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医学概論NO.4 ソーシャルワークを極める講座



今回の内容は、YouTubeで視聴できます。


1.「人の成長・発達」の続き

(4)体力の老化と栄養摂取の変化について


①体力の老化について

筋力につきましては、まず下肢の筋肉の衰えは若いうち、つまり20歳を過ぎると始まり、上肢の衰えは中年以降に加速する傾向にあります。
筋肉の老化は、まず脚から始まります。

握力の衰えは、50歳以降に特に加速する傾向があります。
握力の低下が著しくなると、ペットボトルの蓋を開けられないということも出てきます。こうなると日常生活がかなり不便になります。

バランス能力は、基礎運動能力のうち、特に加齢低下が著しいものです。ですので、例えば、閉眼状態片足立ちは、60歳代で30歳の5割、80歳代になりますと、1割ぐらいの方しかできないと言われています。
ちなみに私も、閉眼状態片足立ちが3秒程度でできなくなります。

瞬発力は、バランス能力と同じく大きく低下します。
瞬発力は、80歳代には30歳の2割程度にまで低下します。
2割となるとかなり低下します。
例えば、高齢者が喧嘩をしていて、殴りかかろうとしたときに、スローモーションのような動きに見えるのは、瞬発力がなかり低下しているためです。

これに対し、持久力は、比較的維持されています。
最大酸素摂取量が、70歳で、30歳の約5割。80歳ぐらいになると、30歳の約3割ぐらいまで低下します。
以前に最大換気量の話をしましたが、持久力が比較的維持されているとしても、70歳で最大酸素摂取量が約半分に低下しますので、やはり全身持久力の低下というところで予備能力の低下にも結びついてきます。

予備能力というのは、ある機能についての最大能力と平常の生命活動を営むのに必要な能力との差を言います。
要するに、からだの中に蓄えられている、ゆとりの力のことです。

予備能力が低下することで、平常以上の活動を必要とする事態が生じたときに、これに対応することが困難になります。
例えば、肺活量が低下すると、普通に歩くときはなんともなくても、走ったり、階段を昇ったりすると、直ぐに息が切れるといったことが生じてきます。



創作問題

加齢に伴う体の筋肉の衰えに関する問題で、「20歳を過ぎてから筋肉量が一番早く減っていくのは、上肢の筋肉である。」〇か✖か





この選択肢は誤りです。
筋力につきましては、まず下肢の筋肉の衰えは若いうち、つまり20歳を過ぎると始まり、上肢の衰えは中年以降に加速する傾向にあります。


②栄養摂取の変化について

食行動は、生命を維持するための基本的欲求であったり、また、会食ということを通じて、家族や仲間との交流の場に繋がったりします。
高齢になると、食欲がなくなってくる傾向があります。なので、やはり栄養の問題は、今日も非常に大事だと言われているところになります。

老化によって、食欲の減少ということが起き、低栄養や体重減少に繋がっていきます。特に高齢者は、自分1人だけだと、漬け物とご飯だけの食事で済ませることが多くなる傾向があります。しかし、これでは栄養のバランスが悪く、タンパク質も摂っていないので、身体を作っていく栄養素が少なくなります。

また、特に中重度の要介護高齢者は、消化・吸収機能の低下に加えて、運動不足や認知症による食事量の減少ということもあり、低栄養状態をきたしやすいという特徴があります。

高齢者の食事援助のポイントとしては、人と交流しながら楽しい雰囲気を設定し、食欲が出るように工夫する必要があります。 


第25回第2問の選択肢

加齢に伴う心身の変化に関する問題で、「中重度の要介護高齢者では、低栄養を来しやすい。」との内容の正誤が問われています。





これはその通りです。


(5)主な器官、組織の老化兆候と老年病について


①器官組織の皮膚について

皮膚の老化徴候としては、イボ、しみというものがあります。

皮膚の老年病としては、皮膚掻痒感(ひふそうようかん)、いわゆるかゆみというものが出てくるところがあります。特に冬になると、空気が乾燥し、かゆみが酷くなります。
かゆみがあると、ついつい掻きたくなりますが、掻くと皮膚に傷が付きます。かゆみの防止のためには、加湿器は欠かせません。


②器官組織の骨(こつ)について

骨の老化徴候としては、円背(えんぱい 背中の丸まりが増加した状態)・低身長というのがあります。

骨の老年病としては、骨粗鬆症、そしてこれが骨折に繋がります。

骨粗鬆症は、女性に多く、月経が完全に止まった状態の閉経と関係しています。



第34回第4問の選択肢

骨・関節疾患及び骨折に関する問題で、「骨粗鬆症は女性より男性に多い。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
骨粗鬆症は、女性に多く、閉経と関係しています。



③器官組織の心血管について

心血管、つまり心臓と血管の老化については、動脈の伸展力低下、つまり血管の弾力性の低下があります。
これは、老年病として、収縮期血圧(いわゆる上の血圧と言われる、最高血圧です。どっくんどっくんしている心臓がぎゅっと収縮したときに動脈にかかる圧です。心臓の収縮によって短い時間で血液が送られるため、動脈にかかる圧力が高くなり、上の血圧が高くなります。)の上昇、つまり高血圧というとこに繋がってきます。

これに対し、拡張期血圧(最低血圧)は、加齢に伴う変化はなく、ほとんど変わりません。
この点をより詳しく説明します。
最低血圧である拡張期血圧は、50歳から60歳代までは末梢血管抵抗(抹消血管の弾力性の低下や内腔径狭窄、血液の粘性増加)の上昇にともない加齢と共に上昇します。
しかし、その後ですが、大動脈壁の弾力性の低下とともに大動脈に血液が貯留されにくくなり、その関係で、大動脈に貯留された血液の量が少なくなり、末梢血管に送られる血液量が少なくなることで、末梢血管抵抗が下がり、血圧が低下する傾向があります。

では、そもそも拡張期血圧とはどのようなものを指すのか。

拡張期血圧とは、血液を全身に送り込んだ後、どっくんどっくんしている心臓が、収縮後に拡張して、収縮時に送り込んだ血液を心臓に戻そうとするときに血管の壁にかかっている圧力を指しています。
ただし、心臓から全身に血液を送る血管である大動脈に貯留された血液があって、心臓が拡張し、血液が心臓に戻るときに、大動脈に貯留されていた血液(心臓から送られた血液の60%程度)が抹消に送られるということがあります。この時の大動脈に貯留された血液量(40%程度)が少なくなってくると、末梢血管に送られる血液量が少なくなることで、末梢血管抵抗が下がり、血圧が低下する傾向があります。


ここでは、まずは、収縮期血圧は心臓が収縮したときの血圧、拡張期血圧は心臓が拡張したときの血圧であるということから、押さえていく必要があります。

ちなみに、高血圧の診断基準では、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上となっています。


第29回第2問の選択肢

加齢に伴う生理機能の変化に関する問題で、「収縮期血圧と拡張期血圧の差は縮小する。」との内容の正誤が問われています。






この選択肢は誤りになります。 
老年病として、収縮期血圧の上昇、つまり高血圧というとこに繋がってきます。しかし、拡張期血圧(最低血圧)は、加齢に伴う変化はなく、ほとんど変わりません。なので、収縮期血圧と拡張期血圧の差が大きくなる傾向にあります。


第33回第1問の選択肢

人の成長と老化に関する問題で、「老年期には、収縮期血圧が上昇する。」との内容の正誤が問われています。






この選択肢は正しいです。


第34回第1問の選択肢

加齢に伴う身体の変化に関する問題で、「拡張期血圧が低下する」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は正しいです。
下の血圧である拡張期血圧は、50歳から60歳代までは末梢血管抵抗(抹消血管壁の弾性低下、血管の内腔径狭窄、血液の粘性増加)の上昇にともない加齢と共に上昇します。しかし、その後、大動脈壁の弾力性の低下とともに大動脈に血液が貯留されにくくなり、その関係で、大動脈に貯留された血液の量が少なくなり、末梢血管に送られる血液量が少なくなることで、末梢血管抵抗が下がり、血圧が低下する傾向があります。



第31回第5問の選択肢

高血圧に関する問題で、「高血圧の診断基準は、収縮期(最高)血圧160mmHg以上あるいは拡張期(最低)血圧90mmHg以上である。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
高血圧の診断基準において、収縮期(最高)血圧は160 mmHg以上ではなく、140mmHg以上とされています。また、最低血圧が90mmhg以上とされています。



④器官組織の目について

目の老化兆候としては、やはり老眼(正式名称は老視)です。老視というところがあります。

目の老年病としては、加齢に伴って白内障(眼の中のレンズの役割をする水晶体が濁ってしまう病気)が増加するということがあります。
80歳を超えると、ほとんどの人が白内障の状態にあるといわれています。


第36回第4問の選択肢

目の構造と病気に関する問題で、「白内障は水晶体が混濁してものが見えにくくなる。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は正しいです。


⑤器官組織の大脳について

大脳の老化兆候としては、中枢神経細胞の脱落等による記憶力の低下ということがあります。

老年期になりますと、大脳に係る老年病として、やはり認知症になる確率が上がって来ます。

以上のまとめ


(6)老化に伴う精神面での変化について


50歳以降には、800億個以上ある脳神経細胞(ニューロン)やニューロン間を繋ぐシナプスの減少により、脳の重量と容積は減少していきます。
脳の重量と容積の減少は、小脳や脳幹に比べて大脳の前頭葉で見られますが、健康な場合はバランスよく減少していくという違いがあります。

これが、脳の図になります。





精神面に係る記憶能力の変化としては、長期記憶のエピソード記憶、意味記憶(一般的な知識・情報についての記憶)、手続き記憶(自転車に乗れるようになるとか、うまく楽器の演奏ができるようになるというような記憶)のうち、特にエピソード記憶。つまり、出来事や生活体験の記憶については、とりわけ60歳以降で30%低下していくという結果が出ています。エピソード記憶は、加齢による低下が著しい領域です。
逆に言えば、意味記憶、手続き記憶は、そこまで生理的な老化による低下が起きづらいと言えます。

また、人間の知能の分類方法として、流動性知能と結晶性知能という分類があります。
この分類は、1963年にイギリスのキャッテルという心理学者によって提唱されたものになります。

この点、流動性知能は、加齢に伴い衰えやすいですが、結晶性知能は、高齢になっても衰えにくい領域であるということも押さえておいて下さい。

流動性知能とは、新しいことを学習したり新しい環境に適応していくための能力になります。いわゆる「頭の回転の速さ」や「地頭の良さ」など、その人本来の頭の良さを表す知的能力を指します。
この流動性知能は、10代後半から20代前半くらいまでがピークで、30歳頃から加齢とともに低下していきます。

一方、結晶性知能というのは、学習や経験を積み重ねて得られる能力を指します。いわゆる年の功と言えるような能力です。
結晶性知能は、能力のピークに達する時期が遅く、70歳前後まではむしろ高まるとされています。 


第29回第2問の選択肢

加齢に伴う生理機能の変化に関する問題で、「流動性知能は維持される。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
流動性知能は、加齢に伴い衰えやすい領域になります。
この選択肢は、結晶性知能とのひっかけ問題です。
結晶性知能は、学習や経験を積み重ねて得られる能力を指しますが、70歳前後まではむしろ高まるとされています。


(7)老化による予備力低下と臓器相関によって起こる老人の特徴的症状


老化による予備力低下と臓器相関によって起こる老人の特徴的症状として、老年症候群と廃用性症候群を見ていきます。


①老年症候群について

老年症候群とは、青壮年者(16歳から50歳くらいまでの者)にはあまり見られませんが、加齢と共に現れてくる身体的及び精神的諸症状及び疾患の総称を言います。
なお、青壮年者を含む若年者においても、老年症候群は発症する可能性はあります。

多くの病因が影響しあって、高齢者という一個人に病的症状を示します。これが老年症候群です。

要するに、老化によって複数の臓器の予備力が低下します。そして、そのうちのどこかの臓器が障害を起こし、臓器相関で他の臓器に影響するわけです。そして、次々に複数の臓器の障害が出てくるというもの。これが老年症候群です。
「症候群」なので、一つのものを指している病気ではなく、複数のもの、つまりグループを指しております。グループという意味では、廃用症候群も同じです。

臓器相関について触れておきます。

身体の各臓器は、それぞれ独立して活動しているのかというと、そうではありません。複数の臓器は、神経、内分泌(ないぶんぴつ)、化学物質などを通じて、お互いに情報を交換しながら活動しています。
このような複数の臓器の機能がお互いに関連しあいながら生体の恒常性を維持していることを臓器相関と言うわけです。

では、話を戻して、老年症候群の特徴ですが、様々な原因(環境の変化、心因的ストレス、薬剤の副作用等)や症状が連鎖的に関連して悪循環を生じやすいことがあります。

次に、老年症候群の症状としては、認知症、せん妄(突然発生して変動する精神機能の障害)、うつ、脱水、発熱、低体温、浮腫、疼痛、意識障害、呼吸困難、嚥下(咀嚼した物を飲み込むこと)障害、低栄養、食欲不振、廃用症候群に付随する尿失禁、褥瘡、誤嚥、便秘、転倒骨折、腰背部痛、掻痒感(かゆみ)などがあります。
やはり75歳以上の後期高齢者になると目立ってくるのが、老年症候群になります。

老年症候群の症状の一つとして出てくるものとして、浮腫があります。
高齢者は、末しょう循環不全や低たんぱく血症(血中のたんぱく質が非常に低い状態のこと)、内分泌疾患などで、余計な水分が血管から染み出し、浮腫が生じやすいということがあります。

浮腫とは、読んで字のごとく、浮いて腫れる、つまり、顔や手足などの末端がむくむ症状です。

浮腫は、血液検査によって異常が分かります。

外見的な変化としては、下腿(膝から足首までの部分)や顔貌の変化で分かります。
外見を見て、「(下腿や顔が)むくんでいる。あれ、へんだな」と思ったら、医療機関を受診することが必要になります。

また、脱水も老年症候群の症状の1つになります。
高齢者は、体内の細胞の水分の保水力が弱くなってきます。なので、脱水になりやすいということがあります。ですので、こまめに水分補給を図る必要があります。

また、嚥下障害も老年症候群の症状の1つです。
高齢者の死亡原因としても多くの割合を占める誤嚥性肺炎にも繋がります。なので、介護職はこの嚥下障害が招く誤嚥性肺炎に気を付ける必要があります。
この嚥下障害は、嚥下に関係する筋肉や神経の老化によって、嚥下機能が低下し、嚥下障害が起きやすくなるというものです。

次に、老年症候群の対策としては、様々な原因の上に、高齢者の生き様、精神的状態、社会における環境に影響されるということから、従来のような臓器別の評価(生物医学モデル)ではとても対策ができません。人間として高齢者の全体像(生理的・身体的機能状態、精神的・心理的状態、社会環境状態の3要素)を包括的に評価することが重要になってきます。このような考え方を1人の人間全体に焦点を当てるバイオ・サイコ・ソーシャルモデル(BPSモデル)と言います。

一個人の健康維持、疾患を取り巻く3要素


また、老年症候群は、薬剤の副作用から起こる場合もあるので、この副作用を考慮して、薬剤の評価を行うことも重要となります。 


第25回第2問の選択肢

加齢に伴う心身の変化に関する問題で、「加齢によっても、嚥下機能は低下しにくい。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
加齢に伴い、嚥下に関係する筋肉や神経の老化によって、 嚥下機能が低下し、嚥下障害が起きやすくなります。


②廃用症候群について

廃用症候群とは、安静状態が長く続くことによって起こる身体の種々の臓器の機能が低下した状態です。

例えば、1週間、安静にしていると、筋力は、どうなるのか。

1日あたりだいたい2%くらい低下します。わずか1週間で、10%から15%低下します。1か月で、50%程度低下します。

このように筋力の衰えの進行が速いので、例えば、集中治療室から、意識混濁の中でも、リハビリテーションとして、手足を動かしたりして、筋力の衰えを防ぐ必要があります。

では、3週間、関節を動かさないとどうなるか。

可動域が減少します。

また、3週間の安静で、心臓と肺の機能が、10%から20%ほど低下します。

安静状態の継続というのは、身体機能の低下のみではなく、精神機能の低下、例えば、鬱状態等にも繋がります。
活動しないと、どんどん活動しにくくなり、活動意欲も低下していきます。これが寝たきりになる悪循環のメカニズムです。

安静状態が長く続くことによって起こる身体の種々の臓器の機能の低下としては、
①筋萎縮
②骨萎縮し、骨がもろくなる
③関節拘縮(拘縮というのは、関節の動きが悪くなることです。)
④起立性低血圧症(急に立ち上がると血圧が急激に下がり、ふらつくこと)
⑤誤嚥性肺炎
⑥褥瘡
⑦認知機能の低下
などがあります。

そして、この廃用症候群の防止・軽減のために、リハビリテーションが重要になってきます。
リハビリとしては、急性期リハビリテーションというものがあります。
急性期リハビリテーションは、脳卒中や骨折などの病気や傷害の治療直後もしくは治療と並行して行うリハビリテーションになります。


第30回第7問の選択肢

廃用症候群に関する問題で、「起立性低血圧が起こりやすい。」との内容の正誤が問われています。






これは、その通りです。
起立性低血圧症は、血圧を調節する働きが弱くなることで、立ち上がった時に、血圧が急に下がり、脳へ酸素が届かずに症状を引き起こすというものになります。


第30回第7問の選択肢

廃用症候群に関する問題で、「急性期リハビリテーションで離床を早期から行うことで起こりやすい。」との内容の正誤が問われています。






この選択肢は誤りになります。
離床を早期から行えば、安静状態が長く続くことによって起こる身体の種々の臓器の機能の低下を抑えることができますので、廃用症候群は起こりにくくなります。


第36回第7問

廃用症候群に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1 若年者にも生じる。

2 数日間の安静では、筋力低下は起こらない。

3 長期臥床(がしょう)により筋肉量が増加する。

4 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は安静臥床により改善する。

5 予防することはできない。




解説

選択肢1は、〇
廃用症候群とは、安静状態が長く続くことによって起こる身体の種々の臓器の機能が低下した状態です。
廃用症候群は、高齢者に起こりやすいですが、若年者にも生じます。

選択肢2は、✖
1日あたりだいたい2%くらい低下します。わずか1週間で、10%から15%低下します。1か月で、50%程度低下します。

選択肢3は、✖
筋委縮します。

選択肢4は、✖
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は安静臥床により悪化します。

選択肢5は、✖
予防が大事です。例えば、集中治療室から、意識混濁の中でも、リハビリテーションとして、手足を動かしたりして、筋力の衰えを防ぐことをしています。


(8)加齢に見られる症状について


ここでは、3つの症状、つまり、加齢変化が無くても現れる症状。それから前期高齢者で増加する症状。後期高齢者で増加する症状を順に見ていきます。

①加齢の変化が無くても現れる症状

めまい、胸腹水、疼痛、意識障害、不眠、転倒骨折、腹痛、黄疸(おうだん)、リンパ節腫瘍(しゅよう 例えば、頚部のリンパ節がぷくっと膨らむとか)、下痢、低体温、肥満、睡眠時呼吸障害、喀血(かっけつ 口から血がでること)と下血(げけつ 肛門から血がでること)というものがあります。

②前期高齢者の方で増加するよくある症状

認知症、脱水、麻痺、骨関節症、視力低下、発熱関節痛、腰痛、喀痰(主に咳をしたときに喉のほうから出てくる粘液状のもの)、咳嗽(がいそう せきのこと)、食欲不振、浮腫、痩せ、しびれ、言語障害、悪心(おしん 吐き気)、嘔吐、便秘、呼吸困難、体重減少等というものがあります。

③後期高齢者の方で増加するよくある症状

ADL低下、骨粗鬆症、椎体骨折(ついたいこっせつ 背骨の骨折のこと)、嚥下困難、尿失禁、頻尿、せん妄、うつ、褥瘡、難聴、貧血、低栄養、出血傾向、胸痛、不整脈(心拍リズムの異常のこと)というものなどがあります。

褥瘡、いわゆる“床ずれ”については、良く出てくるので、特に理解しておいてほしい部分です。

褥瘡は、寝たきりの状態で、とりわけ体位交換が十分に行われず、体重などによる皮膚の圧迫によって血流が阻害されたために血流障害が起こり、その結果として、組織が壊死に陥った状態を指します。

褥瘡の好発部位は、皮膚の薄い所になります。つまり、仙骨部、臀部、大腿骨頚部、肩甲骨部(けんこうこつぶ)などになります。

褥瘡の治療としては、薬物塗布や保湿もありますが、やはり皮膚への圧迫の除去が基本になります。それと栄養状態の改善、皮膚の清潔が重要になります。
褥瘡については、栄養状態の改善は盲点になりがちです。しかし、これも大事なものになります。75歳以上の後期高齢者は、どうしても食欲が落ちてきますし、消化吸収力も落ちてきて、低栄養になりがちです。
やはり栄養と水分が、生命の維持と健康の基本の大前提となりますので、個人ごとに栄養評価を行って、栄養サポートチームによる栄養支援が基本となります。
栄養状態が良いか悪いかは、血液生化学検査によってすぐに分かります。

以上、いろいろと医学用語が出てきて、その意味が分からないという事態に陥りがちですが、このような言葉に慣れて貰うしかないです。


第23回第2問の選択肢

高齢者に多い疾患やその病態に関する問題で、「褥瘡とは、皮膚に発生した創傷が原因となって周囲の組織が壊死に陥った状態を言う。」との内容の正誤が問われています。






この選択肢は誤りです。
選択肢にある「創傷」、簡単に言うと、傷です。褥瘡は、傷ではなく、圧迫によって血流が阻害されたために組織が壊死に陥った状態です。


(9)高齢者に対する薬物療法の際のポイント


ポイントとしては、7つあります。

①処方薬剤数は最小限にすること。
②服用法を簡便にすること。
③処方計画に基づく目標を設定すること。
④生理機能(身体の生理的働きのことですが、神経系・呼吸器系・循環器系・消化器系・排泄系などの機能があります。)に配慮すること。
⑤必要に応じて臨床検査(傷病や健康の状態を評価するための医学的検査)をすること。
⑥定期的な処方の見直しにつなげていくこと。
⑦新規事象は薬の有害事象を疑うこと。

以上の7つのポイントがあります。


高齢者において、常に有害事象を意識しておくべき薬剤と薬物療法の原則に触れておきます。


高齢者の薬物療法の原則について

加齢に伴い、薬物に対する反応性は低下します。その要因は、受容体(何かにくっつくことで働くタンパク質)の感受性の変化によると考えられています。しかし、実際は感受性は定量化、つまり数量として表すことが困難であり、薬物投与時の年齢と反応性を個別に見て検討していくことが必要となります。
これが高齢者の薬物療法の原則です。
実際には、個々の病態や病状に合わせて治療上のメリットとデメリットを考えた上で薬物が投与されています。
ここのところは、医者が物凄く神経を使うところになります。

薬物の投与にあたっては、いろいろな事項について、常に評価が求められます。
すなわち、尿の排泄をつかさどる器官である腎機能、それから体重、加齢変化、認知機能、アドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)や家族も含めた評価が必要となります。

薬物による有害事象の典型例としては、悪性症候群が有名です。

悪性症候群とは、抗精神病薬(脳内のドーパミン神経の活動を抑えることにより、幻覚や妄想、考えをうまくまとめられない、気持ちをうまく表現できない、意欲がわかないなどの症状を改善し、また再発を防ぐ効果のある薬)投与中に、原因不明の高熱、意識障害、筋強剛(筋固縮ともいいます。手首や肘関節(ちゅうかんせつ)をもって動かそうとすると、カクカクとした抵抗を感じる症状)、振戦(しんせん 手、頭、声帯、体幹、脚などの体の一部に起こる、不随意でリズミカルなふるえ)、発汗(はっかん)、血清クレアチニンキナーゼの上昇(筋肉にエネルギーを貯めるときに働く酵素で、全身の運動をつかさどる筋肉(骨格筋)や心臓の筋肉(心筋)に多く含まれています。 したがって、それらの筋肉が傷害されたときに、血液中で血清クレアチニンキナーゼが高値になります。)などを伴う症候群です。
要するに、向精神病薬の重篤な副作用になります。

薬剤と有害事象のそれぞれの例について

高血圧に対する薬である降圧薬においては、有害事象としての低血圧や転倒の問題ということについて配慮が必要になってきます。

利尿薬(尿量を増加させて、循環血液量を減少させる作用を持つ薬物)においては、尿失禁、脱水と電解質異常の配慮が必要になってきます。
電解質の主なものは、ナトリウムなどのイオンになります。
脱水によるナトリウム等の電解質異常は、身体症状だけでなく、意識障害などの神経症状を引き起こしやすくなる点でも注意が必要です。

私は、ランニングが趣味ですが、のどが渇くと、意識して、よくポカリスエットを飲みます。ポカリスエットは、体液に近いイオンバランスの飲料水ですので、ランニングによって汗をかくなどして失われてしまった水分やナトリウムなどのイオン(電解質)を補給するために、ポカリスエットを飲んで、身体をうるおしてあげるわけです。
補給するものが水だけだと、電解質の補給ができていません。
皆さんの中には、マラソンランナーがふらふらになって、何とか走っている姿を見た人もいると思います。あれは、脱水症状が出ているわけで、体の中の電解質が足りなくなっているわけです。

次に、経口抗凝固薬(けいこうこうぎょうこやく 口から与える血をさらさらにする薬)においては、出血が有害事象です。
これは、血が止まりにくくなるわけです。
臓器の出血、つまり内出血ということに注意を要します。

次に、糖尿病治療薬においては、これはそもそも血糖値を下げる薬であるため、血糖値が下がりすぎるという低血糖のことについて考えていかなければなりません。
低血糖状態になると、冷や汗、動悸、意識障害、けいれん、手足の震えなどの症状があらわれます。

次に、非ステロイド性消炎鎮痛薬(体内での炎症や痛みなどを抑え、熱を下げる薬)については、消化性潰瘍(かいよう)、これを特に薬剤性潰瘍と言います。
この薬剤性潰瘍ということもありうることも考えておく必要があります。
非ステロイド性消炎鎮痛薬は、胃の粘膜を傷つけてしまう働きと、胃の粘膜を保護する力を弱めてしまう働きがあるため、潰瘍が起きやすい状態となります。


第32回第2問の選択肢

高齢者の脱水に関する問題で、「降圧利尿薬の服用は、脱水の原因にならない。」との内容の正誤が問われています。






この選択肢は誤りです。
降圧利尿薬においては、脱水が引き起こされることがあるため、脱水の配慮が必要となります。



第23回第2問の選択肢

高齢者に多い疾患やその病態に関する問題で、「高齢者が脱水症状となると、身体症状だけでなく意識障害などの神経症状をきたすことが多い。」との内容の正誤が問われています。






これはその通りです。


(10)後期高齢者の外来診療のイメージ


福祉職が、高齢者を支援する上で、医療機関において、高齢者の診療はどのように行われているのか、ということを知っておくことはとても必要なことだと思います。

まず慢性疾患を有している後期高齢者の疾病の特性として、複数の疾患を有している者が多いということがあります。

そして、認知機能が低下している者が、やはり若年者よりは多いです。

また、介護を必要としてる方が多く、なにかとリスクが高いです。

そして、合併症の発症及び重症化のリスクが高い、というような特徴を持っています。

ですから、このような後期高齢者に対して、医師は、実際に、どのように対処をしてるのかと言うと、定期的な検査、及び総合的な評価を行っています。

定期的な検査というのは、採血等を行うことです。
血液検査や尿検査、そして、心電図検査、胸部X線検査(心臓の大きさ、左右の肺の病変が分かります)、眼底検査をします。

これに加えて総合的な評価として、基本的な日常生活の能力、認知機能、意欲、情緒や気分などということなどを合わせて評価をしています。

この定期的な検査及び総合的な評価については、本人、家族、医師、看護師、介護職、福祉職などで情報を共有していきます。
その際、まず中心となるのは、検査及び評価を踏まえた診療をするということになります。
そして、必要であれば、他の医療機関に紹介をする。そして、もう一方の流れとしては、介護予防の取り組みをする。とりわけ栄養、食事内容の変更、低栄養状態の改善などに結び付けていく、ということを行っています。
これが現在の後期高齢者の方における外来診療イメージになります。



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