見出し画像

ピョンヤンの国際見本市を見る

●ピョンヤン国際商品展覧会

今回の旅行では名所めぐりだけでなく
ちょっとマニアックな現場へも行ってきましたよ。

画像1

それがこの「ピョンヤン国際商品展覧会」。
いわゆる国際見本市です。
ピョンヤン市のはずれにある
三大革命展示館で毎年春と秋の2回開催されます。
北朝鮮で国際見本市やってるってのが正直意外でしたが
ヨーロッパや中近東などとはふつうに交易があるので
そう考えれば不思議でもないか。
「第21回」ってことはもう10年以上続いてるんですね。

ちなみに「三大革命」とは
思想・技術・文化、の3つだそうです。
ここの中にある「重工業館」では
北朝鮮製の機関車やバス・トラックなどが展示されてるので
乗り物好きの方には楽しいかも。

  (↓ご参考)

画像2

         「金星」型ディーゼル機関車

画像3

         「千里馬91」型トロリーバス

画像4

           「勝利61」型トラック


いや、そうじゃなくて商品展覧会でしたね(苦笑)

では中へと入りましょう。
やはり、というか。入場料が必要でした。
2,000円なり。
お、こんどは「千円」じゃなかったw

案内員氏に「半券ないの?」と聞いたら
「入るときに取られた」というので、う~ん残念。
その後会場内で落ちてるのを見つけて拾っちゃった。

画像5

む。値段が表示されてない。市民用かな、ま、いいや。
右の青いところに「参観券」と書いてあります。
上のイラストはたぶん通信ケーブルのコネクタ。ほうきじゃないよ(笑)
下にはなんか新幹線みたいなのが描いてありますが…
あれはきっと日本のではなく「中国の高速鉄道」なんだよ、うんw

画像6

参考画像:中国の高速鉄道=これも日本のパクリだと言われてますが…


さて、中はけっこう賑わってますよ。

画像7

人だかりができてるブースも。

画像8

これは期待が持てそうです。

●ブース巡りスタート

会場内は軽工業品から電気製品、衣類、家具、薬品…と
いろんな商品を展示するブースが1階と2階にびっしり。
なぜか会場案内マップどころか案内表示すらないので
全体像がつかめずおそろしく不便なのですが、
ざっと見た感じでも200以上のブースが立ち並んでいます。
想像以上の規模ですよ。
けっこうテンションが上がってきてなかなかおもしろい。
案内員氏にかまわずどんどん会場内を周遊し
いくつかのブースを覗いてみましょう。

画像9

ここは家電品ですね。
洗濯機や冷蔵庫が並んでいます。
どれもサイズがでっかいよな。

あ、日本語!
なんか怪しいフライパンがありますよ。

画像10

「SEKAI」ブランドの「精致の系列」
パステルカラーシリーズだそうです。もう何のことやら意味不明。
フ「シ」素樹脂で加工しているそうなので
どうも日本製に見せかけた中国製の輸入品ですね。
「精致」って、正しくは「精緻」だろ。
どうした!漢字の国、中国ww

おっと、こちらには水着が。

画像11

以前の紋繍遊泳場でも感じましたが、
どうもデザインセンスが一味違う…
あと、値段がドル表示なのに驚きました。
どうやら会場内ではドル建ての外貨決済が多いようです。

やたらファンシーな照明器具もありました。

画像12

こういうモノが好かれるようにもなってきてるんですね。
以前は使えればいい!的な武骨で味気ない製品が多かったんですが。

そして歯磨きなどの日用医薬品類もかなり多数。

画像13

なんと値段のPOPに「キ〇ィちゃん」が!
まさか商標権なんか取ってないよなぁ…
ちなみにこのブースではウォン表示でした。

メガネブースも人気です。
前の記事でも触れましたが、
ほんとに最近は北朝鮮にもメガネっ子が増えました。
以前はメガネかけてる人なんてほとんどいなかったのに。

画像14

販売員さんカワイイ♥


こちらではうまそうな匂いを振りまく実演販売。

画像15

何作ってんのかなぁ。


電気製品も驚きの充実ぶりです。

画像16

北朝鮮では有名なブランド「普通江(ポトンガン)」。

ポータブルテレビもあります。

画像17

ここはやはりドル表示ですね。でも案外安い?

こちらはライバル会社…ってわけでもありませんが
別のブランド「楽園(ラクウォン)」の大画面テレビたち。

画像18

で、これが売れてんだよなぁ。ただいま箱詰め中。
かなり高価格なんですが、みなさん購買意欲は高いようす。

画像19


一方こちらは北朝鮮を代表するカラオケ機器メーカーとして
日本でも(一部で)有名な「メアリ」社のブース。

画像20

来場者はお試しも可能で賑わってます。

そしてタブレットなどのIT機器も多数出展。

画像21

担当者の説明に熱心に聞き入るおじさん。
周囲にも人が集まり、関心はかなり高いようです。

なんとスマートウォッチもありますよ。

画像22

朝鮮語で「지능 시계(チヌンシゲ=知能時計)」。
確かに「スマート」は「賢い」って意味ですからね。
説明の付箋には、Bluetooth対応で住所録は2000件
心拍数や睡眠時間の計測もできるんだとか。
それで60ドルって、かなりお安いのでは。

その奥にあるのは教育用タブレット。
タブレットの朝鮮語は「판형콤퓨터(バニョンコムピュート)」です。
直訳だと「板型コンピューター」。堅苦しいなぁ。
そういえば韓国ではコンピューターを
「컴퓨터」と書くのに、北朝鮮では
「콤퓨터」と書くんですね。
同じ言葉のようなのに、微妙に違うのが新鮮。
日本人だと発音の違いはほとんど区別できませんけどねw
これも70ドルってむっちゃ安い。

せっかくなので店員さんに持ってもらって撮りたいとお願い。

画像23

むっちゃ照れながらもポーズ取ってくれましたよ。ありがとー。

実は、こうしたブースの写真って
撮ろうとするとけっこう断られたんですよ。「写真ダメ」って。
オンナノコではなく商品の写真でも。
中にはカメラを向けただけで手で制されるところもあって。
だからここに紹介したくらいを撮るのが精いっぱい。
このポーズ付き写真なんて「奇跡の一枚」です。
やっぱりカメラ持ってうろうろする外国人は嫌がられるのかな。
でも「見本市」なんだからなぁ…撮らせてくれてもいいじゃん。
そのへんはまだ日本の見本市とは違う雰囲気ですね。

●実感する北朝鮮の変化

でも会場内の熱気は日本に負けてません。
1階も2階もかなりの混雑。

画像24

歩きにくいほど混雑した通路もあちこちにありますし

画像25

人気ブースではわれ先に押し寄せる人々。

画像26


業者向け商談がメインの見本市というよりは
むしろ展示即売会のようなイベントの感じ。

で、来場者が「北朝鮮っぽくない」というとおかしいんですが
とにかくみんな元気でパワフルなんですよ。グイグイ来る。
ピョンヤン駅前などでも強く感じましたが、
人々がどうも「中国化」してるイメージですかね。
中国の地方都市的なザワザワ感が肌に迫って
20年前の北朝鮮をイメージしてると正直戸惑います。
当時の人たちって、まじめで寡黙なイメージだったのに。


さらに屋外にもいろんなブースが出ていてこちらも大賑わい。

画像27

お子様連れもたくさん見ました。
あれ?平日なのに…(笑)


正面には国産トラクターなんかも展示されています。

画像28

おお、向こうに見えるのは懐かしいオート三輪。
こちらではまだ新車が出てるんですね。


そして屋外で目を引くのが巨大な広告看板。

画像29


北朝鮮で「看板」といえばもうおなじみの
「偉大な〇〇…」や「決死擁護!」など
プロパガンダものばかりというのが相場なんですが、
ここでは商品宣伝の大広告がPR合戦。

いや、日本などでは別に珍しくもない広告ですが
社会主義経済が基本の北朝鮮では…、あれ?
朝鮮「民主主義」人民共和国なのに社会主義?という
素朴な声が聞こえてきそうですねw

う~ん。ここのところの説明はムズカシイんですが
ざっくり言うと国名の「民主主義」っていうのは
単に「Democratic」を直訳しただけにすぎず、
主権者が誰かという概念を表してるんですね。
国王や貴族が主権者の「君主制」ではなく
市民が主権者の「民主制」だという意味。

で、国家の政治主義としては憲法の第1条で
「朝鮮民主主義人民共和国は、…社会主義国家である。」
とうたっているので国の思想や運営方針は社会主義だと。

つまり
「人民主権の民主制を敷き社会主義で運営される国家」が
北朝鮮だということになるわけですが、ややこしいな。
まぁ実際このへんの解釈は政治学的にも複雑なので
くわしいことは専門家のセンセイにお願いしたいです…


さてまた横道にそれてしまいました。
北朝鮮の宣伝広告のおはなしです。

そう、もともと社会主義の計画経済で動いている国ですから
つねに決められた仕様で生産目標に従って製品を作り、
一定の配分計画に従ってそれを流通させてれば充分で
「より良い製品」を「より多く」、「どんどん売り上げる」など
そんな努力は全く必要なく、お互いに競争することもないので
宣伝なんかする必要はなかったわけですよ。今まで。
そもそも広告やサービスなんて概念がありゃしない。
…だったんですが、

いまやガンガンと自分の商品をアピールするように。

画像30

これは健康食品、というかコラーゲン製品ですね。
上の帯には「健康と美しさを与えるコラーゲン製品」
下では大きく「お肌がきれいになります」と断言を。

もう少しいろいろ見てみましょうか。
こちらはスマートフォンなどの製品群。

画像31

スマホの指紋認証や電池の大容量をアピールしてます。


これは外付けスピーカーで楽しめるテレビの宣伝。

画像32

まさか北朝鮮でBluetoothのマークを見るとはw

上にはおっきく

「ブルートゥースで
   テレビジョン音声を外部増幅器へ…」

単語が仰々しいので、なんだか大げさな表現に聞こえますね。

「楽園技術交流社のすべてのデジタルテレビで
  デジタルシステム+Bluetooth機能が結合しました」

Bluetooth対応のスピーカーなら
どのサイズのテレビも対応します、とのこと。

そして北朝鮮でも数年前からデジタル放送が始まってます。
「デジタルテレビ」は朝鮮語で
「수자식텔레비죤(スチャシクテレビジョン=数字式テレビジョン)」
というそうです。
「デジタル」が「数字式」という発想がお見事。
たしかにデジタルってもともと「0101…」だもんなぁ。
でも「テレビ」は英語そのままなのな(笑)


一方これはハミガキの広告ですね。金剛山製薬工場。

画像33

「白く美しい歯を作る効能高いハミガキ製品!」
写真はアロエハミガキのようです。
そういえば、こうしてイメージモデルさんを使うという戦略も
今まではなかったなぁ。

さらにはなんかすごい健康増進系の広告も。

画像34

「仙女のように美しく若返る 神秘の力」 だと力説する
生物活性輻射体という、いったい何だかわからないものや

画像35

水素水を作るポットの広告など。
「神秘の小分子水」と、こちらも神秘性をアピールw

「ビタミンCの176倍!」とこれまたなんか内容不明な。

しかしこれって、こうした美容健康に関心を向けるような
「余裕」が出てきた市民が増えてるということなんですね。
毎日食うや食わずではそんなこと考えませんから。


たしかに、こんな会場へ入場料払ってやって来る
ドルや中国元などのを外貨を持った市民というのは
決して「庶民」などではないでしょう。
それでも、あれだけ会場の内外にあふれる人数を見ると
単なる特権階級、というだけでもないように思います。

画像36

「外貨商店」というドルなどの外貨でしか買い物できない
いわゆるぜいたく品を売る特別な店は以前からありましたが
当時そんなところに来る人はまばらで
まさに少数の政府関係者や党幹部、外国人といった
ほんとうの意味で特権階級ばかりでした。

でもここで見る人たちは
もちろん裕福そうではありますが
けっこう「ふつうの人」が多いようです。
ピョンヤン市内に限るとしても、生活全体の底上げは
やはり進んできているのではないかと思えます。

一方では当然貧富の差が出てきているかもしれません。
ただそんなふうに「おカネ」の力が強くなっているということは
「市場経済」、「自由経済」という資本主義が北朝鮮の中に
じわじわと入ってきているという事実を表しています。
社会主義ではみんな平等でカネに縛られないはずですからね。
今後北朝鮮がどうなっていくのか、
ふとそんなことまで考えてしまう展覧会でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?