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15年間、変わらぬ空気、変わらぬゴチソウ

新宿御苑の近くに「大木戸矢部花園町店」という日本料理の店がある。

矢部さんが新宿御苑の大木戸門近くではじめたお店で、それで大木戸矢部を名乗ってた。
そこが手狭になって移転した先がここ花園町。
15年ほど前に銀座にお店を作り、ここが花園町店なった。矢部さんは銀座で腕をふるいここは若い人ががんばっている。
思い出のあるお店です。

仕事は順調。やることなすこと成功し、タナカくんの仕事も順調。毎日たのしく、一緒にいるとそこが世界の中心みたいに感じたほど。その世界の中心の中にあったオキニイリのお店のひとつがこの店で、よく来てた。
ふたりでいるとそこは世界の中心なのに、ひとりになると世界の隅っこにいるさみしさに気持ちが折れる。ここ数週間、さみしい気持ちが日々深まって、なにか元気になるきっかけを作らなくちゃ…、ってこの店に来た。
散歩でずっと近所を歩いていたけれど、なかなか気持ちが向かなかった。荒療治にも似た昼食がどんな結果になるやら、ドキドキしながら暖簾をくぐる。15年ぶりの来店です。

お店は変わっていませんでした。
カウンターの中に板場と焼き場に揚げ場。板場の前のオキニイリの席をもらって座ります。
茹でた毛蟹の足をせせって肉だけ取り出す。
夜の仕込みでありましょう。手を動かすことが好きな人たちが働く調理場。
そこに矢部さんが立っていて、奥の厨房で創業の店を譲られ「御苑前せお」をやってらっしゃる妹尾さんがいて、右隣にはタナカくんが座ってた。なつかしいったらありゃしない。

「納豆うどん」をお願いしました。

茹でてキリッとしめたうどんに納豆、卵黄、ネギ、鰹節。それをかき混ぜ仕上げるもので、うどんと鰹節以外は見るのも嫌だったものばかり。ゾッとしながら食べたらこれがおいしくて、苦手食材を克服できた思い出の品。

うどんは熟成さているからコシがある。ただかき混ぜるのでなく麺をもちあげ、空気をたっぷり含ませながらよく混ぜる。説明しながら横でずっと箸を動かし混ぜていく、その口上も仕事もみんな昔のまんま。
漆に椀にたっぷりの泡。納豆臭さはまるでなく、糸も完全に切られて粘らずふっくら、うどんとからんで口にスルンとやってくる。こしは強いけどなめらかな麺。そのなめらかを泡が一層なめらかにする。

鰹節に香りがふわり。強い旨味にネギの歯ざわり、みずみずしさに辛味がほどよいアクセント。底から納豆の豆が転がり出してきて、確かにこれは納豆だった…、と思ってニッコリ。

いろんなことを思い出し、ぼんやりしたから料理の写真もぼんやりしちゃった。そば湯にタレをもらってお腹をあっためて〆。元気がでたら今度は夜にきてみましょうと思って、お店を出て泣いた。


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