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さみしく甘く、なつかしく…。

月命日に長崎飯園の皿うどんを食べに行こうと神田までくる。

東京で一番好きって言ってたここの皿うどん。
どっしりとした太麺に濃厚味のあんがからんで金蝶ソースをかければ気分は里帰り。
秋葉原にあったときには夜にも飲みに来たりして、そこを閉店したときは「飯園ロスに耐えられない」なんて言ってた。
神田で営業再開したときは真っ先にきて「同じ味だね」ってよろこんでいた。
おじちゃん、おばちゃん、いつまでも元気でネ…、って来るたび言っていたのにその本人が先に逝っちゃった思い出の店。
今日も太麺皿うどん…、と思ってきたら閉業してた。

おじちゃんもおばちゃんもお年でしたから、いつかこの日にくるってことは覚悟してたけどやっぱりさみしい。ここに移転してからの数年間はおなじみさんへのご褒美だったと思えばしみじみありがたく、でもタナカくんの思い出がひとつひっそりなくなった。「もう食べられなくなっちゃったよぉ」って空に向かって報告したら涙が出ました。泣きました。


気持ちはすっかり皿うどんだった。だから昼に何を食べればいいのかすぐには思いつかず、甘いものでまず落ち着こうと「珈琲専門店エース」でドーナッツ。

これも好きだったなぁ…、長崎飯園で皿うどんを食べたらここでドーナッツ。揚がった生地は粗めでボロボロ崩れてく。崩れた生地をバターと混ぜてフォークですくってお皿をなめるようにキレイにしてた。

苦味がしっかりしていて明るい酸味が後口くっきりさせるコーヒーがこのドーナッツと相性良くて、甘い、苦い、酸っぱいがかわるがわる口の中にやってきては消えていくのにニッコリします。気持ちも落ち着き、昼のお店も決まります。


神田駅前からちょっと歩いて「八ツ手屋」にくる。

半年くらい前かなぁ…、ひさしぶりに来てタナカくんを偲んだお店。
はじめて一緒に来たとき「高いほうがおいしいんじゃない」って上天丼をたのむボクに「ボクは安いのでいいよ」って中天丼をたのんだ。
そしてその選択が正解だって食べて気づいたときに「往々にして高いものがうまいとは限らないんだ」と名言を残した店です。なつかしい。

昭和風情の佇まい。近くに来ると天ぷらを揚げるおいしい香りが店の外まで流れ出してて食欲誘う。
中天丼をたのんで食べます。

お茶にタクワン。天丼がそろそろ仕上がるタイミングでそうめんと三つ葉の入ったおすましが来て、ちょっと遅れて天丼の「中」。

中天丼はエビが2本と大きなかき揚げと極めてシンプル、900円。

小ぶりのエビではあるけれど尻尾がしっかりとした正直なエビ。かき揚げにはイカのゲソや耳に玉ねぎ。エビもかき揚げも衣がぽってり分厚くて、衣を味わうタイプの天ぷら。甘めのタレをたっぷり吸い込み、噛むとジュワッと油をにじませハラリと壊れる。出汁のうま味やかえしの風味、油のコクのバランスがよく、強めの揚がりの衣がなんとも香ばしい。

かき揚げのイカがおいしいんです。ゲソはコリコリ、耳はパリパリ、歯ごたえよくて噛めば噛むほど味が出てくる。
とろける玉ねぎ、パラパラご飯。エビは甘くて風味豊かで尻尾もカリカリ。
往々にして高いものがうまいとは限らぬ現実を今日もしみじみ思い知る。


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