domingo, 06 de agosto de 2023

「どうして粉薬の方を先に飲むの?まず水を口に入れて、それからそこに流し込めばもっと楽なのに」

2人して風邪を引いた僕らは、声を錆びつかせて床に座っていた。鼻が詰まっているのに鼻水は全く出なくて、彼女は咳をしすぎたせいで腹筋が縦に割れ始めていた。そして僕は少し頬がこけた。

元は彼女が持って来た風邪だった。彼女はそれを治すために僕の家に滞在し始めたのだ。

「風邪、絶対に移したくんだけど、でもどうしても来たくて」
と、ガシャガシャした声で話していたのを覚えている。

そして、何日かして僕の鼻がムズムズし出してくると、
「あ、移ったね」
と、笑った。

僕は粉薬が嫌いで、その飲み方ももちろん素人メソッドである。舌を上に伸ばし、空いた窪みに流し込んでから水を一気に飲む。口の中に嫌いな味が炭酸のように広がり、流れ切らなかった粒子が溶け、歯茎の奥に挟まる。

「嫌いなのに、それじゃ逆に薬を味わっているみたいよ」
「そうだよね、でもね、本当に嫌いなのに、だけどなんとなくどこかで味わってみたいって気持ちもあるんだ。なんて言ったっけ、この感情。なんか言葉あったよね」
気怠く目覚めたのは11時前で、だけどその後2人でふにゃふにゃと掛け布団を取り合っていたら、あったという間に13時を回っていた。

薬飲むために昼食を作った。

寸胴鍋でパスタを茹でる。昨夜食べ残した鮭のホイル包み焼きを隣のフライパンで作ったクリームソースにぶち込む僕を見て、
「そうやって誰にでも簡単にできるような雰囲気でやってますけどね、そういうところですよ、敵を作るのは」
と、彼女が言った。
どうやら僕はどこか嫌味ったらしいところがあるみたいだ。
彼女はそれを憎く思っていて、それでいて同時に誰にも知られたくなさそうにしていた。
「他の人に作るなよ、これ」

彼女の声のガシャガシャはすっかりよくなり、それに合わせるように勝手に着ている僕のTシャツは先週よりもずっとしっくり来ていた。
1週間なんて本当にあっという間だ。
時の流れを感じさせるものは、こんな風にそこらじゅうに転がっている。

爆発するくらいに美味しくできたパスタをあっという間に平らげた後、始まりかけた西陽を浴びながら彼女は薬の袋を開けた。

「アンビバレント、じゃなかったかしら」

僕は甘苦い粒子を舌で溶かし、水をもう一口飲んだ。

「嫌いな粉薬に対して、嫌だなぁって思いながら、でもその味を感じたい思ってこと?」
「そう。絶対風邪を引いてほしくないのに、それでもやっぱり来てしまって、しかも移してしまえば自分は回復できると自覚している、ってこと」

風邪を2人で引いてみて、パスタを食べるついでに相反する感情の間を行ったり来たりすれば、時間はいつだって簡単に忘れられるし、それに後から振り返ってもそこには何も残っていない。

クリームソースが乾いて皿と一つになる。
雲が流れて部屋がまったりとグレーを帯びる。

治ってほしい気持ちと、ずっとこの時間が続けばいいという思い。
アンビバレントな僕は、あの日の彼女のガシャガシャ声がもう懐かしくなっていた。

割れた腹筋と痩せこけた頬が相反しながら2人の日々の証拠としてここに漂い、しかし、また週明けから始まる目まぐるしい生活の中でいずれ消え去っていく。

雲が過ぎ去り、すっかり彼女のものになったTシャツに西陽が差した。

口の中で最後の粉薬が溶ける。
だけど僕は本当に最後かしらと、あくまでも疑いながら舌を這わせ続けた。


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