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【読書感想文】自殺した少年は前世をやり直せるのか?『カラフル』(森 絵都)

おすすめポイント

とにかく読みやすい!

持っている小説の中で1番読みやすいかも?

さらに心に残る場面や物語全体を通して考えさせられることが非常に多いストーリーです。

印象に残っているセリフは何年経ってもふとした瞬間に思い出すので、私の一部になっていると言っても過言ではありません。

レビュー


読みやすさ             ★★★★★
怖さ                      ☆☆☆☆☆
おもしろさ             ★★★★★
わくわく感             ★★★★★
何度も読み直したい ★★★★★

あらすじ&感想

主人公の“ぼく”の魂は、生前に犯した罪により、輪廻のサイクルから外されてしまいます。

しかし、あることを条件に輪廻のサイクルに戻るチャンスを与えられます。

それは

自殺を図って生死をさまよっている小林 真の体にホームステイし、犯した罪を思い出す

という条件です。

ぼくはホームステイをしている中で、人間の裏側や、本音、更には友情や家族愛などを知ることになります。

途中まで読んで、私は小林 真に深く同情しました。

父親の仕事に対する考えには落胆するし、母親は不倫。

兄は冷淡で真のことを馬鹿にしています。

そんな悩みを相談できる友達もいないし、好きな女の子は援助交際をしています。

一方、鬱陶しく思う同級生にはしつこく付きまとわれます。

真の災難は人間関係だけではありません。

身長は低く外見もパッとせず、勉強は驚くほどできません。

……自殺しても無理ない。

しかし、真の自殺は非常に衝動的でした。

そしてその“衝動性”が怖いということ。

もし、真に1人でも悩みを相談できる友達がいたら。

勉強や運動などの秀でた能力があり、先生や親から褒められることで承認欲求が満たされていたら。

もし小説でなければ、これらはただの“たられば”です。

人の死というものは取り返しがつきません。

今の私には相談できる友達がいます。

真にも誰かいれば救われたかもしれません。

しかし、更に読み進めると、真の不運を否定する事実にいくつか気づき始めます。

母親が真と本気で向き合い始め、父親も真との話し合いの場を設けようとするのです。

兄の優しさを知る出来事もあります。

さらに友人もでき、真の変化に敏感に気づいてくれる友達がいることにも気づきます。

また、絵の才能も認められ、進学への道も開けます。

もしかして真の人生そんなに悪くないのでは?

つまり、真に足りなかったのは些細な“気づき”だったのです。

自殺以前の真は両親、兄、友達、好きな女の子の一部分だけを見て、決めつけていました。

相手と話し合おうとせず、1人で悩み、気に病んだ結果の自殺だったのです。

人間は大切な人、身近な人ほど

「相手のことを理解したい」
「自分のことを分かってほしい」


と思います。

しかし先に来る感情は後者であることが多いのではないでしょうか。

相手のことを理解しようと努力する前に

「何故自分のことを分かってくれないのか」

と嫌になって逃げだすことが多いのです。

私もそれが良くないことと知っていますが、ときに“知ること”は“怖いこと”とも思います。

しかし、ホームステイ後の真は徐々に“他者を理解しようと努力”をするようになるのです。

そして“カラフル”には一生心に残るような名言が数多くあります。

以下真が片想いをしていた桑原ひろかのセリフです。

ほとんどの女性が彼女のセリフに共感できると思います。

きれいな服も、バッグも指輪も、ひろかは今ほしいの。大人になってからほしいなんて思ったことないの。どうせひろかの体なんておばさんになったらもう価値なくなっちゃうんだし、価値なくなってからきれいなもの買ってもしょうがないもん。エプロンやババシャツの似合う年齢になったら、ひろかはおとなしく、エプロンやババシャツを着るよ。

文春文庫 カラフル 著者 森 絵都 p88

真が桑原ひろかの援助交際を止めようとして論破されたときのセリフです。

彼女は中学生にして、

“自分の価値”

を真剣に考え、思い悩んでいることに驚かされました。

大流行しているパパ活のことを連想させられます。

需要と供給が一致している“均衡市場”であれば何をしても構わない。

そのことを若者が理解し、実行しているのが現実です。

三日にいちどはエッチしたいけど、一週間にいちどは尼寺に入りたくなるの。十日にいちどは新しい服を買って、二十日にいちどはアクセサリーもほしい。牛肉は毎日食べたいし、ほんとは長生きしたいけど、一日おきに死にたくなるの。ひろか、ほんとにへんじゃない?

文春文庫 カラフル 著者 森 絵都 p187

ひろかは自分のことを異常だと思い込み、真に助けを求めます。

「この異常な考えは自分だけが持っているものではなく、皆が同じように持っているものだと言ってほしい」

そんな願望が含まれるセリフです。

もう1箇所、印象に残るセリフがあります。真の友人である早乙女くんのセリフ。

おれ、子供のころからわりと、誰とでも仲良くできるほうだったんだけど、どうしてもひとりだけ、苦手なやつがいたんだよ。同じグループなのに、そいつとだけはうまくしゃべれなくて、ふたりきりになるとしんとしちゃって、気まずくって。そいつもおれとふたりきりになるの避けてたみたいだから、おれ、きらわれてるんだと思ってた。でもある日の放課後、みんなでグラウンドに残って遊んでたらさ、やけにそいつと気が合うんだ。すごい自然にしゃべれて、げらげら笑いあったりもしちゃって……。なんかおれ、えらいうれしかったんだ。もう大丈夫だ、明日からは仲良くやっていけるって。で、つぎの朝、うきうき学校に行ったら、そいつはまたもとの気まずい相手にもどってたわけ。

文春文庫 カラフル 著者 森 絵都 p216-217

こちらも共感できます。

大勢で遊んでいるときは仲の良い友人なのに、2人きりになると何だか気まずい。

要は1対1で向き合うことが“お互い”苦手なのです。

また、昨日は仲良く盛り上がっていたのに、今日は気まずいというのもよくあること。

昨日と今日は全く別物で、昨日の同じテンションの2人には戻れないからじゃないですかね。

本当の意味で仲良くなるためには、長い間同じ時間を共有することや絆を深める大きなきっかけが必要なのかもしれません。

最後に。

そもそもこの小説は「読書が苦手な人でも読みやすい」と友人に勧められた本です。

しかし、それは“小学生や中学生にも理解しやすく読みやすい”という意味ではないように思います。

色々な意味でこの小説は“重い”から。

これからも私は「カラフル」を繰り返し読むことになりそうです。

皆さんもぜひ、手に取ってみてください。

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