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お洒落なカフェの前を往復する不審者

私は昔からカフェが好きだ。
理由は何個もあるような気がしていたが、よくよく考えてみると「実は2つしかないかもしれないな」と、思い始めている。

1つ目は「なんだかお洒落だから」である。
この世にあるカフェというものは、外観も内装も、食べ物も飲み物も、店員も客も、なんだかすべてがお洒落なものなのだ。
そういうものなのだから、必要以上にゆっくりとカフェラテを口に運びながら本を読んだりスマートフォンを弄ったりしている私からも、自然と大人の余裕が醸し出されているに違いない。
そしてそんな余裕に満ちた私の姿を、是非、できるだけ多くの人に見てほしいと思っている。

2つ目は「チーズケーキが好きだから」である。
どんなカフェでもチーズケーキとガトーショコラが絶対に売られているのだから、デザートを食べたいときはカフェに行けばよい。

私はそんなに友人が多い方ではないし、友人と呼べる数少ない男たちと語り合うとなると選択肢は居酒屋に絞られてしまうので、カフェへは妻と2人で行くことがほとんどだ。
問題は妻に予定があるのに、なぜか無駄にモチベーションが高く、「よし、今日は1人でカフェにでも行ってみるかな」などと考えだしたときである。

カフェというのは調べている間も実に楽しい。
食べログやgoogleマップで出てくる写真を眺めながら、それぞれコンセプトやメニューの違うカフェへの想像を膨らませ、その日の気分にあったお店を選ぶ。
そうして行きたいお店が決まったら、kindleとメモ帳をショルダーバッグに突っ込んで、ワクワクしながら家を出るのだ。

しかし、目的地がお洒落であればあるほど、少しずつ怖くなってくる。
私の数ある特徴の中でも、コンプレックスに分類されるものたちが
「あの、きっと君はもしかしたら場違いなんじゃないか?」
「満席で断られたらなんか恥ずかしくない?」
「席を選んだり、注文したり、周りの人みたいにちゃんとスマートにできる?」
などと、語りかけてくるのだ。

そんなわけでいつも私は、できるだけ不自然に見えないように気をつけながら、不安をひとつずつ潰して心の準備をするために、ちらちらと目的のカフェを横目に見ながら、店先を2,3往復する羽目になるのだ。

これまで一度も店員に冷たくあしらわれたことも注文に手間取ったこともないのだから、自然体でいればよいのはわかっているのだが、こればっかりは仕方がない。
好きな人に話しかけるときは、誰だって勇気を振り絞るのだから、それと同じようなものだ。

私とカフェの関係は、まだまだこれからだと思っている。
今日も私は一方的な憧れを胸の奥に隠して、カフェのことなど何とも思っていないような風を装いながら、ゆっくりとカフェラテを口に運ぶのだ。

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