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200年分の絶望と完全なる孤独 『ブラッシュアップライフ』第8話

ブラッシュアップライフ』第8話は、とても深い悲しみと、人生観の刷新と、強い希望に満ちたお話でした。
以下ネタバレを含みます。


第8話のあらすじを軽く。
宇野真里(通称まりりん。水川あさみ)から人生を繰り返していることを明かされ、お互いに情報の共有が行われました。
あーちん(安藤サクラ)の人生では仲良し3人組でしたが、実はまりりんが人生をやり直す前はまりりんを含めての4人組だったのです。4人の軽妙な会話は3人の時よりもさらに楽しく、ずっと聴いていたくなる魅力にあふれていました。
そしてあーちんは衝撃的で悲しい事実を知ります。
まりりんの人生ではなっち(夏帆)とみーぽん(木南晴夏)が飛行機事故で亡くなっていたのです。
その後あーちんとまりりんは悲しみ続けたそうです。そしてまりりんが62歳で亡くなり、あの白い空間で人生をやり直せることを知りました。
なっちとみーぽんを救えるかも知れない。
まりりんはそう考え、パイロットとなり乗客全員を救うために幼少期から努力し続けました。その結果仲良し4人組になる機会は失われてしまったのでした。

第8話のあらすじを踏まえた上で、今回は「悲しみの深さ」について考えたいと思います。

■ 200年分の絶望


ドラマの構成と説明がとても丁寧でわかりやすく、各所に笑いを誘うシーンがあるため暗くならないようになっていますが、あーちんが感じたようにまりりんはとても深い悲しみの記憶と共に生き続けています。
ポイントは「ありえない年数」と「完全なる孤独」です。

僕たちは物心ついた時から今の年齢になるまでの年数を記憶しています。そして忘れている記憶も多かったりしながらも、印象的な出来事などの大事な思い出やつらい過去と共に生きています。

まりりんの場合は最初の人生でなっちとみーぽんを亡くし62歳まで生きました。2人が居ない世界を約30年ほど生きたわけです。
そして人生をやり直し0歳から2人を救う人生を歩みます。2回目の人生では自分のせいであーちんを死なせてしまい、なっちとみーぽんを救うことも出来なかったまりりんの悲しみと絶望感と後悔は想像を絶するものでしょう。
最初の人生の約30年は深い悲しみと「もしあの時にああしていれば」と無数に湧いて出る後悔と共に。そして2回目の人生の約30年は「パイロットになって救うんだ」という希望と「3人と仲良しになれなかった」というさみしさと共に過ごし、その結果予期せずあーちんを亡くし、続けてなっちとみーぽんも救えなかったのですから、計60年間背負い続けた重みは相当なものでしょう。
ドラマでは数分にまとめられていましたが、実際には還暦分の時間を悲しんだり希望を抱いたりして過ごしているわけです。
その後まりりんは絶望のまま40代で死去し、3回目の人生ではあーちんも救うと決意しますが事故に遭ってしまいます。4回目の人生も事故死で現在が5回目でした。次こそはなっちとみーぽん、そして飛行機の乗客を救うと決意を固くしました。

以上のように、まりりんは合計で約200年近く時を過ごしていることになります。人はせいぜい平均寿命の80年くらいの時間幅でしか物事を考えられません。僕なんかは1年先すら考えず「来週のドラマ、映画、漫画楽しみだなー」くらいの感覚で生きています。
それなのにまりりんは200年も。しかも2回目以降は0歳から死ぬまでの時間を、過去の記憶を維持しながら悲しみと共に生きているわけです。

■ 完全なる孤独


まりりんの200年は最初の約30年を除き完全に孤独でした。
3人と仲良しになれず、一番楽しかったあの日は永久に来ず、この先なっちとみーぽんが死んでしまうのに誰にも助けを頼めない。
最初の30年の記憶は世界から消滅してしまい、まりりんの中にしか存在しません。
そしてある程度予想が付く毎日をやり過ごし、入学や交際など出会いの喜びも別れの悲しみも毎回同じように繰り返し、きっと感情は薄れていったことでしょう。

もう仲良しではないなっちとみーぽんを救うための人生を孤独に生きる。
あーちんも人生をやり直していると勘付いた時はとてつも無い喜びだったことでしょう。
あの時の仲良し4人組ではありませんが、あらたにあーちんとは「ブラッシュアップライフ仲間」として人生を生きられるのですから。
この時にようやくまりりんは完全なる孤独から解放されました。
もちろん仲良しの記憶が存在しないあーちんですが、それでもあの白い空間や受付係の男のことなど、共感できる話題で盛り上がれたのはものすごく楽しかったことでしょう。

そしてこのドラマのすごいところは「完全なる孤独」がまりりんからあーちんに引き継がれる展開を用意しているところです。
まりりんは飛行機事故を回避出来ず、なっちとみーぽんと共に亡くなってしまいました。
葬式から帰るあーちんのあの道での表情は忘れられません。
まりりんから話を聞いていた分だけさらに強く深い悲しみに包まれたことでしょう。
まりりんも居ない、仲良しではなくなってしまったけどなっちとみーぽんも居ない世界を粛々と生き続けるあーちんはおそらくもう感情が動かなくなっていたのではないでしょうか。
39歳で工事現場の落下物事故に巻き込まれた際は、過去の死亡時とは反応が大きく異なりました。
きっと生きる価値の無い世界だったからでしょう。来世こそ人間になるという決意のもとに繰り返してきた人生ですが、それすらもどうでも良くなっていたのかも知れません。
次は人間になれると知った時に驚きこそすれ喜ぶことはありませんでした。
それよりもなっちとみーぽんとまりりんを救える可能性があるならばとやり直す今世を選びます。
その時にあーちんが微笑んでいるのが希望を感じさせとても印象的でした。
今度は「ブラッシュアップライフ仲間」のまりりんも居るからきっと大丈夫です。

■ 最後に


僕は感情が動く作品が好きです。
日常が変容してしまう作品が好きです。
見る前と後で日常の景色や考え方を変えられてしまうような作品が好きです。
ブラッシュアップライフ』はとても楽しくて、面白くて、だからこそとても悲しい作品です。

市役所時代の河口さん(三浦透子)も人生をやり直していることが判明し、しかも8回目で、しかも同じように毎回生きていることが明かされました。
最後にウルフルズの『笑えれば』が流れてあーちん5回目の人生がスタートしましたが、まりりん1回目の人生と同じようにとにかく4人仲良く笑えるような人生になって欲しいです。

ウルフルズは4人組のバンドで、まりりん1回目の人生でも4人組のアーティストSPEEDの『White Love』を車中で歌っていました。
最終回は4人で仲良くZONEの『secret base 〜君がくれたもの〜』を歌って欲しいです。
この曲はカラオケで3人が歌ってましたが、まりりん1回目の人生ではきっと4人で歌ってたはずです。
まりりんが3人に「この曲4人でよく歌ってたんだよねー」って言って「歌おー」ってなっちが言って。それで「10年後の8月にもまた会おうね」って言って。「なげーよ。来月くらいにまた会おうよ」ってみーぽんが言って。
みんなで笑いながらまりりんとあーちんは飛行機事故を阻止するためフライトに向かうんです。

いよいよ最終章。
一時も見逃すことなく刮目して見ます。

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