マガジンのカバー画像

本屋じゃないけど本屋のはなし

11
本屋はやめちゃったけど本屋が好きな人の本についての雑談。
運営しているクリエイター

記事一覧

サイン本を買う理由

本屋で、作家のサインが入った本が売っていることがある。「サイン本」というやつだ。私は、ほしいと思っていた本の中にサイン本があると、比較的買いがちである。サイン本は冊数が少ないのでそれをめがけて本屋に行くことはないが、あれば「ラッキーだなあ」くらいに思ってカゴに入れている。 信用していないわけではないが、サインの入った本を眺めていると「書いた人が本当にいるんだ」と作家の存在を実感できる。私には何かを創作する力や日常をおもしろく綴るセンスはないから、なにが一体どうなってこの文章

読書が人生を救うかは別としても、取り急ぎ私の生活を守ってくれた個人的3冊

生活がヤバい、暮らしがヤバい、人生がヤバい。 ストレスと疲労がたまり、精神的にも肉体的にも限界を感じ始めていた1月の終わり、ついに腰をやった。重くなってきた子どもを抱き上げた瞬間、これまで経験したことのない激痛が腰に走り、動けなくなった。必死の思いで身体を引きずりながら近所の整形外科に行くと、「椎間板が傷んでいる」のだそうだ。 椎間板ってアレか?ヘルニアとセットで語られるソレか、なんて考えながら日常生活で気をつけることは…と消え入りそうな声で聞いて、なんとか帰宅。薬を飲ん

上とか下とか下とか上とか:マウンティング沼に落ちないための3冊

人をうらやむことなく生きていけたらどんなにいいだろう。 どんな時でも「自分は自分」と脇目をふらずにただ前だけを向いて生きていけたら、こんな清々しいことはない。 西に結婚したという友がいれば、走って祝いに行き、東に起業したという友がいれば全力で応援する。南に出産したという噂を聞けば「なんとすばらしい!生命の神秘なり」と拝み、北に夢を追う人を見つけたらエレカシの「今宵の月のように」を一緒に歌う。 そんな風に生きられたら、人生はもっとずっとずっと楽しいだろう。 でも、でもだ

もう夢と金のはなしは引き受けない

書店員の給料は安い。出版業界の人ならよく知っているかもしれないが、そうでない人でさえ、少し調べれば「これは…」と思うような求人情報が山ほど出てくる。 1円単位まで最低賃金ぴったりの書店、交通費が支給されない書店、残業代が一切出ない書店、昇給が見込めない書店。 店や会社によって違いはあれど、どれにも該当しないですよ、ウチは本しか売らないけど残業代も交通費も出るし、そもそも初任給が高いしがんばればお給料もジャンジャン上がります!20代でマンション買ってる人もいるよ!って書店は

みんなちがって、みんなみんな

自分が他の人と違うこと、そしてそれがとても厄介だということを思い知らされたのは小学生の時だ。 私は生まれも育ちも同じ土地で、父と母と兄弟と共に暮らし、身体は少し大きい方だったけど、喜怒哀楽も少し激しかったけれど、その他は大した特徴のない子供、のように見えた。 左利きということを除いては。 自宅の近所の幼稚園に通い、そのまま近所の小学校にあがった。幼稚園の頃からきっと左利きだったはずなのだが、それで困った記憶がないのは、おそらく「他者」を意識できるほど自分も周りも心が発達

本屋にいったい何ができる

そこに一軒の本屋があったとして。例えばそこで働いていたとして。 私に一体何が出来るのだろう。 どんな手段を使ってでも明日が来るのを阻止したい人がいたとして。希望という言葉を忘れてしまった人がいたとして。言葉にできない感情を「口にしてごらん」と言われて途方にくれた人がいたとして。行き場を探してたまたま辿り着いた人がいたとして。 本屋に一体何が出来るのだろう。 例えば、歴史を築いた人の本を置く。困難を乗り越えながら生きた人の本を置く。現実では絶対に起きないような壮大な物語

イントロからエンジン全開でもいいじゃない

書店で本を選ぶとき、あなたはどこを見るだろう?外側だったらタイトル、表紙、帯、中身、文庫の裏のあらすじ。内側だったら目次、冒頭、あとがき、解説。いろいろあるに違いない。 ちなみに私は小説においては冒頭と終わりを読む。なぜ終わりまで、という風に思うかも知れないが、終わり方が自分の好みに合うかをなんとなく見る程度なのでネタバレ的な危険性はない、と私は思っている。それに実際読み始めると最後にどんなことが書いてあったかなど忘れてしまうものだ。ついでに白状すると、よくある「ラスト一行

予定のない休日はノンストップで読みたい小説と共に

「徹夜必至」「電車乗り過ごし注意」「ページを捲る手が止まらない」「一気に読んじゃいました」 どれもこれも本屋でよく目にする文句だ。あまり目にしすぎると「ほんとかよ」と思ってしまうかもしれない。「んなわけないだろ、徹夜はさすがに無理だよ」「気をつけて電車に乗らなきゃだめだよ」と思うかもしれない。あるいは「いやいや、そう言っときゃ買うと思って、まったくもう」とか。 たしかに冒頭の売り文句は使い古されてきた感がある。出版社の皆々様にはぜひもっとクリエイティブな文言を生み出してほ

この暑い夏に読みたい本の話をしよう

寒い夜だから明日を待ちわびて。寒い夜の過ごし方を教えてくれたのは小室哲哉だけれど、それなら暑い夜には何をしようか。なんて、あちーなー、と思う度に「寒い夜だから…」という歌声が頭の中に流れるのはこの狂ったような暑さのせいなのか。暑さが一周してついに寒さについてしか考えられなくなってしまったのか。まあそんなことはどうでもよくて、とにかく毎日暑いのだ。そんな時こそ涼しい部屋で優雅に読書なんてどうだろう。ということで暑い日々に読みたい本を5冊集めた。 ◆高野秀行『世にも奇妙なマラソ

言葉はいつだって不完全で曖昧だ

8月1日発売のBRUTUSの特集は「ことば、の答え。」だ。 BRUTUSの本や映画の特集はなるべくチェックするようにしているが、今回はついに言葉だ。 詩、リリック、台詞、回文、対談、小説の書き出し。少しずつだけどたくさんの方向から「ことば」をみる。 個人的には、表紙のスマホ画面が割れているところと、祖父江慎の「ことばとは?」に対する答えが好きだ。詩って、なんとなく日常とは離れたところにいるような気がするけれど、それが「画面の割れたスマホ」っていう実生活のなかにある、って

本屋じゃないけど本屋の話がしたいのだ

紙の本がヤバいという。本屋がヤバいという。 確かに、娯楽は多様化しているし、スマホになんでも入っちゃうからいちいち単行本や雑誌どころか文庫でさえ鞄に入れてなんかいられないし、そもそも鞄すら持ち歩かなくったってどうにかなるし。そりゃあ本は読まないよ。 わかっている。そんなことはもうだいぶ前からわかっているんだけど、それでも私は本と本屋の話がしたいのだ。 田舎で貧乏で親が不仲で友達少ない、という環境で育った私は、漫画雑誌にお小遣いをほぼ全投入し、あとは図書館で本を借りて読む