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職人と呼ばれることについて

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【味の手帖】2020年版「味のカレンダー 食べること366日」日めくり

「職人」と呼ばれることに違和感がある。枝肉から骨を抜き、筋を引いて商品化していく。僕の場合は、手当てという一手間を入れるので、通常の精肉店の仕事とは若干異なる。19歳から40年間、この仕事だけをやっているので、経験だけはある。だけど、職人と呼ばれるには技術不足だ。ありがたいことに雑誌に掲載されることもあるが、構成段階で、職人と書かれているところは訂正させていただく。

昨年のいまごろ、NHKプロフェッショナル仕事の流儀に出させてもらった。このとき僕の肩書に悩んだ。本来なら「肉職人 新保吉伸」だろう。2ヶ月間の密着なのでディレクターもなんとなくそのあたりの空気を感じたのかも知れないが、肩書は「精肉店店主 新保吉伸」になった。こっちのほうがしっくりくる。

社長と呼ばれるのも違和感でしかないが、実際、社長なので甘んじて受け入れているが、やっぱり職人は違う。

食肉センターで牛を屠畜している人たちの技術。サカエヤを建てた大工さんの見事な仕事ぶり。セジールの壁を塗った芸術作品のようやな技。こういう人たちが職人であり、僕は違う。そんなことを言うと、またまたー、謙遜して、、とか言われるけど、僕のは技術というほどのものではない。

実際、若い子たちに指導するときに最初に言うことは、「肉は誰でも切れる。2年も3年も同じことばかりやってたら、どんなに不器用でもそこそこできるようになる。だから真面目に長く働きなさい」僕が教えるのはこれだけです。

サカエヤは職人を求めているわけでもなく、職人を養成しているわけでもない。真面目に悪いことせず言われた仕事を正確にやってくれればいい。そういう人ならいつでも応募してきてほしい。

プロフェッショナル仕事の流儀が放送された後に「どんな肉でも旨くする」という本を出したのだが、タイトルは僕がつけたのではない。出版社の方がつけてくれたのだが、「どんな肉でも旨くなる」にすればよかったと、いまさらながら。​

さて、今日は29日、ニクの日。お客様のことを想ってがんばって肉を切ります。

ありがとうございます!