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医学概論NO.6 ソーシャルワークを極める講座 呼吸器系



今回の内容は、YouTubeで視聴できます。


(2)呼吸器系


①呼吸器の構造と換気

呼吸器とは、酸素を取り込み、不必要になった二酸化炭素を体外に排出するガス交換(呼吸)に関与する器官の総称を言います。

呼吸器は、大きく気道(空気を取り入れる経路)と肺に分けられます。

まず、呼吸によって取り込まれた空気はどうなるか?という点を見ていきます。


呼吸によって取り込まれた空気の移動の流れは、気道を通過して、肺胞まで行きます。

気道は、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)と下気道(かきどう 気管、気管支、細気管支)に分けられます。

そして、気管が枝分かれしたところから気管支になります。

そして、空気が気管支を通過して、気管支の末端の直径数百ミクロンの肺胞という小さな袋状の部屋まで到達します。

そして、この肺胞内で空気と血液の間でガス交換が行われます。これが外呼吸(がいこきゅう)です。
それから、血液と全身の細胞との間においてガス交換が行われますが、これが内呼吸(ないこきゅう)です。

呼吸は、外呼吸と内呼吸の二つに分かれます。
要するに、外呼吸と内呼吸を合わせて呼吸と言います。

外呼吸は、吸気、つまり息を吸い込むことにより酸素を取り込み、この酸素を肺で燃やしています。そして、呼気、つまり自然に吐く息により二酸化炭素を排出します。
人間は、酸素がなくなると、一瞬にして意識がなくなり、死に至るわけですが、この酸素で物を燃やすと、二酸化炭素を排出するという仕組みになっています。

空気を取り入れる経路である気道のうち、鼻から、鼻腔(びこう、医学用語:びくう)、咽頭(いわゆる「のど」と言われる場所)、喉頭までを上気道(じょうきどう)として総称して呼びます。これは、赤字で示した部分になります。

一方で、気管から末梢の部位(気管支、それから肺胞と繋がっている細気管支(さいきかんし)をまとめて下気道(かきどう)として総称して呼んでいます。これは、青色で示した部分になります。

咽頭の下部の喉頭(こうとう 発声器)で、食道と気管が分かれています。
この気管の入り口には、喉頭蓋(こうとうがい)という軟骨がありまして、嚥下、つまり食べ物を飲み込む際には、喉頭蓋が閉じ、気管への誤嚥を防いでいます。
仮に水分、米粒などが気管の方へ入ってしまうと、むせます。きっと皆さんも経験があると思います。むせまくって滅茶苦茶苦しい状態になります。

で、気管は、その後、気管支になりますが、右気管支(みぎきかんし)と左気管支(ひだりきかんし)に分かれます。
右気管支は左気管支に比べて、太くて短いのが特徴です。
そして、傾斜についても、右気管支は左気管支に比べて、垂直に近く急傾斜(25度くらい)になっています。多方で、左気管支は45度くらいで左肺に入っていきます。そのため、異物は右気管支に入りやすい傾向があります。

次に、肺の外形について触れておきます。

肺は、二つあって、右肺と左肺からなります。

右肺は、3葉(さんよう 上葉、中葉、下葉 かよう)からなります。
実は、右肺は、左肺よりも容量が大きいです。

そして、左肺は、2葉(によう 上葉、下葉)から成っています。

右肺の方が容量が大きいのはなぜか?

これは、心臓が左に偏っているからです。これが原因となって、左肺の方が小さくなっています。
この点についての覚え方ですが、右肺は左肺に比べて容量が大きいので、3葉になっていると覚えておきましょう。

以上、肺は、右と左で構造が異なることに注意してください。


第30回第2問の選択肢

人体の各器官に関する問題で、「右肺は2つの肺葉からなる。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
右肺は、3つの肺葉(上葉、中葉、下葉)からなり、そして、左肺は、2つの肺葉(上葉、下葉)から成っています。


②呼吸運動

次に、呼吸運動について触れておきます。

肺そのものには肺を動かす骨格筋がありません。つまり、肺自体は運動能力をもちません。
では、肺での空気の出し入れはどのようなメカニズムでやっているのか。
呼吸は、肺の下にある横隔膜、肋骨の間にある筋肉(肋間筋 ろっかんきん)、頸部、腹部の筋肉によって行われます。

横隔膜は、ドーム状の筋肉の薄い膜になりますが、肺と腹部を仕切っております。横隔膜は、息を吸いこむ(吸気)ときに使われる最も重要な筋肉になります。
横隔膜は、胸骨(ネクタイを締めた時をイメージしてもらうと良いと思いますが、胸の真ん中に上から下に細長いネクタイのような形をした骨です。)、肋骨、脊椎からなる、いわば骨のケースの底部(ていぶ)にくっついている筋肉になります。別の言い方をすると、横隔膜は、胸腔と腹腔を隔てる薄い筋肉の膜であるとも言えます。肺の下にある筋肉と言った方がイメージが湧きやすいかもしれません。
そして、筋肉が横になっていることから、横隔膜という名前が付いています。

で、吸気、つまり息を吸い込むと、横隔膜が収縮、つまり縮むわけです。このような状態になると、胸腔(胸の空間)が広がり、肺がふくらみ、内部の圧力が低下します。そして、圧力を等しくするために、空気が肺の中へ流れ込むわけです。

そして、今度は、呼気、つまり息を吐こうとして、横隔膜が弛緩、つまりゆるむと、肺と胸壁の弾力性で肺から空気が押し出されます。


肋間筋(ろっかんきん 呼吸筋とも言います。)は、肋骨の間にある筋肉ですが、肋骨を動きやすくし、呼吸をしやすくするための筋肉になります。

この肋間筋等の呼吸で使われる筋肉は、脳からの指令で、神経を伝い、筋肉を動かすようになっています。ですから、筋肉につながる脳からの神経が障害されない限りは、呼吸をしやすくするための全ての筋肉が指令通りに収縮する仕組みになっています。
逆に言えば、首や背中の外傷によって脊髄が傷つき、神経がやられてしまうと、筋肉を使って自力で呼吸ができなくなります。
このような場合には、その人は、人工呼吸器なしでは生きられなくなります。

息を吐く(呼気)過程は、運動中でない限りほとんど目立ちません。
肺や胸壁(胸壁とは、胸を形作っている骨格と、それを肉づける組織から成り立っているものになります。胸部の内臓が胸壁によって守られています。)の弾力性で蓄えられたエネルギーが、肺から空気を送り出すために使われます。
そのため、安静時には呼吸にかかわる筋肉を動かす必要がそれほどありません。
しかし、激しい運動中は、息を吐くために多くの筋肉の助けを必要とします。腹筋は、中でも最も重要な筋肉になります。腹筋が収縮すると腹圧が増し、ゆるんだ横隔膜を肺の方へ持ち上げて、空気を肺から押し出すことになります。

ちなみに、喘息の特徴ですが、空気を吸えるが、吐けないというところになります。
なので、喘息予防体操では、腹筋を鍛えることで、楽に呼吸ができるように身体を鍛えるということをやるわけです。
また、高齢者では、横隔膜や肋間筋など呼吸に関与する筋力が低下することから、呼気時に十分な肺の収縮が得られず、換気の効率が低下しています。つまり、肺の残気量が増加します。要するに、吸いきれず、吐ききれない状態になります。
要するに、高齢になると、吐ききれないという意味では、喘息に似た症状が出てくるわけです。


第24回第2問の選択肢

人体の器官の構造と機能に関する問題で、「吸気時には、横隔膜と肋間筋が収縮する。」との内容の正誤が問われています。






この選択肢は正しいです。
実際に空気を吸ってみるとイメージできると思います。
ちなみに、空気を吐き出す呼気時は、横隔膜、肋間筋は弛緩することで横隔膜は上方に移動し、胸郭が縮小することで息を吐き出すことになります。


第32回第1問の選択肢

人体の構造と機能に関する問題で、「横隔膜は、消化管の蠕動(ぜんどう)に関わる。」との内容の正誤が問われています。






この選択肢は誤りです。
横隔膜は、呼吸運動に関わります。
ちなみに、蠕動というのは、内容物を移動させるという意味になります。



第34回第1問の選択肢

加齢に伴う身体の変化に関する問題で、「肺の残気量が増加する。」との内容の正誤が問われています。







この選択肢は正しいです。
高齢者では、横隔膜や肋間筋など呼吸に関与する筋力が低下することから、呼気時に十分な肺の収縮が得られず、換気の効率が低下しています。つまり、肺の残気量が増加します。


③呼吸の回数

次に、呼吸の回数を見ていきます。

呼吸は、成人で、無意識な状態では、1分間に規則正しく約12回から16回行われます。

呼吸が、1分間に25回以上の場合になると、これを頻呼吸と言います。

これに対し、過呼吸とは、呼吸回数にそれほど変化はありませんが、呼吸の深さが増加することを言います。ただ、多くの場合は、呼吸回数も増加することが多いです。

不感蒸泄量(ふかんじょうせつりょう 排尿や発汗などの目で見て感じ取れる排泄である有感蒸泄(ゆうかんじょうせつ)とは違い、私達が感じることなく口呼吸や皮膚呼吸によって蒸散する水分のこと)は、平熱時で、室温が28度程度の時、成人では、1日体重1kg 当たり約15ミリリットルです。これを1日あたり体重60kg の人で計算すると、900ml にもなります。そのうち、皮膚呼吸から約600ml、口からの呼気による喪失分が約300ml程度になります。

例えば、高齢者の中には、「汗をかいていないから」「あまり動いていないから」「のどが渇いていないから」といった理由で水分摂取を控えてしまう方がいます。しかし、水分は、排泄されていないようで、不感蒸泄によっても、常に排泄されています。なので、こまめに水分を補うことが大切になってきます。


創作問題

「口呼吸や皮膚呼吸によって蒸散する水分である有感蒸泄量は、平熱時で、室温が28度程度の時、成人では、1日あたり約15mL/kgである。」〇か✖か。






この選択肢は誤りです。
口呼吸や皮膚呼吸によって蒸散する水分は、有感蒸泄量ではなく、不感蒸泄量になります。
ちなみに、有感蒸泄は、排尿や発汗などの目で見て感じ取れる排泄のことになりますよね。


④呼吸器の代表的な疾患について

まず肺炎です。

肺炎は、肺にウイルスや細菌が感染し炎症が起こる病気です。

肺炎の症状は、38℃以上の発熱、強いせきになります。
せきが3~4日以上続き、軽減しません。
黄色や緑色のうみのような痰も出ます。
これらの症状に加えて、息苦しさや胸の痛みなどが起こります。

高齢者に多い肺炎は、誤嚥性肺炎になります。

誤嚥というのは、食べ物や唾液などが、本来は口から食道へと送られるものが、誤って気道に入り込んでしまうことを指します。
誤嚥した際に、口の中やのどにいる細菌やウイルスが食べ物や唾液と一緒に気管から肺に入ると、誤えん性肺炎が起こる可能性があります。
高齢になると、嚥下反射が低下する、つまり気管の入口である喉頭蓋が閉じないことで、本来は食道を通るはずの食べ物などが気管に入ってしまい、誤嚥性肺炎になりやすいわけです。

主な死因別にみた死亡率(人口10万対)の年次推移の表(厚労省の令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況)を見てください。

肺炎は、どのような状況でしょうか。

1947年頃は、結核がトップで、その次くらいに肺炎が入っています。
肺炎は、現在5番目となっています。
特にここ最近、2016年あたりから、肺炎の死亡率が急激に低下しています。
死亡率のダントツのトップは悪性新生物(がん)になっています。

あと特徴的なのは、老衰です。2005年あたりから急激に増加しています。

老衰は、「高齢者で、他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死」と定義されています(厚生労働省が発行する「死亡診断書記入マニュアル」より)。
「老衰」が増加した背景には、社会全体の高齢化とともに、治療を行うよりも自然な死を受け入れるという考え方の変化もあると推測されています。
このことは、2000年に介護保険制度が始まり、自宅、あるいは特別養護老人ホームや有料老人ホーム等の施設で亡くなる方が増えたこととも重なります。


その他の呼吸器疾患には、肺の真菌による感染症、肺結核、慢性呼吸器不全、慢性閉塞性肺疾患(COPDと呼ばれています。肺の組織である肺胞壁が壊れた状態である肺気腫、咳や痰が出続ける慢性気管支炎を含みます。)、肺がんなどがあります。

慢性閉塞性肺疾患は、徐々に呼吸器障害が進行し、呼吸不全に陥る疾患を指します。
慢性閉塞性肺疾患のリスク要因は、喫煙です。
タバコの煙は死の煙だと言われています。
慢性閉塞性肺疾患は、加齢に伴い増加します。
肺の写真で、肺が真っ黒になっているものをみたことがありませんか。
大和高田市のホームページより

肺が真っ黒になって、肺気腫の状態になるわけです。診断名としては、慢性閉塞性肺疾患です。
このようなことを知識として知っていれば、普通の人であれば、喫煙はしない、したくない、ということになります。

肺炎の分類について

原因による分類としては、①感染性による肺炎、②機械的なものによる肺炎、③薬剤性による肺炎、④症候性による肺炎です。

感染症肺炎は、細菌、ウイルスに感染して発症するものを指します。

機械的肺炎は、誤嚥により口の中の細菌を飲み込んでしまって起こる誤嚥性肺炎や、微粒子の吸い込みで起こる吸入性肺炎などを指します。

薬剤性肺炎は、薬に対するアレルギー反応、薬の持つ潜在的な毒性によって引き起こされるものを指します。

症候性肺炎は、病気から身を守る免疫機能に異常が発生し、自分自身の肺を壊してしまうものを指します。関節リウマチで肺に炎症が起きることがあります。関節リウマチによるリウマチ肺が主な症状です。

罹患場所による分類としては、①市中肺炎と②院内肺炎があります。

市中肺炎とは、病院や診療所など以外で、日常生活を送っているうちに感染した肺炎を指します。風邪やインフルエンザをこじらせた時に起こることが多いです。

院内肺炎とは、病院や診療所(施設)などに入院してから、48時間以上経過した後に発症した肺炎を指します。
抵抗力(免疫力)が非常に低い人や、人工呼吸器が原因で起こることが多いのが特徴です。


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