天国への階段でなければいいな、の夢(2022.3.6)

 勤め先の食品工場。
 出勤すると僕の机の上に、弁当が置いてあった。よく確かめもせずに、僕は食べた。おいしかった。
 腹が膨れたところで、工場内を見回りに。
 冷蔵庫で冷却機からガスが漏れているとのことで、修理業者が来ていた。冷媒(フロン)が通るパイプを溶接修理しているのだが、少し離れたところからシューッという音が聞こえた。パイプに小さい穴があり、そこから気体が吹き出していた。ガス漏れは、ここだった。こっちだよ、と業者に付き添っていた後輩に教えてあげた。
 冷蔵庫を出て、次は屋上に向かう。やらなければいけない作業があるのだ。
 工場の屋上ほぼ中央に、螺旋階段がある。工場自体が普通のビルでいえば四階に相当する高さで、そこから階段で上がっていくわけだが、この階段に手すりが無い。円柱に足を置く板が突き出ているだけで、その板の幅が狭いうえに手すりが無いので、うっかり体勢を崩せば落ちてしまう。高所恐怖症でなくても、これは怖い。
 上りあぐねていると、先輩が来た。短い会話のあと、ひょいひょいと上っていく。いつまでも逡巡していられないので、僕も上ることにする。
 せっかく気合いを入れて上り始めたのに、聞き慣れない声が聞こえてきたので、止まって下を見てみた。知らない若い女性がいた。大声で何か言っている。ラップのようにリズムに乗ってはいるが、よく聞くと韻を踏んでいるわけではないので、詩の朗読だろうか。何にしても、部外者が工場の屋上にいるのはまずい。お帰り願おう。
 女性が去ったのを確認して、再び、不安全な螺旋階段を上る。
 屋上からさらにビル四階分ほど上がると、ちょっとした踊り場があるので、そこで一旦落ち着く。いや、落ち着けはしない。畳二枚ほどの広さの踊り場は、やはり手すりがないのだ。座れば落ちる心配は無くなる程度の安心感しかない。
 ここが目的地ではないのだ。次はもっと怖い。階段というよりハシゴだ。円柱の両側に棒が突き出ているだけのものが、上空はるかを目指して立っている。もちろん落下防止対策はひとつもされていない。
 しばし立ち尽くしていると、また若い女性の声が聞こえてきた。ふたりが会話しながら螺旋階段を上がってくる。お揃いのステージ衣装を着たアイドル歌手だった。何坂か何KBか知らないが、メンバーの誰かが男性アイドルと付き合ってるなどと下世話なことを言い合いながら、僕には目もくれず、ハシゴをひょいひょいと上がっていき、あっという間に見えないほど先に行ってしまった。
 うちの工場、セキュリティが甘すぎではないか。
 それはともかく。僕も仕事なので行かないわけにはいかない。一歩ずつ、一歩ずつ、ゆっくりと。


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