見出し画像

日本酒「辛口ください」について

タイトルの件は、業界では10年以上に渡って話題にあがることです。そして、酒に関わるようになって1年ちょっとの自分が以下に書くことは、すでに語りつくされてことであり、ツッコミどころも多々あると思いますが、現時点で「素人」と、「仕事にしている立場」の中間に立つ者として書くことは意味があると思うので、整理も含め敢えて書くことにしました。

大事なのは「飲み手の感じた味がすべて」「辛口=美味しいって先入観はなるべく避けたほうがいい」ってことです。

「飲み手の感じた味がすべて」は、「日本酒に辛口って味は存在しないんだよ」と理論的には言うことは簡単だと思いますが、そもそも酒は官能的なものだと思うのでいくら日本酒理論をかざしたところで、飲み手にとっては意味がないと思っています。(以前、都内の和食屋で『日本酒に辛口は存在しません。なぜなら〜...』とメニューに書いているお店がありました。それを伝えていくことは確かに大事。大事なんだけど、酒屋や日本酒バーでもない限り、和食屋のメニューの1ページ目にその理論を書く必要ってあるのかな?と思いました)

その人が辛口だと思えば、数値的に甘味の強いものでも、人によって辛口になるケースはよくあるからです。

ただ現場では、「辛口のすっきりした日本酒ください」は、本当によく言われることです。そのオーダー自体は、ワインなど他業界でも往々にしてあることなので別に珍しいことではない。特に「スッキリさ」というのは、食中酒として重要な機能なので非常に大事な側面。

そこで僕が重視するのは、そういうオーダーをされる方は「辛口=美味しい」とされてる方であるため「少し舌に刺激があり、ベタつかない、かつ旨味があるもの」と解釈しています。なのでこのケースにおいては刺激=アルコールのピリピリ感(or酸味)で、余韻が短いもの、旨味=甘味だとし、それに近しいものを提供するようにしています。

最後に、「辛口=美味しいって先入観はなるべく避けたほうがいい」に関しては、当然上から目線で言うつもりは毛頭なく、日本酒には千差万別の味があるので、その先入観によって楽しみ方を限定してしまうのは非常にもったいない+もっと楽しんで頂きたいという意味合いです。

香味、酸味、甘味、キレ味、苦味、渋味。
そして、これら6種類の中にもさらに様々な味わいがある中で、「自分にとって美味しい日本酒」の定義を、辛口だけに限定するのは、やっぱりもったいないと思うんです。さらに温度帯にも楽しむ余白があるので、闇雲に限定することは避けてほしい。

同業からたまに聞く話では「飲み手が悪い」「若い奴は味が分からないんだよ」みたいなことがあります。

なにを以って飲み手が悪いと言い切れるのか理解が出来ないですし、年齢の若い方でも驚くほど繊細な味覚をお持ちの方もたくさんいらっしゃいます。

「辛口=美味しい」の図式はある程度は間違ってないと思う一方で、これには日本酒業界の歴史が脈々とある以上、マーケティングの責任もあると思います。
それが止む終えない、時代や産業の要請であったことは理解した上で、事実としてやはりそういったブランディングをしてきた側面は大きなポイントだと思います。

そしてその業界の1人になって、日本酒のトップランナーである酒蔵さんたちが、今や辛口ではなく、日本酒本来の複雑な味わいを表現し始めてる以上、その先入観をこれから払拭していくことに微力ながらも取り組んでいきたいと思います。

色々と書き走りましたが、きょうはこの辺にしたいと思います。おやすみなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?