工員さんの中に笠原さんというおじさんがいた
明るく私たちも分け隔てなく怒ってくれて
そんなおじさんが大好きだった

お昼になるといつもコソコソお弁当を食べていた
こっそり見にいくとお弁当が全部ピンク色だった。
「きれい～」と言ったら照れくさそうにお弁当箱のふたを閉じて
ふた側にお弁当をひっくりかえして
「え！？全部白色だよ。見間違えたかな？」と言う
確かにピンク色だったのにな～と思って

川田さんのおばちゃんに聞いたら「笠原さんはねお金を貯めるためにごはんの上に桜でんぶを乗せただけのお弁当なんだよ。」と聞いた
桜でんぶ？　よく春のお彼岸の時に叔母ちゃんたちが
すし飯の上にのせてくるピンク色のおさかなふりかけのことか？と思った

たらの身を茹でて食紅をつけて炒ったものと聞いた。
笠原さんにあげようと思って自分でも作ってみた。
妹に食紅を買ってくるように頼んだら

まさかの「青」

でもドンパンお小遣いをはたいて使ったので我慢してもらおうと
心の片隅に誓った
川田さんのおばちゃんちで作ったら、
おばちゃんが大爆笑していた「あははは、ここちゃんらしいよ」って

次の日、笠原さんがお弁当食べているときにそのお弁当をもって
「同じ色ばかりじゃつまんないでしょ？こここれ作った」と渡した
ご飯の上に真っ青に染まったでんぶ　
桜ではなく深海笑いながらありがとうね。
気持ちがうれしいよ。
ありがとうねと言われた

それから数年して笠原さんはお家のローンを返済できたのですが
お父さんの稼業を継ぐため岩手県に引っ越ししてしまいました。

引っ越す前にあのときのここちゃんの気持ちがうれしかったから
おじさん涙の色を貯めたものをあげるね。
ともらったのがトマトジュースだった

ピンクと青って混ぜると何色になるのはそれから実験して
わかった紫だった。でも感謝の赤色が多かったからだって
あとから思った

私はそれ以来トマトジュースが大好きになり、今も毎日飲んでいる笠原さんが人づてで亡くなっているのは聞いているので
飲むときにおじさんのことを思い出して飲んでます。