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認知戦の凶弾で死なないために『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』

『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』(『マンガワン』連載中。魚豊)が相変わらずおもしろいです。
10月23日(月)現在第13話です。
9月20日(水)記事公開時は第7話まで公開されており、その時点でも十分おもしろかったのですが、そこからさらに物事が動き出し主人公は後戻りできないところまで来てしまったようで目が離せません。

主人公の渡辺君を見ていてふと、「陰謀論にハマりやすい人はコンコルド効果(サンクコスト効果)に陥っているのでは」と感じました。

以下、エコーチェンバー現象とチェリーピッキングとコンコルド効果について考え「陰謀論者」と「反陰謀論者」の両方を取り巻く危険性について考えたいと思います。
そして次に「認知戦」という第3次世界大戦を生き抜くために必要なものは何かを考えたいと思います。
作品の内容に触れますがネタバレを回避して書きます。
未読の方もご安心ください。ご興味がございましたらぜひ『マンガワン』でお読みください。

■もったいないから今更とめられない「コンコルド効果」


魚豊先生の前作『チ。-地球の運動について-』は手塚治虫文化大賞など様々な賞を受賞した名作です。
そのため『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』も展開が気になり読み進められます。

主人公の渡辺は好きな人をディープステートから守るためにいろんな知識を漁ります。
ノート数冊にも及ぶ「世界の真実」は我々読者にも作中の好きな人にも引かれるような狂気を感じます。

陰謀論者は「エコーチェンバー現象」(SNSなどで自分と似た思想の人をフォローし自説が正しいという思いを強めて行くこと)と「チェリーピッキング」(自らの論証に有利な情報を抜き取り不利な情報は無視すること)に染まっているのだと揶揄されます。間違いを訂正する機会が失われたのだと哀れみの目で見られていることでしょう。
陰謀論者はこれまで掛けてきた時間と得た知識がすべて無駄だと思いたくないという「コンコルド効果」が働き、ますます自説を強化する情報にアクセスし、似た考えの人をフォローしてしまうのかも知れません。

ですがこのような思考の囚われは何も陰謀論者のみに働くのではありません。
例えば「反ワク(笑)・反マスク(笑)」と過剰に陰謀論者を揶揄する人たちはどうでしょう。
彼らはワクチンやマスクがいかに有効であるかのデータを漁り、自分の行動や思想が正しいはずだと思い込み、ワクチンやマスクを激押しする人たちをフォローしまくるでしょう。
自分が打ったワクチンは絶対安全で有効であり、嫌な思いをしながら装着し続けたマスクが絶対有効だったはずだと思いたい。もしこれらが無駄だったとしたら今まで何をやってきたんだ、と絶望してしまう。そのため自分が絶対正しいと思い込みたい。
僕からすると陰謀論者も反陰謀論者も同じように見えます。
ただ思想や信仰の対象が違っただけでしかありません。

「エコーチェンバー現象」、「チェリーピッキング」、「コンコルド効果」。
双方がこれらに囚われている間は陰謀論者と反陰謀論者は話し合いができないでしょう。
言葉は通じているのに対話ができない状態です。
渡辺君を見ているとそれがとてもわかりやすく描かれています。

■認知戦を生き延びるには

ではここで読者としてメタ的視点で考えてみましょう。
この作品はマンガですから、この先どのようにも展開できます。
『チ。-地球の運動について-』のように主人公が代わっていくかも知れませんし、『ひゃくえむ。』のようにライバルが登場するのかも知れません。
宇宙人が登場しても良いし異世界に転生しても良い。
神様になって都知事に立候補するかも知れません。
マンガですから。

渡辺君がこの現実でみなさんの隣に居るかもしれない陰謀論に染まった人としてではなく、ただのマンガでしかないとしたら。このマンガのキャラでしかない渡辺君が日本と似たような世界をがんばって生きるマンガ作品でしかないとしたら。
その場合、作品内で陰謀論が実際に存在する世界の危機というマンガ設定にも出来ますし、この現実世界と同様陰謀論者を揶揄する人たちであふれた世界の恥ずかしい存在渡辺君としても描くことができます。
つまりこの現実と分断させることも可能ということです。

そしてもし渡辺君がただの揶揄の対象でしかないとしたら。
もしかしたら『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』自体が認知戦の銃弾なのかも知れません。我々に「陰謀論者はバカだ。陰謀など存在しない」と思い込ませるための銃弾です。
この銃弾に撃たれたら目覚めることは無く、下手をすると大きく人生を損なうかも知れません。
被弾してしまったら今後は陰謀論者を見たら渡辺君と同列として嘲笑し見下すでしょう。
ディープステートについて語る人たちは近寄ってはならないヤバイ人たちだと認識するでしょう。頭のおかしいバカの言うことなど聞く気にならないと。
そしてディープステートに気付くことなく幸せに一生を終えるのです。
人口削減計画に気付かないまま。

逆にこの作品は防弾チョッキになるかも知れない。
陰謀論者を揶揄する人たちが次々と凶弾に倒れていく中、この作品を読んでいる人たちにはその凶弾が通用しない。
人口削減計画に刃向かうことが出来るかもしれない。

今言えることはこのマンガがとても危険でヤバくて面白いということです。
認知戦に巻き込まれていることに自覚的であればこの作品自体も疑うことが可能でしょう。どちらかはまだわかりません。現時点ではまだこの作品の立ち位置が不明です。
ジャンルは「ラブコメ」とのことですが、ラブコメディにしては渡辺君の佇まいがつら過ぎて笑えません。
ラブコメに見せかけて魚豊先生が『チ。-地球の運動について-』の時のように鮮やかに美しくそして残酷なまでに真実(FACT)を描き切るかも知れません。

■まとめ

僕は陰謀論者寄りの考えです。
ディープステートが人口削減計画を遂行しているかも知れないし、していないかも知れない。
日本に限って言えば人口は減っていくし出生率は現実に落ちています。
これがディープステートの仕業かどうか知りようがないからわからない。これが僕の立場です。
つまり「保留」です。
生きているうちに解明されるようなものでも無いでしょう。
人工地震や人工ウイルス。電磁波攻撃などなど、実際に行われているかどうか僕が調べることは出来ませんが、技術的には可能で、可能ということは利用する人がいるかも知れない。
何もわかりません。

大切なのは「エコーチェンバー現象」と「チェリーピッキング」に陥らず、「コンコルド効果」に気をつけること。
そして今が認知戦の真っ只中であり見えない銃弾や地雷があなたのスマホから飛び出し続けていることに敏感になることが大事です。

「現実世界に陰謀なんて無い」「渡辺君は滑稽のまま」というのが真実になるか。
「現実世界に陰謀がある」「渡辺君は救世主となる」というのが真実になるか。
このマンガも、このマンガが生まれてしまったこの現実も、どちらも面白すぎるでしょう。

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