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企業の成長も、業界の変化もめざすキッチンカンパニー|「喜ばれるを、楽しめる」ために


今回は中百舌鳥駅近くのインキュベーション施設「S-Cube」にて事業を展開されているキッチンカンパニー「株式会社トレス」代表取締役の太田光茂さんにキッチンから広がる事業のお話を伺いました。

キッチンでの皿洗いがすべてのきっかけに

弊社は以前勤めていたキッチンメーカーの営業担当3人で立ち上げた会社です。東大阪市から大阪市鶴見区、堺市の三国ヶ丘へと拠点を移し、現在は中百舌鳥にある「S-Cube」にてキッチンメーカーとして事業を展開しています。

キッチンメーカーに入ろうと思ったきっかけは、子どもの頃ごはんを作ってくれた祖母のキッチンの影響でした。私が就活をはじめたのは、バブル崩壊後の就職氷河期世代。資料請求しても連絡が来ないくらい厳しい状況だったんです。営業職に就きたくてさまざまな業界を見ていたのですが、厳しい状況の中で内定を勝ち取るには業界を絞った方がいいなと考えていました。
ある日、祖母に作ってもらった夕食を食べ終え、「どんな業界がいいんだろう」と悩みながらいつものように皿洗いをしていると、「あ、これだ」と思ったんですよ。目の前にある「キッチン」を販売する営業職になりたいと。そこからキッチンメーカーに業界を絞り、内定をいただきました。きっかけになった祖母のキッチンは、就職したキッチンメーカーの製品だったので、少し縁を感じましたね(笑)

BtoBからBtoCへ事業を転換!全国80拠点からお客様のもとに

就職先で営業職として奮闘し工務店さんをメインに営業活動をおこなっていました。そこで得たつながりもあり、弊社設立後も工務店さんへ卸売業を展開していました。設立から10年が経ったとき、この先の10年を見据えてこのままでいいのかと考えるようになったんです。

そこで、お世話になっている工務店の社長さん50名ほどに集まっていただき、「職人さんたちはずっとこの仕事を続けるのか」「跡継ぎはいるのか」と疑問という疑問をぶつけました。すると、ほとんどの工務店さんが「私の代で廃業する」って言うんですよ。このままじゃいけないと。そう思って、BtoBの事業からBtoCの事業に転換しようと決意しました。

具体的にBtoCの事業とは、インターネットで集客をおこなうキッチン機器の交換やメンテナンスです。毎日使うキッチンですから、蛇口やコンロ、食洗器、レンジフードなどの機器は消耗します。それらの機器の交換・メンテナンスをすれば、お客様の役に立つだけでなく、工務店の職人さんにも仕事を提供して役に立てるのではないかと考えました。

私はもともとキッチンメーカーに勤めていたので、お客様や工務店さんの内情には詳しいんです。また、10年間工務店さんに向けて卸売業をしていたのでメーカーさんとのコミュニティも構築できています。そのため、同業者の方ではできないような、あらゆる機器や部品を仕入れられるという強みを見つけ、事業をスタートしました。弊社の事業のひとつ「キッチン取付け隊」は事業転換から3年後に開始し、全国の工務店さんを「パートナー」として、機器やメンテナンスの販売・工事をおこなう事業を拡げていきました。

当初はパートナーのほとんどは大阪の工務店さんだったんですが、せっかくなら全国のお客様に喜んでほしいじゃないですか。全国に事業を展開できるよう、施工現場を訪ねて職人さんと話をするようにしました。すると「東京の職人さん紹介してあげるよ」と話をいただけたんです。このようなつながりがあれば全国対応も夢じゃない!と一心不乱にパートナー、つまり職人さんを探しました。お客様に満足していただける職人さんと契約するために、直接現場に行きどのような方なのかとお話させていただき、何人もの職人さんと契約させていただきました。
また、工事が必要な商品を購入してくれた方に、どの業者さんに工事を依頼したのかも尋ね、職人さんへ繋いでいただくこともありました。

今では全国80拠点の職人さんと契約させていただき、北海道から沖縄まで対応できるようになったんですよ。さまざまな地域のお客様に対応できるようになり、頑張ってよかったなと思っています。

キッチンでの皿洗いがすべてのきっかけと語る
太田社長


機器の取付けだけじゃない、他サービスとは

機器の交換やメンテナンスをおこなう「キッチン取付け隊」だけでなく、ネットショップもオープンしています。蛇口やコンロ、レンジフード、オーブン…。交換・メンテナンスだけでなく、新たな機器を販売できたらいいんじゃないかと。

既製品だけでなく、3Dプリンターなどで製作した販売終了部品も取り扱っています。
とある大手キッチンメーカーが廃業してしまったため、以前購入したキッチンが壊れると新たなものを購入しなければならない状況でした。例えば、引き出しのレール部分が壊れてしまうと引き出せないようになります。そのような状況のお客様の役に立てるよう、部品を3Dプリンターでつくり販売しました。お客様には本当に喜んでいただけて、よかったなと思います。

でも、部品を購入できても修理ができない。そんなお客様に向けて、先ほどお話した「キッチン取付け隊」が出動するんです。全国に職人さんというパートナーがいるからこそ、商品の販売から取付けまで、一貫した対応ができていると思います。

また、機器や部品の販売、取付けだけでなく、「DIYKITCHEN」の販売もおこなっています。キッチンの組み立ては難しく感じると思いますが、誰でも組み立てできるシステムキッチンを開発し、月に数台ご購入いただいています。DIY分野の事業もどんどん拡げていきたいですね。

幼少期の想いが現在の仕事につながっている

機器や部品の販売、取付けという事業を展開し、職人さんとのつながりを拡げているのは、弊社に「喜ばれるを、楽しめるキッチンカンパニー!」という理念があるからです。私はこの考えをずっと大切にしています。

私は幼い頃に両親を亡くしました。まだ子どもだった私に、周りの大人は「かわいそう」という目で見るんですよ。でも私はこれっぽっちも自分がかわいそうだなんて思っていなくて。そんな大人たちに対し「周りの大人たちはどんなことをしたら笑ってくれるんだろう」と思って、ひょうきんなことをしてたんです。大人たちが楽しんでくれている姿をみて自分も楽しくなりました。そのときの考えというか、想いというか、今も変わらないんですよね。弊社の従業員にも、メーカーさんにも、職人さんにもこの気持ちを意識してもらえたら、お客様に喜ばれるんじゃないかと考えて、「喜ばれるを、楽しめるキッチンカンパニー!」という理念を大切にしています。

長くキッチンにかかわる仕事をしていると、「お客様がどのような部分で困るのか」というのがわかるんです。キッチンを使うお客様の声、職人さんの声…。さまざまな人の声を聞いてきたからこそ、「喜ばれるを、楽しめるキッチンカンパニー!」としてあらゆる事業が展開できているんだと思います。

働きやすい環境が「お客様の満足」につながる

複数の事業を展開していると大変なことはいろいろありますが、特に大変だったのは組織づくりですね。指導したり仕事を任せたり、この立場であれば当たり前にすることなのかもしれないんですけど、難しいんですよね。

組織づくりの中で意識したのは「働きやすい環境」です。今働いてくれている方はほとんど女性なんですよ。子育て中の方を中心に就職支援をしている堺マザーズハローワークで人材を募集していたのですが、お話を聞くと「子育てしながら働きたい」「社会とのつながりを持っておきたい」と意思の強い女性が多くて。以前仕事をしていた方はポテンシャルも高いんです。

そのような方が働きやすい環境、「休める環境」の仕組みづくりをおこないました。お子さんがいると、どうしても突然熱が出てお迎えにいかなければならないじゃないですか。そんなときでもカバーし合えるような仕組みをつくりました。また、扶養内外の問題もあるので、勤務日数・時間は柔軟に対応するようにしています。

このように働きやすい環境をつくると、働いているスタッフも楽しみながら働け、お客様にもその想いが転換すると考えています。実際にお客様にアンケートを取ると、「丁寧でした」「迅速でした」など喜んでいただけた声が必ずといっていいほど入っているんです。また、見積もりしたお客様の2人に1人から注文を受けています。このような声が届いたり、高い注文率を誇っているのは、従業員の皆さんがしっかりと仕事に取り組んでくれているからです。従業員の誠実・丁寧な対応が、お客様にも伝わっているのではないかなと。本当に安心して仕事をお任せしています。

企業の成長も、業界の変化もめざしていきたい

今後はキッチンだけでなく、トイレや浴室、洗面所など水回りの機器の販売やメンテナンスができるようになりたいと考えています。

以前、コンロの入れ替えを依頼してくれたお客様から、「次は食洗器のメンテナンスをお願いしたい」とリピートのご依頼が来たんですね。キッチン機器などは10年~15年程度で寿命が来るんです。新築時には新品でも、15年後になるとキッチンだけでなく、水回りの機器なども寿命が来ます。そこで、他の場所も交換・メンテナンスできるといいのではないかと。ただ、まだまだ知識は足りていないので、お客様にご満足いただけるよう、勉強していきます。

また、若い世代の方に「職人」の魅力を伝える活動も進めていきたいと考えています。

職人さんって年々減っているんですよ。年齢の関係でやめなければならなかったり、技術を継承できなかったりして、どんどん減少しています。そこで、「キッチン・バス工業会」の賛助会員をさせていただき、職人さんが減っている問題についてメーカーの経営者の方々に訴えかけました。「メーカーが職人さんに仕事を振る状況を変えなければならない」と。この状況が叶えば、依頼数による仕事数の増減もなくなるし、担当できる機器も増えて職人さんに大きなメリットが生まれるんですよ。

また、自由に仕事を得られる職人さんがいると業界に周知できれば、リフォーム業界などからも依頼が来るなど、キッチンメーカー側にもメリットがあります。さらに、他業界だけでなく若い世代にも周知できれば、「職人さんの仕事を一度やってみたい」という方が現れるかもしれません。そうすれば、職人さんを増やすことができるんです。このようなメリットがあるのだから、行動しなければならないと訴えかけていきました。

5月から現在まで、共感してくれた9社の経営者の方とお話できました。取り組みを開始するにはまだまだ課題はありますが、少しずつ仲間づくりをしていきます。

また、「DIYKITCHEN」を通してキッチンを自分で組み立てた方にも、「何かをつくる」という職人さんに興味を持ってもらえたらいいなと思っています。次の次の世代の方が困らないよう、さまざまな取り組みを進めていきます。

若い世代の方に「職人」の魅力を伝える活動も行なっている


堺市在住の方を雇用して、堺市に力添えしたい

今後はもっと堺市に恩返ししたいという気持ちもあります。堺マザーズハローワークなどを通して、堺市在住の方を雇用することで、堺市に力添えができるのではないかと考えています。

また、泉北ニュータウンの空き家問題にも取り組めたらいいなと思っています。日本の空き家率の中でも、泉北ニュータウンって非常に空き家が多いんですよ。キッチンという得意分野を活かすことはもちろん、他にも知識を得て不動産業界の課題も解決していければいいなと思います。


キッチンカンパニーならではの目線で、顧客・職人の困りごとをくみ取り事業を展開されています。私たちの身の回りの困りごとだけでなく、社会課題の解決をめざす株式会社トレスから目が離せません。

株式会社トレス

堺市イノベーション公式Instagram

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