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医学概論NO.3 ソーシャルワークを極める講座 



今回の内容をYouTubeで視聴できます。


(3)高齢期

それでは、高齢期について触れた上で、老化について詳しく確認します。


①高齢期(65歳から)

高齢期は、人生の終末に向けた最後のステージになります。

高齢期には、前期高齢期(65歳から74歳)と後期高齢期(75歳以上)があります。

高齢期で重要なのは、健康寿命を伸ばす、平均寿命と健康寿命との差を縮小させるということです。

厚生労働省「令和4年簡易生命表」・「令和4年版厚生労働白書」より

健康寿命を見ると、後期高齢期(75歳以上)では健康状態が損なわれ、活動低下を起こす傾向にあることが見て取れます。


2.老化


(1)老化の因子

老化とは、加齢に伴って生じる不可避的・不可逆的な全身機能の低下になります。

老化は、環境因子と遺伝因子に影響されて、これらの因子はお互いに影響し合っています。

遺伝因子とは、生まれつきのプログラムであり、 DNA のレベルで決定されている病気のなりやすさなどを指します。 

これに環境要因であるストレスや暴飲暴食、運動不足、それからアルコールの過度の摂取、また喫煙などが加わって、老化のスピードを速めると考えられています。

要するに、老化は、遺伝的要因や環境要因に大きく左右され、生理機能低下度の個人差・臓器差が大きいものとなっています。


第26回第1問の選択肢

老化に関する問題で、「老化は環境因子に影響されるが、遺伝因子には影響されない。」との内容の正誤が問われています。





老化は、遺伝的要因や環境要因に大きく左右されます。よって、この選択肢は誤りになります。


(2)生理的な老化と病的な老化

老化については、大別して、生理的な老化と病的な老化があります。

生理的老化について

肉体は30歳くらいから老化が始まっていますが、60歳くらいになると、身体全体の細胞数が減る、細胞自体の働きが鈍くなるなど、徐々に色々な機能が低下していきます。
人間は誰であっても歳をとるごとに自然に身体の機能が低下していくわけですが、これが生理的老化になります。
例えば、歳をとると、ほとんどの人が白髪が増えますし、顔には、シミやシワができるようになります。また、老眼も老化の分かりやすい例になります。

病的な老化について

病的な老化は、年を取るとなりやすいですが、誰でもなる訳ではない状態のことで、疾患の影響が加わることで更に不利益を生じる場合 (高血圧症とか認知症など)になります。


第26回第1問の選択肢

老化に関する問題で、「老化が進むとともに、生理機能低下度の個人差は減少する。」との内容の正誤が問われています。





生理機能低下度は、老化が進むほど生活習慣や疾患の状況による個人差が大きくなります。よって、この選択肢は誤りになります。


第26回第1問の選択肢

老化に関する問題で、「生理的老化の特徴の一つに可逆性がある。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
これは、ストレーラーによる老化現象に共通する4つの特徴に係る問題になります。4つの特徴の中に、「進行性」という特徴があります。
進行性は、老化は変化していく過程として捉えられる不可逆的なものであるという特徴になります。
不可逆的とは、一度起こった現象は元に戻れないという意味になります。
生理的老化には、不可逆的な特徴があります。よって、可逆性があるとする選択肢は誤りになります。
ちなみに病的老化は、疾患の治癒に伴って回復する可能性がありますので、可逆性、つまり状態が変化してもまた元の状態に戻れるという点に特徴があります。


第26回第1問の選択肢

老化に関する問題で、「加齢に伴う疾患の増加は、生理的老化の原因になる。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
生理的老化には、普遍性(ストレーラーによる老化の4つの特徴の一つ。生命あるものすべてに起こる現象であり、一部の者に起こる障害や疾病は含まない。)があり、加齢に伴って全ての人に共通して起こる現象です。生理的老化は、疾患がなくても起こりますので、加齢に伴う疾患の増加とは直接的な関係はありません。よって、この選択肢は誤りになります。
ちなみに、ストレーラーは、老化現象に共通する特徴として、普遍性、固有性(内在性)、進行性、有害性の4つをあげています。これらを満たした状態を老化としています。
固有性(内在性)は、個体に内在するものであり、必然的に生じる現象であるという内容です。また、有害性は、機能低下のことで、生体にとって有害なものばかりであるという特徴になります。


(3)生理的機能の低下の度合いについて


福祉職が押さえておかなければならないのは、平均的な方で、生理的機能がどのくらい低下していくのかということです。つまり、福祉職が支援する高齢の方の生理的機能が平均的な方と比べてどのくらいあるのか、ということです。
福祉職が、歳を重ねた方を理解する際に、ここのところは、とても必要な知識になってきます。

人は必ず老化します。なので、疾病がない場合の生理的な老化であっても、どのくらい生理的機能が低下するのだろうということを福祉職は支援にあたって把握しておく必要があるわけです。
そこで、平均的な方で、30歳を100とした場合、どのぐらい加齢に伴って生理的機能が低下をするのかということを確認しておきます。


①肺について

呼吸筋が弱くなること、また肺胞数が減少することにより、肺活量(最大限吸い込んだ状態からどれくらい空気を吐き出せるかの量)は、80歳で30歳の約6割以下になります。
この点ですが、全肺気量(最大に膨らんだ時の肺の容量のこと)は加齢による低下はありません。ですが、呼吸筋が弱くなり、息を吐ききれず、残肺気量(息を最大限に吐ききったあと、肺に残っている空気の量)が加齢に伴い増加する、つまり息を吐ききれない状態が増加します。このことから、肺活量が低下することになります。

ちなみに標準的な肺活量の値は、男性で4000-4500mL、女性で3000-4000mLとされています。ですので、80歳の男性で、2400-2700mL、80歳の女性で、1800-2400mLまで低下するということになります。

また、肺の最大摂取換気量(最大酸素摂取量)は、70歳で、30歳の約5割。80歳ぐらいになると、30歳の約3割ぐらいまで低下します。
ここからわかることは、歳を重ねた人が、これだけ呼吸機能に余裕がなくなるということです。だから、走ったり、階段を上がることがしんどくなります。


②神経機能について

神経の伝導速度に関してですが、神経の伝導速度は低下があまりありません。
神経の伝導速度は、70歳でも30歳の9割近く、80歳でも8割以上あります。神経機能については、低下が緩やかです。


③腎機能について

腎臓は血液を濾過し、老廃物や水分などを排泄し、尿をつくるための臓器になります。
宇都宮市のホームページより

腎臓は身体の背中側にあります。腰の少し上あたりに位置していて、左右に1こずつあります。そら豆のような形をしており、大きさはだいたい大人の握りこぶしくらいです。
腎臓の細胞数が減少して、血液濾過率は、80歳で30歳の6割程度になります。
腎血漿流量(じんけっしょうりゅうりょう 腎臓に流れる血液量 血漿というのは血液の血球成分を除いた液体成分で血液の約55%を占める。)は、80歳で30歳の5割程度になります。その低下は、非常に著しいです。

腎臓の体液調整機能が低下すると、腎臓による水の再吸収能力が低下しますので、脱水になりやすくなります。

ここは、わかりにくいところなので、補足して説明しておきます。
例えば、体内の水分が不足した場合に体の中で何が起こるかといいますと、腎臓において水分の再吸収力(これを尿濃縮能といいます。)が高まり、体水分量を調節します。ところが、高齢者は、老化により、腎臓の尿濃縮能、つまり水分の再吸収力が低下することから、水分が足りなくなり、脱水に陥る危険が高いわけです。

腎臓と経路(尿道)で結ばれているのが膀胱です。腎臓と膀胱は経路(尿道)で結ばれていています。
膀胱については、高齢になると、膀胱の拡張能・収縮能がともに低下し、膀胱容量は低下します。そうすると、頻尿傾向が出てきます。


④心機能について

心機能においても低下はしてきます。70歳で30歳の7割くらいまで低下します。しかし、5割以下に低下する腎機能や呼吸機能に比べると、そこまでは下がってこないです。


⑤代謝機能について

代謝機能と言えば、夏場によく問題になります。
基礎代謝(これは、体温維持、心臓や呼吸など、覚醒状態の生命活動を維持するために生体で自動的に(生理的に)行われている活動における必要最低限のエネルギーのこと)や細胞内水分量(細胞内で水分を保つことができる機能)は、80歳で30歳の8割ぐらいまで低下してくるということがあります。80歳で8割ぐらいまで維持されているという意味では、腎機能、呼吸機能に比べると、比較的維持されています。また、運動をして筋肉量を増やせば、基礎代謝は増加します。

また、細胞内水分量は、腎機能や呼吸機能に比べたら、維持はされていますが、30歳に比べたら、2割は減っているので、高齢者は、脱水症に注意をする必要があります。
高齢者は夜間に頻尿になることが多く、下痢や尿失禁を恐れて、意識的に水分の摂取を控える傾向があります。ですから、1日の水分摂取量は若年者よりも少なくなります。そういう意味でも、高齢者に対しては、脱水症に注意をする必要があります。

それから、高齢者は喉が渇くという感覚の認識能力が乏しくなっています。よって、特に夏は、喉が渇いていなくても、こまめに水分を摂取する必要があります。そして、脱水症だけではなく熱中症にも注意する必要があります。

また、人間の身体は、その多くが水分でできています。そして、体重に占める水分の割合は、一般成人の場合は、約60%です。
このうち細胞内液は2/3。そして、体内を循環する細胞外液は1/3を占めています。

通常は人体の恒常性、つまりホメオスタシスにより、体液や電解質は一定に保たれています。ただ、細胞内液が10%以上減少しますと、様々な機能障害、循環障害、細胞の萎縮など重篤な症状が現れます。

で、加齢に伴い、高齢者では、体重に占める水分の割合は、一般成人の場合と比べて約10%減の約50%にまで減少します。これは、加齢に伴い筋肉量が減少することによって細胞膜の内側にある細胞内液が減少するためです。

それから、加齢とともに筋組織の割合が減少する一方で、水分を貯蔵できない脂肪組織の割合が増加し、除脂肪体重(これは体重から体脂肪量を差し引いたものになります。)は減少します。 これも、脱水になりやすい原因になります。

脱水により何が起こるか。

脱水による循環血液量の減少が起きます。これは頻脈(心拍数が増加している状態)や血圧低下につながっていきます。
そして、脱水によって唾液量の減少が起きます。また、尿量減少、皮膚の乾燥、脱力感というような症状が現れてきます。
唾液量の減少は、口の渇きや味覚障害、食欲低下といったことに繋がっていきます。また、尿量の減少というのは、腎不全の原因にもなっていきます。


第32回第2問の選択肢

高齢者の脱水に関する問題で、「体全体の水分量は、若年者と変わらない。」との内容の正誤が問われています。

この選択肢は誤りです。
加齢に伴い、高齢者では、体重に占める水分の割合は、一般成人の場合(体重の約60%)と比べて約10%減の約50%にまで減少します。これは、加齢に伴い筋肉量が減少することによって細胞膜の内側にある細胞内液が減少するためです。



ア とりわけ課題となる高齢者の脱水の理由と特徴について

特に近年、日本では、年々温暖化の傾向がありますので、高齢者の脱水の理由と特徴を丁寧に理解しておくと実務で役立ちます。

高齢者の脱水の理由について
・水分保持機能の低下
・渇中枢機能(かっちゅうすうきのう)の低下
・腎機能の低下
・水分摂取不足
・降圧利尿剤の服用
・意欲の低下
・基礎代謝量の低下
というものがあります。

1番目の水分保持機能の低下というのは、水分保持をしない脂肪の増加による筋肉量の減少、これも原因となっていきます。これは、筋肉が水分を保持しているということに関わってくるところになります。

2番目の渇中枢機能の低下というのは、口の渇きの感受性の低下によって、飲水行動が起きにくくなり、水分摂取量が減少するということです。

3番目の腎機能の低下というのは、水分の再吸収能力の低下です。
尿を濃縮する能力の低下によって、水分が尿としてそのまま失われてしまう。これが関わってきます。

4番目の水分摂取不足というものは、夜間頻尿や下痢や失禁をおそれた、意識的な水分摂取制限です。

5番目の降圧利尿剤の服用というのは、高血圧患者の場合、降圧利尿剤の服用による副作用で、脱水傾向が表れるということがあります。

6番目の意欲の低下は、水分を摂取しようとする意欲の低下です。

7番目の基礎代謝量の減少というのは、老化により基礎代謝量の減少が生じ、代謝によって生成される水分量の減少ということが発生します。

イ 一日当たりの水分の出入りについて

一日当たりの水分の摂取量と排泄量です。

水分の摂取量について

水分の摂取の仕方については、飲水による摂取の場合、食品による摂取の場合、それと代謝水(細胞のエネルギー代謝によって体内に新たに産生された水分。)によるものがあります。

それぞれの成人の摂取量としては、

飲水は、1日1000~1500ml
食品による摂取が、1日約800~900ml
代謝水は1日約250~300mⅼ

になります。

水分の排泄量について

一番水分が失われるのは、やはり尿です。
1日に、体内水の約半分にあたる1000~1500mlが排出されます。

あと、便です。便にも体内水が含まれています。1日約100~200mlです。

それから、汗や呼吸器などの水分による排泄です。
つまり、汗や呼吸などによる水分の排泄です。
量としては、汗は、1日約600mlが排出されます。呼吸については、その排出量は、コップ2杯分の約400mlです。

それぞれ目安の量も押さえておいてください。


⑥神経系の老化による機能の低下について

大脳

大脳は、老化によって約100グラムぐらい減少してきます。

運動機能

運動神経の刺激伝導速度は、老化によって遅くなります。特に瞬発力は、60歳代で30歳の50%、80歳代で30歳の20%にまで低下します。
これだけ低下するので、とにかく、転倒を起こしやすいです。とっさの時の反応ができません。だから、転倒の際も、手が出ず、頭から着地することが多いわけです。



第29回第2問の選択肢

加齢に伴う生理機能の変化に関する問題で、「肺活量は維持される。」との内容の正誤が問われています。



肺活量は、80歳で30歳の6割以下になりますので、この選択肢は誤りになります。


第34回第1問の選択肢では、加齢に伴う身体の変化に関する問題で、「肺の残気量が増加する。」との内容の正誤が問われています。




この選択肢は正しいです。
高齢者では、横隔膜や肋間筋など呼吸に関与する筋力が低下することから、呼気時に十分な肺の収縮が得られず、息を吐ききれず、換気の効率が低下しています。つまり、肺の残気量が増加します。よって、この選択肢はその通りです。


第26回第1問の選択肢

老化に関する問題で、「肺や腎臓は、老化による生理機能低下が顕著な器官である。」との内容の正誤が問われています。




その通りです。
肺や腎臓については、80歳の肺や腎臓の機能は、30歳の約半分程度に低下します。なので、老化による生理機能低下が顕著な器官と言えます。


第32回第2問の選択肢

高齢者の脱水に関する問題で、「腎臓による水の再吸収能力が、低下している。」との内容の正誤が問われています。




これは、その通りです。


第34回第1問の選択肢

加齢に伴う身体の変化に関する問題で、「膀胱容量が増大する。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
膀胱については、高齢になると、膀胱の拡張能・収縮能がともに低下し、膀胱容量は低下します。


第32回第2問の選択肢

高齢者の脱水に関する問題で、「1日の水分摂取量は、若年者より多い。」との内容の正誤が問われています。




この選択肢は誤りになります。
高齢者は夜間に頻尿になることが多く、また、下痢や尿失禁を恐れて、意識的に水分の摂取を控える傾向があります。ですから、1日の水分摂取量は若年者よりも少なくなります。


第32回第2問の選択肢

高齢者の脱水に関する問題で、「喉の渇きを感じやすいため、脱水になりにくい。」との内容の正誤が問われています。





 この選択肢は誤りになります。
高齢者は喉が渇くという感覚の認識能力が乏しくなっています。よって、脱水になりやすいわけです。


第29回第2問の選択肢

加齢に伴う生理機能の変化に関する問題で、「加齢に伴う生理機能の変化に関し、体重に占める水分の割合は増加する。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りになります。
体重に占める水分の割合は、一般成人の場合は、約60%です。しかし、加齢に伴い減少し、高齢者では、10%減で約50%にまで減少します。


第25回第2問の選択肢

加齢に伴う心身の変化に関する問題で、「体重から体脂肪量を差し引いた、除脂肪体重が増加する。」との内容の正誤が問われています。





この選択肢は誤りです。
加齢とともに筋組織の割合が減少する一方で、脂肪組織の割合が増加し、除脂肪体重は減少します。


⑦聴覚等について

視力、聴力、平衡覚(身体のバランスを保つために必要な感覚)、嗅覚(きゅうかく)、味覚は低下します。

聴覚の能力の老化については、加齢性の難聴により、高周波音域から次第に低下していきます。
例えば、市販されている洗濯機、炊飯器、ガス漏れ検知器など、家電製品の報知音については、高い周波数の音、ピー、ピーみたいな音が多用されています。しかし、これらの音は、高齢者にとっては聞き取りにくいものになっています。このような家電製品の報知音については、高齢者が聞き取りやすい、より低い周波数の音、ブー、ブーみたいな音の使用が望まれるところです。

あと、両耳ともに難聴が進行することが多いと言われています。


第29回第2問の選択肢

加齢に伴う生理機能の変化に関する問題で、「聴力は高周波音域から低下する。」との内容の正誤が問われています。





これはその通りです。
同じような問題が、第34回第1問でも出題されています。 


⑧自律神経について

自律神経の老化ですが、自律神経は、自分でコントロールできない神経系になります。
自律神経には、体の調子を整えるための「アクセルとブレーキ」の役割があります。
例えば、暑さに応じて汗をかいたり、目が覚めると心拍数や血圧が上がってシャキッとした動きをするようになるとかです。
この自律神経も老化現象により、自律神経機能は低下し、この機能の低下は、尿意や便意をコントロールしにくくなるなどの変化が見られるようになり、切迫性尿失禁(急に強い尿意があり、我慢できずに尿がもれてしまう現象)の原因ともなってきます。


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