかねじれない。かといって無理やり取り外そうとするとランタンカバーが歪んでしまう(特に薄くなってしまった部分)。最終的にはカッターでペットボトルを切り割き、30分くらいかけてようやくランタンカバーを救出した。ギャーギャーわめきながらペットボトルにカッターをガツガツと突き立てる中年女の姿は、丁寧な暮らしのイメージからは遠くかけ離れた光景だっただろう。
たとえ親切な初心者手作りキットであっても、慣れない不器用な人間は普通に失敗する──改めてたどり着いた真理だった。

失敗も“味”にできる手作りの救い

こうして苦労はしたが、幸い大失敗してしまったわけではなく、ほとんど問題なく使える程度には形にすることができた。キットに入っていたドライハーブに加え、自分の結婚式で作ってもらったブーケをドライフラワーにしたものも少し混ぜ、オリジナリティも演出。向きによって柄が大きく変わるのが気に入っている。穴が空いたり、厚みにムラがあったり、形がいびつだったりしても「手作りの味」「オンリーワンっぽさ」に昇華できるのは心強い。

そして今、あんなに七転八倒したにもかかわらず、このランタンカバー作りは一回きりでは終わらせたくないなと思っている。ドライハーブはまだたくさん余っているし、紙コップやビーカーなどの道具も引き続き使える。蜜蝋とアロマオイルだけ買い足せば、もっと完成度の高い2個目、3個目を作れそうだ。
まずは近しい家族や友人にプレゼントできるクオリティに仕上げられるのが目標だ。そのためにも、ここに最初の試行錯誤と格闘の記録を残しておきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?