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7割を目指す講義NO.10 ベヴァリッジと五つの巨人悪



6.ベヴァリッジ報告(正式名称は、社会保険及び関連サービス)


ベヴァリッジ報告は、1942年の第二次世界大戦中(勃発は、1939年)に提示されたものです。
当時のイギリスは、長引く戦争(対ナチス・ドイツ戦)によって社会不安が高まり、また失業者があふれて貧困層が増加するなど、国内的には混乱していました。
そこで、ベヴァリッジ報告では、第二次世界大戦後のイギリス社会再建のために、将来の社会保障計画(社会保障の大前提として「完全雇用の維持」「所得制限なしの児童手当」「包括的な保健サービスの提供」の3つを挙げた。)を提示し、それまであった乱立し非効率な既存制度を再編していこうということで、そういうことをねらった報告書になります。
また、イギリス人に何のために戦争をしているのかを明確にするために、戦後の構想として、この戦争に勝てば、しっかりとした社会保障制度を作っていきますよ、という意味で作られたという性格もありました。

この報告書は、ベヴァリッジを委員長とする委員会(この委員会は、チャーチル首相から戦後の社会保障制度に関する委員会の開催を依頼されたという経緯があります。)の報告書なので、ベヴァリッジ報告と呼んでいます。
ちなみに、ベヴァリッジは、トインビー・ホールの運営に携わり、生涯の師となるウェッブ夫妻(夫人ベアトリスは、王立委員会の委員として、国民が最低限度の生活を維持することを意味する「ナショナル=ミニマム」の徹底を主張した。)と出会います。1908年にウェッブ夫妻の仲介で商務省に入省し、以後、11年間にわたり官界に身を置くことになります。

このベヴァリッジ報告書は、イギリス社会再建の目標を五つの巨人悪「戦後再建問題、行く手を阻む(はばむ)5人の巨人」(「窮乏」「疾病」「無知(教育)」「不潔(住宅)」「無為(失業)」)への攻撃にたとえ、それぞれに対する社会政策が相互に機能すべきとしたものになります。

それぞれの原因を解決するための施策の充実を目指していく。
き 窮乏には、所得保障
し 疾病には、医療保障体制の整備
む 無知には、教育制度の保障
ふ 不潔には、公衆衛生の向上
た 怠惰には、雇用の促進

ベヴァリッジ報告では、巨人悪の一つである窮乏に対する所得保障には「社会保険」を重視し、その基本(指導)原則に、社会保険制度と公的扶助によるナショナル・ミニマム保障とか、「均一拠出・均一給付の原則」(つまり、均一額の最低生活費を給付、均一額の保険料を拠出させる。全ての人が同一額の拠出をし、窮乏者が同一額の給付を受けるというもの。)、包括性の原則(全国民を適用対象とするとともに、国民の生活安定と福祉を脅す様々な事故に対処しようとしていること)等を掲げました。
ナショナル・ミニマム保障とか、「均一拠出・均一給付の原則」は、ウェッブ夫妻が提唱していたものになります。
そして、ベヴァリッジは、国家責任の範囲を最低限度の生活保障に限定したわけです。
なお、ベヴァリッジ報告は、ナショナルミニマムを超える保障については、任意保険等の自発的努力を奨励すべきとしました。

要するに、ベヴァリッジは、社会保障を社会保険、国民扶助、任意保険の組み合わせにより計画することを主張したということです。そして、ベヴァリッジも、ナショナル・ミニマム概念を取り入れたが、それは国家責任の範囲でのことだったということです。

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