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だから僕はフットサルに行かない

「フットサル行かない?」

これは僕が嫌いな言葉の一つである。


普段僕は一人で飲みに行ってもさほどほかのお客さんに話しかけにいくことはないし、初めてのお客さん同士でお話が盛り上がって楽しそうにしても特に混ざっていくこともない。

そもそもいざ話をしてみたら「おもんないなコイツ…」とヘドロのような感情が沸き上がってしまうリスクがあるので、事前に防ぐためにも話さないようにしている。

ある意味、僕なりの処世術である。

その日もちょこちょこ飲みに行くお店に一人で訪れた。繁華街の中にあるのにも関わらず、ビルの中にあるせいか、お客さん自体は少な目で、ゆっくりママと話ができる、そんないいお店。

僕のほかには数名のおひとり様がいたのだけれど、特に関わることもなく、各々が各々でママと話したりお酒を飲みつつスマホを触ったりそれぞれの時間を過ごしていた。

そうやって話をしているうちに、僕の隣に座っている男性が会話に混ざってきた。

話をしてみるとどうやら同い年だったようで、クラブに行っている友達を待ちつつ時間をつぶしているとのことだった。

なるほど、僕はクラブが苦手なのでそういうところは行きませんねぇ、なんて話をしながら、同い年ということもあってそこそこに話は盛り上がっていった。
しかも、趣味の話ができたのである。

僕は「お笑い・バンド・マンガ(主に青年誌)・ラジオ・ボードゲーム」という、メインカルチャーに後乗りできない性格が災いしたような趣味を取り揃えているので、「普段どんなことしてるんですか~?」みたいな会話が若干苦手なのだが、その彼は割と付いてこれるタイプだった。

人との距離の取り方も近すぎず遠からずで「楽しく話せていいやつじゃん」と、珍しく思っていた。

しばらくすると、友達がクラブから出たとのことだったので、彼は退店することに。

「一緒に飲みにいきます?」なんて言われたけれど、クラブに行くような人と初対面で楽しく過ごせる自信がなかったので丁寧にお断りした。

「また今度飲みたいんでLINE交換しましょうよ!」
それに関しては同意できる。実際楽しく話せたし、お酒も入っているが気の遣える距離感で人と接してくれるので、こちらとしても負荷が少なかった。

「また店で会いましょう!」なんて元気にお見送りして、都合が合えばまた飲めたらいいよな、なんて考えていた。

まあ、特にLINEをする用事はないので放置していたのだけれども。

1週間くらい経ったころ急にLINEが鳴る。

「土曜日空いてる?空いてたらフットサル行かない?」

いやだ

嫌すぎて見出しになるくらい嫌だった。

いや、彼は別に嫌な奴ではない、むしろ話しやすかったし素敵な距離感も持ち合わせている。

ただ、彼の周りにはクラブに行くような奴がいる。クラブ×フットサルなんてえらいことだ。

僕はイケイケ系アレルギーである。(この場合のイケイケ系という人間はイケている奴ではなく、イケていると勘違いした挙句、面白みの感じられないトークと、しょうもない女の話ばかりして、味もわからないままにテキーラにまみれるような低俗な人間を指している。あと、coronaとZIMAとスミノフアイスは飲み物ではなく砂浜に刺すものだと思っているはず。)

イケイケ系の巣窟である(と、みなしている)フットサルなんて行ったらそれこそえらいことになる。
5 VS 5と思うことなかれ、僕からしたら1 VS 9になってしまう。ベンチメンバーがいた場合、対戦相手は2桁を超えてしまう。朝倉未来のケンカじゃないんだから。

フットサルに行っていい汗流した雰囲気出して、居酒屋で変なノリに巻き込まれて肩身の狭い思いをしながら酒を飲み、気を遣い酔うことすらままならず、全体の空気を壊し、寝る前に1日を振り返ってもう二度と帰ってこない貴重な時間を無駄にしてしまったことを思い憂鬱になる。

そこまで見えた。

さすがに無理だわ。フットサル。

余談

それ以来、もう1年ほど経つが彼とは会っていない。酒の席で仲良くなった人間なんて大体そんな感じであろう。

ネットワークビジネスばりにちょこちょこの頻度でフットサルに誘われたくらいだった。

盛り上がったのもアルコールでブーストしていた部分もあるだろうし、彼はフットサルにも行っている。

フットサルをしている人とフットサルをしていない人、そこには大きな差があるのだ。フットサルによって発生する溝はそう簡単に埋まらないのである。フットサルクレバスとクラブクレバスは深い。



先日、僕は誕生日を迎えた。

すると、彼からラインが

「今LINE見てわかったんだけど誕生日一緒だった 笑

奇遇ついでに今度フットサルいかない?」

もちろん、丁重にお断りした。

冷蔵庫は大きいほうがいいでしょう